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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第三章 魔の森はこうして後退せざるを得なかった

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重さ比べ

デニーのお陰で寝入りは最高だったのに、寝起きはエルマーのせいで最悪だった。

勢いよく抱き上げてくれたのだ。


「おはよう! さあ、実験の時間だよ」


「俺の心臓を止める実験か? 心臓がばっくんばっくんして、大変なんだけど?」


「可哀想に、モナミ」


「俺の名前はもなみちゃんじゃねえよ」


「え? 名前? え、ちが?」


こっちの言葉でも大事な人をモナミ言うが、俺はエルマーの大事な人になりたくはない。俺は俺を持ち上げるエルマーの手から剥がれたいのに、脇の下を支えられての持ち上げは逃げられない。


もう、どうしてデニーが助けてくれないんだよ。


大体エルマーは俺よりもオズワルドよりで、オズワルドの前で俺とちゃらちゃらふざけてオズワルドの機嫌を弄って遊ぶような……な? だったら俺も遊ぶか。


「どうしたの? 急に静かになって」


「ごめんね。エルマーは俺に甘えて欲しかったんだよね」


エルマーの首に腕を絡め、エルマーの肩に額をそっと乗せ――る前に、エルマーに地面に落とされた。


「もう! 俺が怪我したらどうするんだ!!」


エルマーを見上げれば、何を照れた赤い顔をしてんだ。

もしかして、純粋に俺に絡みたかっただけ?


「エルマー。デニーはどこ?」


「あ、ああ。デニーは団長が試し切りに連れて行った」


「何で俺を起こしてから連れて行かなかった?」


「団長は、デニーの武器が折れるのも一興って感じだからかな」


「オズワルドぉ!」


俺はしっかり立ち上がる。

刃が折れたらデニー泣くじゃない。また鬱化したら面倒だろうがよ。俺が。


「どこ?」


「ブリュー!!俺にも一振り頼む!!」


探すまでもないな。

俺が、デニーにあげた(・・・・・・・)一振りを、オズワルドが楽しそうに手に持って俺達の所へとやってくるじゃないか。


「ああ、もう。エルマーが普通に起こさなかった理由がわかった。俺の足止めか。乱暴に起こせば、俺がぐずぐず文句言うもんな」


ポンポンとエルマーは宥めるように頭を撫でるが、俺はそんな手など振り払う。

俺はまずデニーの剣についてオズワルドに確認せねばならないからだ。


オズワルド達団体へと行けば、オズワルドが俺にそこで止まれと手の平を見せる。

指示通りに止まれば、俺の目の前でオズワルドは水魔法を展開だ。


魔獣の血で汚れた剣に水が注がれ、再び穢れない刀身へと戻る。

オズワルドがピシッと剣を振れば、残っていた水滴もキレイに剥がれる。

先にやっとけと思うが、これも一種の俺へのサービスだ。俺は魔法が使えないから、人が展開する魔法を見るのが好きだ。

オズワルドは剣を横にして、自分の目の位置に翳す。


「刃こぼれ無し。それほど力を込めずともエイプの首を刎ねられた。胴二つには出来ないが、毛皮は簡単に引き裂ける」


オズワルドは鞘に剣を戻し、剣を後ろに続いていたデニーに手渡した。

受け取ったデニーは剣の返却にホッとした顔どころか、思いつめた顔つきだ。


「どうしてデニーにさせなかったの。その剣はデニーのものだよ」


「デニーはな、簡単に切れるとわかっているものしか、こいつを使おうとしないからだよ。お前を守る刀に強度不足があるか調べたいのに、折れることを心配して振りやしねえ。取り上げるしか無いだろう」


「重いな。オズワルドの心配は重い。俺を尊重し過ぎるデニーの思いも重い」


「重すぎていらねえ、ってか?」


「の、わけない。オズワルドが考えている以上に俺はオズワルドが大事だよ。デニーにだって、剣が折れて泣かないようにと、替え刃も用意している。俺こそ暑苦しくて重いだろ? だからオズワルドの気持が重くても構わない。でもね、俺に試し切りを見せなかったことには怒っている」


「お前は意外と血生臭いのが好物だったな」


俺とオズワルドの視線はかち合い、そして数秒後はどちらも鼻で笑って終いだ。

さあ剣の試し切りが終われば、次は科学実験の時間だ。

酸素が炎を爆発的に燃え立たせるってとこを見せてお終い。

爆発的な炎を求めているみんなの為に。


……うん?


