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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第三章 魔の森はこうして後退せざるを得なかった

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結婚して欲しいと願われているが君じゃない

俺とデニーがてくてくと商店街を歩いていると、釣れた。


ホラルドの店を出てまだ数分も経っていないのに、上品な旅装姿の長身女性が道を塞ぐように俺の目の前に立ったのである。


簡単すぎやしないかと俺は思ったが、一昨日はオズワルドの執務室に泊まり、昨日今日とオズワルドと常に一緒に行動しているならば、俺が一人になった今こそ狙い目と思うかもしれない。


昨日の魔の森行きは、護衛のデニーとじゃなくてオズワルドとのタンデムだ。

肩書きやら人間の上下関係ばかり気にしている人には、砦の英雄に寵愛を受けている俺の存在はとっても目障り何だろうな。

俺とオズワルドはBLな関係じゃ全然無い。というか、俺としては無いわ~な勢いなんだけどね。


今の俺は森蘭丸の気持がわかる気がする。妬みとか勘違いによる明後日な言いがかりとか、きっと彼も沢山かけられたんだろうと思うから。

俺は自分に声を掛けて来た黒髪の美人に対し、アルカイックな笑顔を返した。


「エルマーの言う通りだ。ブリュー様は火の中に入って行く」


と、デニーめ。


「デニー。独り言は自分以外には聞こえないように言うもんだよ?」


「そういうあなたこそ、従者を諫めるには声が大きすぎるんじゃなくて?」


カリンナは今日は俺とお喋りしたいようだ。

ちゃんと俺に話しかけているなあ、としみじみと見つめる。

彼女は俺の視線を受け、わざとらしく咳ばらいをした。

仕切り直しましょうってことかな。


「せっかくの再会ですし、お茶はどうかしら」


「いえいえ、お気になさらず」


「では、私が泊っている宿屋の食堂に行きましょう。山鳩亭よ」


行くって言ってないし。

本当にこの人は俺との会話をする気ないな。


「山鳩亭でしたら大丈夫です」


デニーがわかりやすく俺の耳に囁く。

デニー、内緒話も隠したい相手に聞かれないように囁くものだよ。

ほら、カリンナの口元がひくって歪んじゃった。


まあ、デニーは全部狙ってのその行為なんだけど。


純朴外見通りのデニーどこに行ってしまったの。俺は君が行方不明にした素朴さが大好きだったよ。

けど、まあ、デニーがせっかくお断りできる空気を作ってくれたんだから、


「私は先日の失礼をしてしまいましたから、それでお茶でもどうかと申しておりますの。あなたのお陰で先行きが不安になった者もおりますし、そちらについてご相談できればと思いますわ」


集団で俺への報復を考えていると仄めかしているのかな?

俺は無邪気そうに見えるはずの笑みをつくり、イイですよ、と答えた。


        ――――――――


カリンナに連れられて訪れた「山鳩亭」は、ふくよかな女主人が経営する料理が自慢らしいこじんまりした宿だった。清潔な食堂を見る限り、きっと客室もそれなりなのだろうと思った。


俺はカリンナの向かいに座り、デニーは勿論俺の後ろに立つ。

カリンナは俺が彼女の椅子を引いて座らせてから座った事が納得できないのか、注文もせずに俺を見つめているばかり。


腐っても伯爵家の息子なんだから、女性に椅子を引くぐらいするんだよ(怒)

俺達を案内した女主人も、俺達に興味津々な顔を隠さずテーブルの脇に立ったままだ。というか、女将はずっとここにいそうだ。俺が動かねばか。


「女将、ケーキはあるかな?」


「パイならば」


「ではそれを二つと、君はお茶で良いのかな?」


「え、ええ」


「ではそれで」


「あの、後ろの方は」


「デニーは僕の護衛です。ありがとう」


「いえ。……はあ。デニーあんた、イイ男になったと思ったら、貴族様の護衛なんかしてんのかい」


女将はデニーの腕を軽く叩いてから厨房へと消えた。

デニーをチラッと見れば、親戚のおばさん連中におしめの頃を暴露されたいい年の大人みたいな、恥ずかしさと忌々しさと愛情も混ぜるしかない顔をしていた。


「デニーもこの町が生まれ故郷なんだ」


「はい。母親は男作って逃げましたし、アル中の親父も随分前に死んでしまいましたから、帰る家も無いですけどね」


「ぐっ」


俺は胸を押えた。

デニーは時々こうやって俺の心を抉ってくる。俺に自分を捨てさせまいと? 捨てないんだからね、と後ろを盗み見れば、何か期待した顔で待っている。

言葉が欲しい? あざと! 純粋なるデニーは一体どこに行って(ry。


「どうしたの? 具合でも悪いの?」


カリンナが俺の心配をするとは!

俺は姿勢を正し、礼儀も正しい笑顔を彼女に向ける。


「それで、俺に話って何でしょう」


「責任を取って欲しいの」


「…………はい?」


「あなたのせいで女性騎士団は終わり。私には次の職用の推薦状も無いわ。デュッセンドルフ伯から推薦状を貰って来ていただけません?」


「砦を出る時に推薦状を辺境伯から頂けなかったのならば、それが辺境伯のあなたへの答えでは無いですか?」


「あら。辺境伯が直接に私には推薦状は書けないと言ってくだされば、その理由もお伺いできれば、私も納得できると思うのよ」


「辺境伯が自分の騎士でない者に直接会うと?」


「辺境伯ご自身じゃなく、代理の方でも私は納得できるわ。妙齢のヴァルター様が未だ独身なのは、出会いがないからとお聞きしてます。それが彼が男色家だからって噂に変わらないといいわね」


カリンナはにっこりと、俺に初めて笑顔を向けた。

俺がした事で迷惑を被ったから、ヴァルターとの見合いをセッティングしろと?


「彼が男色? ふざけたことを」


「あら、社交をご存じなあなたであれば、噂が簡単に真実となった出来事なんて沢山あるってご存じでしょうに」


女性に笑顔を向けられて、全く嬉しくないのはこれで二度目だ。

リーザとか。

俺は女性騎士はそんなに好きじゃないかもしれない。


騎士という事で闘争心という名の負けず嫌いだからなのか、自分の意思が通らない相手に対して「絶対に言う事聞かせてやる」な感じが嫌だ。

ドレスを着た淑女こそ策略家で他者に対して血も涙もないことができるけど、彼女達は要求すべき時と潮時をちゃんと心得ている。


「ヴァルター様があなたと会ったとして、そのまま砦を追い払われるだけですよ」


「それはあなたの見解ね。ヴァルター様はきっと違ってよ」


俺を真っ直ぐ見てそんな寝言を言えるとは。カリンナのせいで俺は、釣ってはいけないアブラソコムツを釣ってしまったような気になった。

それも知らずに美味しく食べてしまいました、の後みたいな。

バラムツ アブラソコムツ 

食べたらオムツが必要になってしまう、食べたら恐ろしいことが起きる魚です

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