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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第三章 魔の森はこうして後退せざるを得なかった

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ブリューとマンドラゴラさんとモテない男

俺はいともあっさりとマンドラゴラを手に入れた。

そんな快挙の証拠となる初マンドラゴラは、マンドラゴラ第一号鉢と砦の記録簿に正式に記載され、現物はヴァルターの執務室の窓際に置かれることになった。

というか、危険な植物のマンドラゴラを砦外に出したらいけないってヴァルターが言うし。


「置かれることになったって勝手に決めるな。なんで俺の部屋だよ?」


「だって、ヴァルターが言う通り、鉢を倒したらどうなるかわからないし、マンドラゴラの気分を害してしまったらどんな目に遭わされるのかわからない危険なものじゃない? だから、日当たりが良くて風通りもよくて、秘密保持ができる機密性もあって、変な女が勝手に入り込むことも無い、とか考えるとヴァルターの執務室が一番かなって」


「マンドラゴラよりもブリューこそ元居た場所に返して来いと、グラナータに言ってやりたいな」


「オズワルドは魔獣騎士団で作戦会議中。魔の森を効率的に焼くための計画を練っている。それに合わせてマンドラゴラさんの救出もあるから、俺にベヘモットさんで牽く戦車(チェリオット)を貸してあげる許可ください」


「ブリュー。会話はキャッチボールだって知っているよね。俺が投げたボールを避けて、新たなボールを剛速球で投げてくるのは止めて」


「チェリオット借りれるまでオズワルドが帰って来るなって。貸して!」


「嘘吐き。それで多分だけど、ブリューはチェリオット見たいが先?」


「わりと。そんなんあったんだって感じ。でも必要なのは本当。大量の園芸用土と植木鉢を運べて、魔の森に乗り入れることができる乗り物が必要なんです」


「どれだけマンドラゴラを採取するつもりだ?」


「オズワルドが焼くと決めた一帯に生えているものは全部。だから大量の土と大量の鉢を運ばなきゃなんです」


「大量に採取して運んできても、俺の部屋には置けないぞ」


「オズワルド達が作った安全地帯に置くから大丈夫だよ」


「あぁ?」

「あっ」


俺はお喋りな自分の口元を手で隠す。

ヴァルターは口の端がぴくぴく痙攣しているという、激おこな笑顔を俺に見せつけている。俺は五歳児な気持ちと顔付きで、首をこてんと傾けた。

僕わかんないって感じのボディランゲージ。


「置き場所があるなら、俺の部屋に鉢を置く必要ないよな?」


「なんか腕が疲れちゃって」


「……わかった。我が領で開発された戦車(チェリオット)を出す。交換条件として、俺の部屋に置いたそれは片付けてくれるか?」


「それがヴァルターの望みでしたら了解です。良い日当たりで気持ちよさそうにしてますが、ヴァルターの望みですからね」


「俺の母はお前のどこを見て、俺とケヴィンよりも可愛いと言ってるのだろうな」


ヴァルターは乱暴にチェリオットの使用許可書を書き上げると、それを俺の胸に押し付ける感じで手渡した。俺はそれを大事に受け取ってポケットにしまうと、鉢を置いた窓辺へと駆け寄った。そして約束通りにマンドラゴラさんの鉢を片付けねばなと、鉢に手をかける。


「ギイヤアアアアアアアアアアアアアアアア」


耳をつんざく大きな悲鳴。

その瞬間に俺は足をずりっと滑らし、体が宙に浮いた。


ヤバい!


