リーザが砦で騎士になりたかった理由
ベヘモット戦車使えませでした
マンドラゴラ採取を切り上げた俺達は、魔の森の出口目指して歩いていた。
もともと俺達は森の切れ目から森の中に入っただけだ。馬車にて土と植木鉢と俺達を森の入り口まで運び、そこから俺が園芸カートを引いて森に入っての作業であったのだ。
さて俺達が普通の馬車だけを使い、あんなにもヴァルターに使用許可を強請ったデュッセンドルフ砦のベヘモット専用戦車を使わないのには理由がある。
あれは「使えないモノ」認定され、存在自体を砦から抹消されたからだ。
なぜかは言わなくても理解されることと思うが、猫に戦車は任せられない、だ。
ベヘモットが戦車を牽くのを嫌がったから、ではない。
自由な魔獣でもあるベヘモットが、戦車を牽く役目を嫌がるのは想定済みだ。
ただし、ベヘモットが人死にが出るくらいの勢いで戦車を振り回すことは想定外だったらしいが、試乗した人物が楽しんでいたのだからそこは問題ではない。
では戦車の開発中止に封印を決定した理由は何か、といえば、猫が動く物を襲わないわけがない、を開発者達が思い出したからである。
ヒャッハーしている試乗担当のオズワルドの楽しそうな声に、魔獣騎士団達が上げる口笛や野卑た掛け声、そして俺の「もうやめて!」とオズワルドにあげた甲高い半悲鳴の懇願の声。それらの騒音によってウズウズ状態となったベヘモット達が砦の厩を壊して飛び出して来たって聞けば、その後に起こったことは想像できるだろう。
厩を逃げ出したベヘモット達は、まっしぐらに試乗会場にやって来て、オズワルド入りの戦車目掛けて飛び掛かったのである。オズワルドの愛騎が牽くオズワルド入り戦車は、べへモス達には良いアクロバティック猫じゃらしだっただろう。
以上、戦車が封印されて俺が馬車で移動している理由である。
よくオズワルドは死ななかったな。
ところで、俺がベヘモット戦車の封印について思いを馳せているのは、同じように時間と労力を無駄に使っていた少女と隣り合わせて歩いているからだろう。
マンドラゴラ採取をさっさと切り上げて帰る最中なのだが、俺達を迎えに来る馬車との待ち合わせ場所が近づくにつれ、リーザがどんどんと落ち込んでいくのだ。
足運びもどんどん足が重くなっているような、とぼ、とぼ、とぼ、だ。
もう来るなと何度言い含めても我が家の玄関ベルを押したリーザが。
家具は壊され生ごみをぶちまけられた部屋にて、誰にも助けを求めずに部屋の中でテント生活をしていた子が。
俺は隣の少女の報われない恋心を思い、そっと溜息を吐く。
いいとこを見せたくて頑張っていた彼女の想い人は、やはり、ケヴィンかな。
人の恋心に俺は何とも言えないと、彼女から前方へと視線を戻す。
木々の重なりから鬱蒼が消え、光を遮るすだれみたいな感じになっている。
もうすぐ森は切れる。
本当に魔の森は後退したんだなあ。
そう考えた瞬間、ヂヂヂと魔鼠の鳴き声が聞こえた。俺はびくっと視線を動かせば、そのコケかヘドロを被ったような色合いの魔鼠が何かに弾かれて逃げて行った後ろ姿だけである。
やっぱりすごいな、と俺はリーザが牽く園芸カートの荷台を見る。
カートの荷台に並べられた八鉢のマンドラゴラさん達が、保育園の散歩に行く園児達みたいにして葉っぱを楽しそうにゆさゆさ揺らしていやがるぜ。
その中で、花模様がある鉢に植えられている奴が異様に元気である。
今回マンドラゴラ採取の魔獣除け担当草である、採取第一号鉢さんだ。
俺の出発に合わせてヴァルターが持って来たのだ。
どこかで(恐らくも何もオズワルドから)、俺のマンドラゴラ採取に魔獣除けとしてマンドラゴラの鉢が必要で、俺が魔の森に入る前に安全地帯から鉢を持って来なければいけないって(面倒だという愚痴を)聞いたのだろう。
