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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第三章 魔の森はこうして後退せざるを得なかった

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英雄に全てを委ねればいいってわかってるけどね

俺が考案した釘打ち機(クルセイダー)は、俺の願いそのものだった。

それをオズワルドは分かっていた。

けれどわかったから彼は不機嫌になってしまった。

俺がクルセイダー片手に荒野を征くなんて思ったのだろうか。


「オズワルドには頼っている。でもね、アンデッドを一撃で仕留めるにはこれが必要だ。わかるだろう? 両親、友人、自分の子供、大事な人。アンデッドだとわかってても、自分の手で首を落とせやしない。だったら、引き金さえ引ければ終わる武器があればどうだ? 自分がアンデッドに変わっていくと絶望した奴は、自分の頭に向けて引き金を引けば、それで終わりとなる武器はどうだ? 俺は救済となるものが欲しいんだよ」


誰も殺せなかったから、扉の奥に閉じ込めておくしかなかった母さん。

あんな姿を、愛する家族の誰にも晒したくはなかっただろうに。


カタッ。

オズワルドがクルセイダーをカウンターに置いたのだ。

オズワルドは静かに置いたのに音が大きく響いて聞こえたのは、煩いばかりの奴らまで黙り込んでいるせいだろう。


「店主。こいつの特許出願が、今すぐ、絶対に、必要だ」


「はい。手続きをお願いします。それから、俺の分は良いです。特許料は全部、考案されたブリューさんが受け取っていただけるように」


「それは無し。ホラルド」


「ですが。開発費だって、あなたから金貨二枚も貰ってますよ」


「それは必要経費。開発で潰される給金の補填だよ」


「そこもわかんないです。いくら他の鍛冶屋には冒険者ギルドの一件で頼みづらいからって、俺を優遇し過ぎです。そんなことしなくても、俺はブリューさんから仕事を貰えるだけで嬉しいってのに」


ギルド認定鍛冶屋達に鍛冶屋の組合で、注文はネジだけと馬鹿にされてたせいで自信がないのかな。でもさ、同じ寸法で同じ形のネジを何十本何百本作れる手は、神職人の手でしょうに。


「いや、わかれよ。同じサイズのネジを何百と手で作れるって、物凄い技術力がその手にあるってことだよ。あと完璧を求めるその目と商品管理能力。俺が求めるモノはホラルドにしか作れない。だから、自信もって俺から金を踏んだくれ」


え、ホランドが胸に手を当てて俺に頭を下げた?

それで頭を上げた後の顔は、なんだか両目がキラキラしている上に涙が。


「ありがたき幸せ。鍛冶屋で良かったと、自分がこんなに誇らしく思えるなんて」


「たらしてる」

「やばい、デニー二号が出来てる」

「ここは積極的に俺達が係わった方が良いですよ」


魔獣騎士団の文字書ける組がこしょこしょと煩い。

けれど、この場の空気を何とかしてくれてありがたい。


「アルバン。クルセイダーの開発は魔獣騎士団も関わってくれた方が良いと思うから、特許料はさっき言ったように皆で頭割りで頼む」


「ホラルド二分の一で、後の二分の一はブリュー加えた皆でってやつ? お断りですよ」


「俺もアルバンに賛成。不労所得はいつの世も甘露な特権だけどな。頭割りが多いと計算が大変じゃないか」


「そうそう。ブリューは畑から出て来た子だからわかんないんだろうけど、不労所得なんか貰ったら税金が大変。だから、ブリューが全部貰いなさい。俺達は君が儲かった分でスタンガンがタダで貰えればいいから」


「わかったよ。でも、」


俺が消えたらって言おうとするのを、オズワルドが遮った。


「話は終わり。ほら、俺達の目的は違うだろう。店主。俺達の本来の目的は、お前さんが打ったデニーの剣みたいな奴を俺達にも打ってくれないかって奴だ」


「でも、あの、あの剣は」


「普通の剣をあの刃にするだけだったら、量産しても構わない」


ホラルドは俺と目を合わせ、デニーの仕込み杖タイプは作らせない、という俺の意思は了解したという風に目線で応える。仕込み杖については、ホラルドもロマンを感じて楽しく作ったからな。俺と意思疎通が終わったホランドは商人の目となり、改めてオズワルドに向かい合った。


「では、皆さんの希望の仕様をお伺いします。まずグラナータ様」


ホラルドはカウンターから仕様書を取り出し、木切れペンを掴んだ。

ペンは俺が教えた奴だが、こいつもホランドに教えたお陰で進化したよなあ、と感慨深い。


ちぃっ。


――なぜオズワルドから舌打が。


「その前に、お前が持っているペンは何だ?」


で、何でそんな高圧的な声?

ホラルドこそ脅えちゃって、俺に助けを求めるような目線だ。

俺は、もう何でも言っちゃって、という感じで頷いて見せる。


「ええと、ブリューさんが考案した木切れペンですよ。ご存じなかったですか? 羽ペンなんぞよりずっといいものです。木材屋で出た木切れを細い棒に切り出して貰いましてね、ブリューさん発案専用削り機で削れば、ほらこんな感じで」


ホラルドはメモ用紙を引っ張り出し、そこにキレイな線を引いて見せる。

それからまだ削っていない木の棒と専用削り機なる小さな四角の箱を持ち上げ、俺達の前で木の棒を専用削り器に差し込んで削って見せた。


削り器から出した木の棒の先は、あら不思議、俺が前世で見た鉛筆の尖った先っちょだ。鉛芯が入っていないけどね。


「こっちのインクつけた奴も、インクが乾いた後に削り直せばまた使えます。棒が短くなって使えなくなるまで使い倒せるし、削って出たカスは焚き付けに利用できるしで、良いものですよ。ブリューさんは凄いです」


「削り器を作ってくれたホラルドこそ凄いでしょ。ほんっと腕が良いよね」


「俺の腕を褒めるのはブリューさんぐらいですよ」


ホラルドは緊張が解けたほわって感じに笑い、俺も彼に笑い返す。

俺達はいい関係だよねえ、とほのぼのしたのに、オズワルドは許してくれない。


「おい」


「オズワルド、彼は」

「その削り器を売ってくれるか? その専用棒も何本か付けてくれると尚いい」


「ですね、団長。で、ブリューのお仕置きはどうしますか? こんないいものをいくつも俺達に内緒にしていた罰と、この削り器も特許出願しなきゃいけない罰。お尻ぺんぺんじゃ間に合わない気がします」


「わかったよ。これからはまずオズワルドに最初に相談する」


「わかればいい」


オズワルドはぶっきらぶに返すと、今度こそホラルドへと向き直った。

自分の剣についての商談の開始だ。

エルマー達はオズワルドが作りたい剣についての概要に興味津々で、お陰様で俺への関心が薄れてくれた。

俺は彼らの腕を逃れ、同じ様にダフネから解放されたデニーの元へ行く。


「ちょっと出よう」


「相談事は団長に最初に、では無かったのですか?」


「するよ、ちゃんと」


俺はカウンターのオズワルドへと大声を上げる。


「シュネーバル買って来る!」


オズワルドは分かったと右手を軽く上げる。

デニーは俺に呆れ顔を向けたが、黙って俺についてくるようだ。

俺は、よし、とデニーを連れて店の外に出た。

シュネーバルの屋台に行く途中に俺達に声を掛けてくる人がいても、そんなの俺が頼んだ事じゃないから俺には不可抗力だし。

シュネーバル:雪玉という名のドイツ伝統菓子

クッキー生地を細くしてふんわり丸くまとめて揚げたあとに砂糖などをまぶした甘くて重いお菓子


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