みんなでお出掛け鍛冶屋さん
デュッセンドルフには冒険者ギルドもあるせいか、鍛冶屋は意外と充実している。エルフもドワーフも見たことは無いが、オークやらドラゴン、トレント系とかマンドラゴラに一角ウサギ、それにサーベルタイガーベヘモットなどなどいるファンタジー世界だ。俺はエルフもドワーフもいると信じる。
ドワーフが絶対いるって証拠に、ギルド認定証付きの数多くの鍛冶屋が、ドワーフ工房アントンとかドワーフの洞窟フレドなど、ドワーフなんたらな枕詞のあとに自分の名前という看板を掲げる店ばかりなのだ。みんな人間だけど。そしてそれらの店はギルド認定の職人であるからか、高慢で、紹介が無ければ一見さんお断りだ。
「いらっしゃい!!」
ぼさぼさの収まりの悪い茶色の髪と黒い瞳をした三十代半ばの男が、寿司屋のような明るさで俺を迎えてくれた。彼の名は、ホラルド・シュミッド。俺が大変ご厄介になっているネジ専用鍛冶屋さんである。
彼はそれ程身長は高くないし童顔なのだが、シャツの上からでも筋肉が盛り上がってたりして舐めたらいかん人だ。けれどこざっぱりした恰好と気持のよい営業スマイルで、俺が彼から威圧感を感じたことはない。俺の中二病な武器製作にも乗ってくれる良き人なのだ。
彼の店は、デュッセンドルフ砦ができた頃からある鍛冶屋だ。
元は砦に武器や馬具の金具などを卸していたが、領地が栄えるにしたがって新しい鍛冶屋の参入でシェアを奪われ、今はもう注文がネジばっかりの町の鍛冶屋さんなのだそうだ。
そういう地域密着型の鍛冶屋を経営しているので、ギルドご用達の店と違い、それはもうお客様の希望に沿った仕事をしてくれる。
「ホラルド。忙しいとこ悪いけど、ちょっと時間貰える?」
「もちろん、もちろん。ブリューさんの頼みだったらいつだって!」
「俺の頼みでもそうか?」
カウンターから出かけたホラルドは、オズワルドが俺に続いて店に入って来た事で、心のシャッター下ろした感じで後退りしてカウンター内に戻った。おーい。
「え、うっそ。ブリューのご用達店ってここだった? ここであの凄いのつくっちゃうの? マジ凄い」
「スタンガンもここで? 並んでるの釘とかネジばっかじゃない」
「店の者を勝手に弄るなって、ダフネ」
「ふぅ。ブルーノ、ダフネに言っても無駄だって」
オズワルドの存在でホラルドを委縮させちゃったというのに、ガヤガヤ煩いエルマー達四人まで店の中に入れてしまった。俺はホラルドへの申し訳無さで一杯。
「ホラルド。忙しいようだったら、いくらでも断っていいよ」
ホラルドは一瞬ホッとした顔をしたが、でも、と下を向く。
それからチラッと俺へと合図みたいな視線? もしかして。
俺がカウンターへと駆け寄ると、ホラルドが俺にだけ聞こえる声で囁いた。
「試作品できたんだけど」
まじか!!
俺はオズワルド達に勢いよく振り返り、大きく手の平を向けた。
「今日は無理! 素直に帰って!」
「ブリュー様。何を煽ってんです」
「デニー。いや、煽ってなんかないでしょ。ホラルドにも大事な商談があるそうだからさ、邪魔せずに今日は撤収しようよって、だけで」
「だがお前は店に残る、か? 試作品とはなんだ?」
オズワルドがカウンターに肘をつき、俺とホランドに狩人の笑みを向ける。
耳ではなく口元を指先でトントンとは、読唇術使えますってことか。
オズワルドは俺達をただただ笑顔のまま見つめる。
ホラルドと俺は、オズワルドの威圧に冷や汗がダラダラだ。
「えと、今日は皆さんお揃いで、どういった誤用だったのでしょうか?」
さすがホラルド客商売の人だ。だが声音がビクつきすぎて、御用が誤用にしか聞こえないぞ。魔獣騎士団の奴らはガタイが良すぎて、私服だとどこかのギャングにしか見えないのは分かるけどね。ガラも悪いし。
「あのね。このブリューの考案した凄い刃がついた剣を俺達も注文したくてさ。でも、ハハハ。なんか内緒の凄い武器もあるみたいだね」
エルマーが俺を後ろから抱きしめて、ホラルドに笑顔を向ける。
流石騎士団随一の情報屋。鼻が良いな。
「ひゃっ」
もう一組の腕が俺の肩に巻き付いたのだ。
そしてその男は、エルマーに抱かれ逃げられない俺の頬に顔を寄せる。
「ブリュー。君の特許の書類は、団長だけで仕上げたと思っているのかな」
ブルーノ。
そしてブルーノが動けばアルバンだ。
「王都を馬で往復は大変だったよ」
「申し訳ありません」
くそ、どうしてデニーが壁になってくれてないんだと見れば、ダフネがデニーの壁になっていやがった。
巨大戦斧を振り回すデニーは、戦斧での攻撃で魔獣をストッピングするタンクだったが、ダフネは大盾で魔獣を抑える鉄壁タンクであるそうだ。
デニーの申し訳なさそうな目。
いいよ。相手がダフネじゃ抜けられないのわかったから。
「ブリューさん。どうします?」
「ホラルド。いいよ見せて。改善点はこのお兄さん達の方がわかるかもだし」
「でも、そうしたら、あなただけの発明じゃ無くなりますよ?」
「いいよ。もともと君ありきの作品だ。最初の話通り君の権利はそのままで、俺の分を分割する」
「ハハハハ。何を言ってんだ? 権利は俺の大事なブルーのまんまで構わねよ。なあ、みんな」
オズワルドの台詞に、ギャング達はいつもの海賊の手下みたいな返しはしなかった。しんと、無言だ。
数秒後、どうしようもない沈黙に負けたのか、ブルーノが右手を上げた。
「不労所得は魅力的です」
オズワルドの部下達は海賊の手下だけあって、上司命令よりも自分の貰いの方が大事なようだ。




