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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第三章 魔の森はこうして後退せざるを得なかった

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俺の願いは何でも叶えてくれると甘えてますんで

オズワルドの執務室の設えは、五歳の俺が訪れた時から変わっていない。

俺の感覚的には九年間の時間が流れているが、オズワルドには二か月ぐらいだ。変わって無いね、なんて感想は逆に困るだけだろう。

頻繁に模様替えするような人じゃないしね。


「今日はコートいるか? 久しぶりにモフモフしたいだろ?」


オズワルドはいそいそとクローゼットから毛皮のコートを取り出し、いつものようにソファに座る俺にそれを放って寄こした。俺は儀式かよと思いながらもいつものように受け取り、放り返すのも面倒だとクッションのようにそれを抱える。


うわ、モフってくる。

いつも思うけど、これは何の毛皮で、誰の毛皮だろう。

大きさから女性用なんだよね。でも酒場の女性が手に入れるには高級すぎる。

夜会前の母がドレスの上に羽織っていたコートのような。


「おかあしゃま、きれい」


「行ってきますね。フィール」


子供部屋の俺の顔を見に来ただけでなく、母はいつだって着飾った夜会ドレスなのに俺を抱き上げる。父がそんな母から俺を取り上げるのまでワンセット。


「アリシア。抱っこは帰って来てからにしなさい」


「そういうあなたこそ、フィールを抱き締めすぎよ」


はっ、俺こそ結局いつものように毛皮のコートを抱きしめている!!

慌ててコートを丸めて横に置く。


「ここに来る度に、毛皮のコートを俺に投げるの止めてくださいよ」


「いいじゃねえか。お前の喜ばせ方がそれしか知らないんだから。ほらほら、そいつを抱きしめたいんだろ? 遠慮するな」


「こういう揶揄い方しないでくれると喜びますよ」


「可愛げがねえ。俺はお前の為に日夜森に潜って、硬いばかりで楽しくない奴と踊っているっていうのに」


オズワルドは俺の真横にドカッと腰を下ろす。

いつの間にやら、彼の前には度の高そうな酒の瓶とグラスだ。

彼は俺にチラッと流し目だ。

俺を酒場の姉ちゃん扱いしやがって。

ハイハイお世話になってますよと、俺は酒瓶を持ち上げ、オズワルドのグラスに酒を注ぐ。慎重に。素晴らしいグラスとそれを持つ男に相応しいように。


「もうちょっと注いでくれ」


「このぐらいが最適なんです。指二本。良いお酒は香りも楽しまなきゃなので、グラス内で芳香が膨らむ空間も必要です。それに、お酒で体を壊して欲しくない」


「わかったよ。ああ~頑張っても張り合いないな」


不貞腐れ、けれどチラッと俺を見る。

かまってちゃんかよ。


「俺はあなたに感謝ばかりですよ。それにあなたが凄いって、本気で尊敬してます。あの魔の森を後退させているそうじゃないですか」


魔物を狩って狩って狩りまくると魔素が減り、その結果トレント系の魔樹が枯れて魔の森が後退するんだそうだ。これは今回のオズワルドの成果による発見であり、魔の森後退など初の快挙でもある。


「あなた以外の人間には成し得ない事です」


「はん。あんなもの。三日空ければ元通りだ」


あ、照れた。

そしてオズワルドは照れ隠しに酒をグッと煽った。

で、空になったグラスを俺に向ける。


「褒めても深酒するんなら褒めないですよ」


「ああ、ブリューは酷い。俺は何日も女を抱かずに頑張っているというのに。それよりも、抱きたいって情欲もわかないぐらい疲れ切っているというのに!!」


俺は、トクトクトクと酒をつぎ足し、酒のボトルの蓋をしっかりと閉めた。それから酒のボトルを抱き上げたまま席を立つ。


「お疲れ様です。それじゃ俺はそろそろお家に帰ります」


「帰るなよ。あとしれっとボトル持って行くな」


「酒が残ってベヘモットさんに襲われたら大変です」


ベヘモットは酒など飲まないが、酒の匂いは好きらしい。けれどベヘモットは体の大きな魔獣さんなので、マタタビに酔った猫みたいな感じで人間にじゃれてきたら人間が確実に死ぬ。俺はオズワルドに死んでほしくない。

オズワルドは不貞腐れた顔で俺を見上げるが、俺は酒のボトルを返すもんか。

睨み合う事数秒、オズワルドがクシャッと笑った。


「ふふ。バカみてぇ」


「バカでもいいんです。俺はオズワルドには長生きして欲しい」


「お前の未来が掛かってんだもんな」


オズワルドは俺に向かって右手を伸ばす。

おいで、おいで、と手招きもされれば、なにかあるかと思うだろう。

オズワルドへと俺は身を屈める。


ぽさ。


オズワルドの大きな手が俺の頭に乗った。


「大きくなったが、触り心地の良さは小さい頃と変わんねえな」


「どうせまだガキですよ」


「今日は砦に泊るか?」


「帰りますよ?」


「明日は朝一で魔の森に一緒に行くんだ。泊ってけ」


「え? 俺は一般人ですよ。それも戦闘力なんて何も無い」


「ハハハ。スタンガンなんて凶悪な武器を作ったお前が。あのダフネが、眉根一つ動かさずにあんな凶悪な武器を人に使ったって、お前に脅えてたぞ」


「ダフネこそスタンガンを欲しがったくせに。デニーに奪い返しておいてって頼んだから、貰えなかった腹いせですね」


「ハハハ。スタンガンで魔獣もやれるって聞いたからだよ。そんなおっそろしいものをよくも人間に使えたなって、冗談じゃなく脅えてたさ。それに、ぶふふ、何がバトル・ロイヤルだ。俺がいないとこで勝手に俺を賞金にしやがって」


「オズワルドを差し出してなんかいませんよ。俺が約束したのは、魔の森行きだけです。案の定、半数がわざと負けで騎士職剥奪。残りの半分の半分は、戦いもせずに辞職して逃げて行った。カリンナもね。残りは本気で魔獣と戦いたかったガチ勢です。男性の誘いなんかお断りの人達でしょ?」


「ばあか。初心者引率は誰がするんだって話だよ。それで俺は必死で守るんなら、お前がいた方がやる気が出る。明日は一緒だ」


俺はやる気でねえよ!!

5歳のフィールが初めて砦に来たのは9月。

14歳のフィールが戻って来たのは11月。

それから現在一か月近く立っているので、3ヶ月ですが、オズワルドと再会したのが1ヶ月前なんで2ヶ月。

現在12月ぐらい。

クリスマスは無く、新年を盛大に祝う感じです。

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