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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第三章 魔の森はこうして後退せざるを得なかった

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魔の森開拓プロジェクト推進中

魔獣騎士団達は魔の森を焼野原にする作戦を決行することを決断し、作戦名を第一次魔の森開拓戦線とした。


ただし、この作戦はスタンピードを招く恐れが高いので、もしもの際は領民の避難と守護に動く砦の主戦力である正規軍との連携と承認が必要となる。

もちろん正規軍の元締めである辺境伯は、「承認できるか」の一言。


ということで、作戦が実際に決行できるのはいつになるやら。


けれどスタンピードの発生まで、あと二か月もないのだ。

俺の前の世界ではオズワルドがいなかったからだけど、スタンピードによりデュッセンドルフ領の半分近くの領土が瓦解してしまったのである。


俺が七歳までデュッセンドルフ領の悲劇を知らなかったのは、オルディアート国の中央が緘口令を強いていたからだ。

言えるはずない。

スタンピードよりも難民の流入に脅えた隣領が、デュッセンドルフ領を助けるどころか、領地が接するところにバリケードを築き上げて領兵を立たせたなんて。


国や隣領を脅威から守ってきたはずのデュッセンドルフ領の人々は、国や隣領から救援を受けるどころか、魔獣と一緒に領地内に封じ込められたのだ。

ケヴィンが亡くなったあとに、俺がヴァルタ―から聞いた話では。


王都に残るケヴィンは、生き残った領民とヴァルターにとっては「希望」だったことだろう。ケヴィンが王都の貴族を説得し、援助物資と兵を率いて助けに来てくれる。閉じ込められた人々は、その日を夢見ることが生き抜く望みだったのだ。


それなのにケヴィンは、学園で起きたアンデッド災厄にてアンデッド化する可能性があるからと、あっさりと、生きたまま処分されたのである。


学園の建物ごと爆破されたのだから、ケヴィンの遺品など何も残っていなかった。

死の前に書かされた遺書と、俺の茶会への欠席の返信だけである。

俺からその返信を受け取ってヴェルタ―が泣いたあたり、あの「待つんじゃない」を知らせる歌の歌詞は、ケヴィンが(ヴァルター)にあてた遺書だったのかもしれない。


そしてヴァルターが望んだ、学園でアンデッドの災厄が起きる前に俺は戻れず、ヴァルターをさらに絶望させた。俺がここに戻って来れたのは、生贄が必要だと自害してみせたエルマーによってだ。


エルマーが願い、俺が戻れたのはオズワルドが死ぬ日。


俺は最近思うのだが、俺が戻れる日は歴史を変えられる節目じゃないと駄目なんじゃ無いだろうか、ということだ。だから、ケヴィンが死ぬ前に戻れなかったのではないのか。確かにケヴィンを生かしたとしても、アンデッドが跋扈する世界が来ないとは言い切れないものな。


「ということは、ここが踏ん張り時なんだ」


「ギイヤアアアアアアアアアアアアアアアア」


俺は両耳を押える。

物思いから覚めたどころか意識まで飛ばされそうな悲鳴の主は、もちマンドラゴラさんだ。悲鳴が起きた方へと振り返れば、俺の後方数メートル先でツインテールの少女が倒れていた。彼女は俺と一緒にマンドラゴラ採取をしていたのだ。


リーザが採取待ちのマンドラゴラさんに悲鳴を上げさせたのは何度目だ?

即死攻撃じゃなくて、五分で目覚める気絶攻撃で済んでることを喜べ。

俺は倒れたリーザを避け、リーザが確保しようとしてたマンドラゴラの周囲へとスコップを入れる。俺が代りにしてやるのも何度目だ。


「リーザはほっとくんですか?」


ビクビクって感じで俺を伺うのは、女性騎士のヘレンさんだ。

彼女は虚弱なのか顔色が常に青白く、顎の長さのストレートボブの灰色の髪が膨らんでいるせいかカツラみたいに見えるほど。頬骨の出た細い顔と同じく体つきも骨皮っぽくて病弱そうで、俺開催のバトルロイヤルでガチに戦ってはいたけど、この俺が途中で試合を止めたくなるほどに弱かった。

そんな彼女だ。小型犬みたいにびくびくしているのは、寒いだけだよね。


「学習しない奴は目を開けている方が邪魔だからね」


「いやだこの子怖い! 帰るとこも食うものがなくても、あたしも砦を出ればよかった」


ヘレンは俺への聞き捨てならないことを叫んで、近くでしゃがんでいる同僚に抱きついた。急に肩に乗った重みに嫌そうに顔を上げたのは、癖のある赤茶色の髪にそばかすが散った顔が人好きするアーニャさんだ。


「うるせえな。出たきゃ出ろよ。邪魔すんな」


アーニャさんは、顔は人好きするが、性格は人払いする人だなあ。

けれどそんな彼女こそ怖いのか、マンドラゴラを前にずっとしゃがんでいる姿勢のまま硬直してただけだ。


ということは、ああ、アーニャの目の前のマンドラさんも俺が掘るのか。


そしてヘレンは、割り当てしたマンドラゴラを採取するどころか近づきもしない。ヘレンは脅えてフラフラしているだけだ。今は頼ったアーニャにも拒絶されて寄る辺が無さすぎて不安なのか、やっぱり小型犬のようにして身を縮めてブルブル震えてる。うざい。


「アーニャ。ヘレンに当たるな」


怖いアーニャを諫めたのは、巻きが強い黒髪を俺よりも短い長さにしているが、今まで名前を上げた三人の誰よりも美人なジゼットさんだ。艶やかな褐色肌に緑色の瞳で、小柄な体も相まって猫みたいだ。同僚を諫めた彼女は、マンドラゴラ入りの鉢を園芸カートに慎重に乗せた。

えらい。

彼女だけはマンドラゴラをちゃんと採取できる人だし、美人だし、ヴァルターに勧めてみるか?


「ヘレンのせいでブリュー様がさらに怖くなるって脅えるのは分かるけど、ヘレンに仕事させる方がブリュー様の怒りは少ないはずだ」


ジゼットさん、それ俺の前で言わんほうがいい台詞。

ヴァルターにジゼットを勧める道をスパッと切り捨て、俺は溜息を吐く。


俺は一人の方が良かったなあ、と。


女性騎士四人と俺は、これからオズワルド達が焼く予定地にて、マンドラゴラ採取をしているのである。


オズワルド達は開拓する土地の広さを畑四枚ほどと決めた。

こっちの世界でも畑一枚は一ヘクタールぐらいの広さである。わかりやすく言えば、サッカースタジアムのピッチ(105m×68m)と同じ広さかな。

元の安全地帯のテニスコート(23.77m×8.23m)の三枚分を足した畑四枚分の広さは(約26280㎡)、東京ドーム(46755㎡)の半分ちょいな広さである。


そんな広さの中を歩いて、ちまちま生えているマンドラゴラを採取するのは、俺一人じゃ無理かもと相談した俺が馬鹿だった。

相談相手はオズワルドだよ? 

オズワルドは、面倒なのはエルマーに投げるんだよ?


それでこの役立たず三人と、ちゃんと働いてくれるジゼットと俺、というメンバーなのだ。エルマーがこのメンバーに決めた理由を、この状態のまんまだったら彼女達に教えてやりたいよ。

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