部屋の乱れは心の乱れとか言うからね
第五練兵場は、外見が昭和の木造平屋建ての小学校ぽいと感じた。平屋の屋根付きの細長い建物の裏にグランドがある、という造りのせいだろうか。
もちろん教室があるわけ無く、建物の規模も小さい。細長い建物には、小さな部屋二つと大き目の部屋がある。執務室とミーティングルーム? に倉庫なのかな。
建物についてはそのうちってことで、俺はそのまま真っ直ぐグランドに出た。
グランドにたむろっていたとしか言いようのない方々、女性騎士が十五人、見るからに見習いは八人。
グランドに出ていたのは計二十三人で十二人も足りないが、ここに全員を引き摺り出せば良いだけだからと、俺は声を上げる。
「初めまして皆さま。砦が誇る騎士の鍛錬風景を見学に来ましたよ」
女性騎士達は俺の挨拶に対し、俺達に友好的とは言えない視線を向けざわついた。
デボラが俺の脇にいるというのに。
「整列!」
どこに隠れていたのか、二十四人目が出て来て号令を上げた。
黒髪の美人ならば、第一班班長のカリンナだろう。
汚れ一つない青の騎士服を着た彼女は、長く艶やかな黒髪が自慢なのかまとめておらず靡かせていた。
人数的に二班の騎士もいそうだが、カリンナの命令に誰も背かず並んだ。それから彼女は俺達に向けて跪いたが、顔も体もデボラにだけしか向けて無い。
ちっ。
「領主夫人様にはご機嫌麗しく。こちら迄足をお運び頂いた事御礼申し上げます」
カリンナは聞いていた通り以上の美人だと思う。
けれど、同じ黒髪のデボラのように目を引く、という存在でもない。
ではどうして美しきカリンナは、「美人」だけで終ってしまう人なのか。
それはカリンナ、君がとても自分が優等生であろうとしているからだよ。
俺が何を言いたいのかと言えば、自分だけいい子ちゃんしても意味が無いんだよってこと。指導力無いねってこと、丸見えじゃない? 君は薄っぺらいんだよ。
俺は思うんだ。
領主夫人に挨拶したけど、俺には? と。そういうとこだよ?
王都にて騎士職を得た貴族のお嬢様は、英雄だろうが平民でしか無い男の男娼をしている平民には膝を折りたくない? 素晴らしき高慢さだが、雇い主が厚遇している存在だとひと目でわかるのだから、それはデボラの顔を潰す行為だよ?
あとね、オズワルドは適当そうで不遜な男だけど、彼は部下に対してしっかり守るべきルールを叩きこんでいる。ジャネットやリンダみたいな奴は作らない。
上司のありかたで、団体の色は決まるんだよね。
俺は整列している女性騎士達を眺める。どうせ俺もマーガレットもいないものとされているならば、並ぶ女性達の部屋番号をマーガレットさんに教えて貰い、彼女達の顔と部屋の紐づけでもしようか。
部屋を見れば人柄こそ見える。
先に部屋を暴いたのはそういうこと。
カリンナの部屋から俺が考えたカリンナの人物像は、承認欲求が強めで神経質、だ。実際に本人を見た印象からは、短慮で人を見下し格付けしたがり、必死で上辺を繕っているようでボロボロ、を付け足す。本当に上手くなくて、彼女に指導できる近しい年配者はいなかったのかと憐れんじゃうぐらいだ。
こんな感じかな。
俺はカリンナが王都の騎士団でやっていけなかった理由が見えたね。
さて、カリンナにはちょっと指導を入れようか。
丁度不在の騎士と見習いの所在を確かめなきゃって思ってたところだ。
ジャネットは俺が救護室送りにしちゃったし、リンダはジャネットを運んで行っていない。この二人の不在はわかるけど、あと七名の女性騎士達と見習い二名はどこにいっているのだろうね。
「デボラ様。足りない人達をここにお呼びいただけませんでしょうか?」
カリンナは笑顔を変えなかったが、左目の目尻がぴくっと動いた。
俺こそカリンナを無視して、デボラにだけ話しかけたからだろう。
「恐れながら、重要な業務中の者もおります。全員でよろしいですか?」
「業務中ですって? ブリュー、それでも呼んで欲しいの?」
「お願いします。デボラ様」
「ではカリンナ。全員を呼び出して」
見るからに青筋破れそうなカリンナの顔。
ぷふ。
カリンナは俺を無視していい気になっていただろう。けれど、俺がデボラを仲介してカリンナに指示を与えたというこの図式は、俺の方がやんごとないのでカリンナから話しかけられない、ことを示すのだ。
苦々しい気持ちを隠しきれなかった顔付のカリンナは、それでもデボラの希望を叶えようと、灰色の髪を坊主にしている女性に顎をしゃくった。彼女はカリンナの副官なのかカリンナに頷き返し、それから列を抜けて建物内へ向かう。勿論俺達の横を通らねばだが、痛て、だよね。俺に肩をぶつけようとしてデニーの硬い体にぶつかってよろめいてたから。
「くそ。鉄壁は顕在か」
「お前が割り込む隙は無いよ」
「ブリュー様、俺も呼びに行きましょうか?」
リノが俺に囁いた。
女性騎士は砦の一般騎士のくくりになるので、魔獣騎士団の人間よりも同じ一般騎士の方の自分の方が角が立たないと思ったのだろう。
きっと彼こそ気付いている。ここにいない人達の「現在」を暴くべきべきだって。
「ダイジョブ。自分の足でここに来させましょう。ここは監獄じゃないんです。命を賭けて王国を守って来た誇り高き騎士の砦。己の顔が上げられないならば、砦から去れば良い」
「お前こそ顔向けできない男娼の癖に」
乾いた低い声が俺の後ろで響いた。