オズワルドこそ爆発的な炎を生み出せるじゃない。

いや、でも、竜渓谷でオズワルドは、最後の最後まですさまじい炎の魔法を出さなかった。

なぜ?


俺は、はっとした。

平民なのに家名があるオズワルド。

高位貴族になればなるほど魔力量が大きくなるのはこの世界の理に近くて。

彼は元は滅んだ国の皇子とか王子で、力を隠したい身の上?


「オズワルド。今回爆発が起きて森を焼くとしたら、方向は?」


にやっと口角をあげたオズワルドは、すっと燃やしたい方角を指さした。

魔の森の深淵、中心となるだろう方角だ。

攻めるねえ。

オズワルドはスタンピードを止める気なんじゃない。

魔の森を焼き尽くす勢いなんだ。


「最高かよ」


「お前はそれでいいのか」


揶揄うような返しに、当り前だと答えようと、


「もしかして知らないのか」


「何を?」


「やっぱり、知らないか。魔の森は焼いちゃいけないんだよ。普通の樹木に見えてもほとんどがトレント系の魔物だ。奴らの叫びで魔物が状態異常になり、スタンピードが起きると信じられている禁忌の行為だ」


「ゲッ。後出しすんなよ」


皇子とか王子とか関係ない話だった。

俺は自分達がいる場所が、魔の森の中にぽっかり空いた空間である理由がわかった。オズワルド達は本気で実験をしたのだ。スタンピードが起きても、魔獣は自分達に向かってくるだけ、という場所で。科学実験どころじゃなく、魔の森を焼き払うとスタンピードは起きるのか、そんな危険な実験を。


いや、違う。魔の森をフッ酸で溶かしたら、スタンピードは起きずに平和的に魔の森を後退させる事ができるのでは、というもっと危険な実験だ。


燃やすだけだったら逃げれば生き残れる。

フッ酸被ったら苦しみながらの自滅だというのに。


「ばかやろうが。自己犠牲が過ぎるだろうが」


怒りで俺の頭の中が真っ赤だよ。

こんなに誰かに怒りを抱くなんて、俺は生まれて初めてだ。


「ブリュー。俺達はお前が考える程騎士道精神なんか持っていないさ。敵がいるなら倒す。薙ぎ払う。それだけだ」


「意図した毒はできずに魔獣に囲まれてるじゃないか。だけど大爆発が起きたので助かりました? ばかやろう。なんて自殺行為をしているんだよ!!」


「結果オーライだ。毒が爆発して魔の森を焼いたが、スタンピードは起きなかった。それは範囲が小さかったからか? その後もここにトレント系の魔樹が生えることもなく魔獣も入り込まない。竜渓谷と同じ結果だが、ここは死の谷にはなっていない」


「だから再現したいんだ?」


「ああ。普通の火も魔法の火でも魔の森の繁殖は止められない。止められたのはお前が考案した毒の効果だけだ。さあ、実験しようか?」


オズワルド達は酸素爆発の結果できた、この空き地に希望を見出しているんだ。

魔法や普通の炎ではスタンピードが起きる、焼いてもすぐに元通りになってしまう、難攻不落の魔の森なのにここだけは安全な広場になっているから!!


でも、単なる酸素爆発でしかないんだ。

絶対に俺の毒の成果なんかじゃない。


「今日はみんなの装備は万全じゃない。毒が爆発するか確認だけでいいか」


「ああ。本番は今日じゃない。今日はおかしな結果になったお前の毒が、常に爆発効果が生み出せるのか、の追及だけだ」


「わかった。せっかく材料の魔獣も狩って来てもらったんだ。やってみる。でも」


「でも?」


「その前に、うんち!」


ちょい、時間くれ。

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