けれど、俺は大きく転倒して頭を床にぶつけはしなかった。

俺に差し出されたしっかりした腕に支えられ、抱き留められたのだ。


「死んでいないな」


「死にそうなぐらいに心臓がドキドキしています。今のが即死魔法?」


「の、わけあるか。――全く、肝を冷やさせやがって」


「ハハハ。でも流石ヴァルターだ。身のこなしが凄い」


「今さら褒めたってお前の評価は上がらないぞ」


「ひっどい」


「――ブリュー」


「何?」


「君の世界では俺は君にどんな姿を見せていたのかな?」


俺をしっかりと立たせ直してくれたヴァルターは、俺を見つめる。

俺こそヴァルターを見上げ、今のヴァルターでいて欲しいと願いながら伝えた。


「いまと全然違う姿ですよ」


まだ絶望だけの険しい顔になってはいなかったし、眠れない日々をお酒で誤魔化しての白目の濁りもない。

今と全く違う。世界に絶望してすさんでいたけれど、でも、ヴァルターが望んだ過去のやり直しができなくても俺を責めなかった。

あなたは優しいばかりだった。


「もうどうしようもない世界なのに、戦える人を集め、か弱き人達をまとめ、皆の希望として立ってたよ。皆の希望であるために鋼鉄な人を演じてた。だからあなたは一人ぼっちだった。オズワルドが酔っ払って川でおっ死んでたせいで、魔獣騎士団だって壊滅してたしね」


ヴァルターはオズワルドの死因の部分で、顔を背けてせき込む感じで笑いを隠した。だが、俺再び向けた顔は真面目そのものだった。

ケヴィンを生き帰らせたいと、俺に頼みに来たあの顔を彷彿とさせる。


「どんな世界だったんだ?」


「スタンピードのせいで、魔の森はデュッセンドルフの半分を飲み込んだ。それだけでなく、アンデッドの発生もあったんだ。魔獣にアンデッドが跋扈する世界は、それはもう大変だった」


「そうか、最悪だな。そんな世界で俺は指導者をしていたんだ。――ということは、デュッセンドルフは俺以外が全部死に絶えたってことだな」


「だから出来る限り俺が知っている世界と違う風にしたい」


「だからって俺に見合いを勧めるな」


「カリンナさんとの見合いを設定するのは俺も遺憾の意なんですけど、カリンナさんたら話聞かないし色々面倒で。カリンナさんは推薦状を貰えるか、ヴァルターと直接会えれば満足らしいですよ」


あのデニーを親戚の子供みたいに扱う女将の宿にカリンナが泊っているせいで、デニーは留守番していた昨日、あの女将に「カリンナに手助けしてあげてよ」という寝言とか、デニー自身の結婚話を持ち込まれたそうだ。

俺が何とかしなきゃ案件なのである。


「――ところで、カリンナって誰?」


「………。この間の大量女性騎士解雇の時の女性騎士の一人です」


「全く覚えていない。それで彼女は俺に会えれば、か。会って何か変わるのか?」


「一般的に美人の部類に入りますので、ヴァルターさんが惚れてくれるかもって淡い期待? あるいは十代の頃に出会っていて、自分を忘れ去っていたヴァルターに一言でも物申したい?」


「…………。カリンナはこの領の出身か?」


「王都です」


「マジで接点なくないか?」


「会ってみる?」


「思い込みが強すぎる女性はちょっと。だが、どうして自分に拘るのかわからないのも気持ち悪い。ブリューが同席してくれるなら会う」


「どんだけ弱腰ですか。ないわ~」


「ある。いいな。カリンナと会わせたいならブリューの同席は絶対だ」


俺はクシャッと顔を歪めて見せる。

ヴァルターはフッと微笑む。目が笑ってない。


「わかった。同席する。それじゃ、そろそろオズワルドのとこに戻りますんで」

「マンドラゴラはこの部屋に置いておけ」


「いいの?」


「移動させようとすると、また叫ぶぞ」


「ですね。草の癖に自己主張が激し過ぎ。喜んで鉢に入ってきた奴らは素直に魔の森に植え直されてくれますかね」


「説得でもしてみたら? 同じ園芸種同士、でしょ? 君は畑から生まれたんだっけ? ハハハ」


むかっ腹!

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