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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第三章 魔の森はこうして後退せざるを得なかった

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混ぜたら危険な奴らに科学は危険と知る

エルマー俺を捕まえ、俺の頭を拳でぐりぐりして来た。

物凄く痛くは無いが、うざくてムカつく。

彼の怒りは俺がデニーに装備させた武器やコートが羨ましい、そんなくだらない理由である。だから俺は言ってやる。


「放してくれなきゃ、エルマーには作んない!!」


パッと手放され、俺は地面に落ちた。

周囲のベヘモットが一斉に俺に鼻先を向けてくれたが、心配してくれてありがとうよりも、巨大生物怖い助けて、だ。

オズワルドは俺を引っ張り上げながら、エルマーに溜息を吐く。


「エルマー、お前は何してんだよ」


「団長だって、思うとこあるでしょ」


「だから連れて来た。デニーの武器の強度と有用性を見に来たんだ。これ以上ブリューを構うな。こいつの仕返しはやばいぞ」


「ハハハ。そうですね。女性騎士達の顛末聞きましたよ。魔の森討伐メンバー選抜杯したんですってね。棄権者続出で、大量の騎士職剥奪があったとか。昨日の数時間で。まったく、この子は何をやってくれるんだろうね」


額突くな。


「俺は自分の平穏を邪魔されなければ何もしませんよ」


「ウソウソ。火の中勝手に飛び込んで、ボヤで済むところを全焼どころか延焼させて、辺り一面焼け野原にしているでしょうが」


「酷い、エルマー」


「何が酷いの。この広場を作った大爆発は君が編み出した毒によるものだよ」


「うそ」


俺は呆然と周囲を見回す。

魔の森と知らずに目隠しされて放り込まれたら、芝生が広がるのどかな空き地にしか見えない場所だというのに。

でもって、長くて三か月前にフッ酸で汚染された場所という事だよね。

フッ素化合物で汚染された土壌について人体影響とか、あったよね。


「ここはヤバくないですか?」


「ヤバいんだよ。ヤバかったんだあの毒は。なのにここを焼き払った効果を持つ毒を二度と作り出す事ができない。君は分かるか?」


「え? 焼き払った? フッ酸の効果と違うよね」


俺はオズワルドを見上げる。

彼は肩を竦め、彼らしくないことを言い放つ。


「人知を超えた力を発動させると、女神の力でその力は失われるのだろうな」


「俺はオズワルドの炎の魔法、人知を超えた凄い威力だって思うんですけど。オズワルドも力失いました?」


「失うわけ無いだろう。阿呆が」


阿呆な事を言ったのはオズワルドこそだろうが!!


「ほらブリュー、唇尖らせて無いで答えて。俺達じゃ再現できないだけで君ならもう一度同じ事ができるなら教えてくれ。特許取りたいから秘密なんて可愛いこと言っていると、まだまだ可愛い君のお尻に悪戯しちゃうぞ?」


声の調子は冗談めかしているが、エルマーの緑の瞳は真剣だ。俺に過去に行ってくれと頼んだ時と同じぐらい。


「エルマー。まず、この広場を作った大爆発とやらを教えて。それから、その毒が本当に俺が教えたものならば、改良できるとこは改良できるように考えるから」


「あれは、二か月半前の雨の日だった」


何故か語り始めたのは、アルバンだった。

彼は手帳を取り出して読み始めたようだが、業務日誌的なものじゃなくて個人的な日記なんだろうか。


「降り注ぐ雨の雫に体温は少しずつ奪い取られて」


小説なんだろうか。

全文朗読してもらったら時間ばかりが無駄にかかりそうだ。俺はオズワルドの腕から飛び出すと、アルバンの手元から手帳を奪った。


「くっそ」


一斉に、「だまされた」と、どっと皆の笑い声が起きた。

アルバンのばかやろう。

俺がアルバンから奪った手帳は普通の業務日誌で、この広場に起きた事象が簡潔に書き記されていただけだったのだ。

魔獣騎士団は無意味におふざけをぶっこみやがる。

でも。


「了解。刺激物なら何でもいいだろうとベビーバス程度の大きさの容器に大量に消毒薬をぶちこみ、そこに鉱石を放り込んだ。すぐにその場から離れたが、魔獣の群れは前回のように溶けるどころか勢いを増して追いかけて来ただけであった。失敗と抵抗していた数分後に、大爆発が起きた、と」


俺は読み上げながら、最後にはしゃがみこんでいた。

この人達、混ぜるな危険、な人達だったのである。

その後も起死回生できた大爆発が忘れられず、爆発を再現できるように何度か実験をしていやがった、とは。


たぶん投げ込んだ鉱石が蛍石じゃなくてマンガン鉱石で、過酸化水素水らしかった消毒薬で上手く酸素が出たのかもしれない。または、無我夢中で切り刻んだ魔物の肉片が実験容器に入って酸素が発生したのかもしれない。


俺が正解だと仮定するのは、きっと魔獣に向けて放った火魔法で発生した酸素に引火して大爆発が起きちゃったんだろうなあ、という事だ。


「よく生きてたなあ、みんな」


「あの大爆発はケヴィンにお前が教えた奴よりも凄かった。ケヴィンのは炎よりも爆風の威力って感じだったからな」


「うん。ですね」


「それで、これは再現できるか? 何度か同じようにやってみたが、いくら待っても爆発は起こらなかった。人や魔獣を溶かす毒にもなっていなかった」


うん。何もしなければ酸素は拡散して消えるだけで何も起こらないね。酸素は時限式爆弾でも何でも無いからね。

最初にフッ酸を教えていたから、反応時に近づこうって人が誰もいなくて助かった。たばこ持った誰かが近づいて確認してたら、一瞬で火だるまだったよ。


「ブリュー?」


俺は、説明しようとして、言葉を失った。

酸素って、気体って、どうやって説明したらいいの?


「お前にもやっぱりわからないか?」


わかるけど、説明の仕方がわかんないの。

…………百聞は一見に如かず作戦にするか。


「ブリュー?」

「ブリュー様、無理しなくとも」


「大丈夫、デニー。エルマー。いつもの実験をお願いして良いですか? 消毒薬と用意してる鉱石を、いえ、鉱石はいらない。魔獣でも普通の獣でも、血がいっぱいの内臓でも肉片でも持ってきてください」


「今すぐ魔物を狩ってこいと?」

「この辺りは中型種しかいないぞ」

「エイプは集団だ。刺激したらヤバイ」


アルバン、ブルーノ、ダフネがざわざわだ。

団長であるオズワルドは口元に拳を当てて笑っているし。

普段だったら家で寝ている時間だというのに、俺は頑張って来ているんだよ。


「魔獣騎士団だろ。本領発揮して来いよ!」


「団長! このブリュー悪い子だからブリュー畑に埋め直して!」


「うっせえ、エルマー。いいか? 三十分以内に魔獣倒したら、全員にスタンガンをプレゼント!!」


一瞬で俺とデニー残して消えるとは。

デニーはコートの中に手を入れて、敷布を出してくれた。

俺は、わかってんなあ、とデニーが敷いた敷布の上に横になる。


「仕込み杖はデニー以外には作らないからな」


「この上着のデザインも、俺だけにお願いします」


「我儘だな。いいよ。しっかり俺を守れよ」


「この身に変えても」


俺はゆっくり瞼を閉じた。

魔の森で爆睡できるなんて、デニーの存在と、オズワルドが与えたこのふかふかの毛皮のせいだ。母を思い出す、ふかふかの。

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