鉢を持って来たヴァルターが言うには、自室に置かれた鉢に(多分どころか微かな望みを賭けて)尋ねたのだそうだ。俺の出発に「君が行くか」と。
「良かった行く前に間に合って。葉っぱが「行く行く」という感じでうねったから連れてきた。鉢を抱き上げても叫ばなかったし、この子は君と一緒に行きたいに違いない。連れて行ってあげて」
だけど多分、このマンドラゴラは「散歩に行く」ぐらいの気持だと俺は思う。
帰り道である今の、あの葉っぱの有頂天ダンスを見れば。
俺は鉢を持って来たヴァルターの嬉しそうな顔を思い浮かべ、鉢を返す時には彼がどんな顔になるのかと想像して楽しくなった。
「ヴァルターの顔が見ものだな」
「…………砦の無駄飯ぐらいでしかないなら、もうあきらめた方がいいよね」
ガサツなリーザにしては俺におもねるような聞き方? 俺は女性騎士の中では一番人の気持を推し測れる人へと顔を向け、口パクで「ヴァルター?」と聞き返す。
アーニャは眉根を寄せた難しい顔で、そうだという風に大きく頷いた。
「まじかって、痛い」
リーザはそのまま歩いていたんで、振り返ってしまってた俺の踵にカートの車輪がぶつかったのだ。
「あ、ごめん」
「いいよ。立ち止まった俺が悪い。ただカートを少し下げて。車輪が靴噛んだ」
「靴、駄目になって無い? 私ったら、本当に何もできない」
リーザは謝罪のために頭を下げ、ついでに俺の履物を目にしたのかな。
なんだか動かなくなった。
「これ何?」
俺が履いているのが足袋風靴下となんちゃって雪駄である。
今回のマンドラゴラ採取の仕事を与えられた事で、この世界の靴じゃ一日でマメが出来て死ぬだろうってことで作ったのだ。
雪駄は本来は竹皮草履に革が打ち付けられているものだが、硬さの違う魔獣の皮を表裏で打ち合わせて作ってある。小学生の自由研究かなにかで布草履を作った覚えがあるので、表も革にせずに草履を編んでも良かったのだが、紙にこんなのって描いて渡したらホラルドが作ってくれたのだ。
オズワルドに前世チートを褒められるどころか奴隷製造機なんて罵られたけど、オズワルドこそ雪駄気に入ってるじゃん。家では裸足で雪駄ガシガシでの寛ぎようじゃないか。
あと、足袋風靴下はマーガレットさんが編んでくれた。なんか女性騎士達を放逐してくれたお礼だとかなんとか。その気持ちを狙って足袋型の靴下編める人を紹介してもらおうと思ったら、彼女自身が編んでくれたとは!
ウールの靴下は温かいし、裏にスライムから作った滑り止め? ゴムみたいなの? を付ければ雪駄との密着感アップ!
「疲れやすい俺が泥の中でも歩きやすいシューズ?」
「……そう。でも、防御力無いんだね」
「うん。だから次は気を付けて」
「うん。……ごめんなさい。ブリューは優しいね。だからヴァルター様もブリューが大好きなんだね。出発前には、わざわざブリューにだけは会いに行くし。うぐ。私がブリューに勝てるの、女だってことだけだ」
「――顔あげて。それで、ええと、そんなにヴァルターに会いたいんなら、第一号鉢を返しに行く時に一緒に行こうか? 紹介してやるよ」
「……そうだね。私のことなんかヴァルター様は覚えてるわけ無い。まずは、紹介こそ必要だね」
「安心しろ。第一班班長が誰かも忘れていた男だ。あと出会いがこの一年以内じゃなければ、覚えて貰ってたほうが望みないぞ。あいつには幼女趣味はない」
「残念。十歳くらいの私は物凄い美少女だったのに」
「ちゃんと今も美少女だよ」
ぶわぁっとリーザが顔を上げた。
俺はついにリーザの黄色の触手攻撃を見極め……られなかったけど、リーザが俺を見る目はいつもとは違ってた。いや、最初に見た瞳の感じだ。
無駄にライトノベルのヒロインみたく瞳がキラキラしてる。
ちょっとぐだってましてすいません。
ブリューは人の恋愛話に基本興味ない人なんで、話が全然盛り上がらない。
デニーもオズワルドもいないし。




