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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第二章 デュッセンドルフ砦の正規軍のゴタゴタ

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無駄に動くから鬱になるってわかっているけどね

優しきデボラに言われるのは分かるが、鬼軍曹と陰口を叩かれているマーガレットにまで、「恐ろしい子」と言われるとは思っていなかった。

俺は怠け者だし臆病だから、自分がやったことで誰かに逆恨みされてどこかで刺されるって状況を、作りたくないし常に警戒したくないだけなんだけどね。


オズワルドの家を汚した冒険者達は、奴らの債権をギルマスに買わせることでギルマスの監視下に置いて逆恨み行動ができないようにした。

デニーの借金やオズワルドの家の修繕をすぐに何とかしたいから即金で欲しいってとこもあったけど。

とにかく俺からギルマスに債権が移動したことで、ギルマスは俺に払った金貨十三枚分の負債をあいつらから取り戻さねばならないわけだ。


あいつらがギルマスに金を返さないどころか俺やデニーに報復っぽいことをすれば、あのギルマスには影響力が無いって宣伝することと同じになる。

あの面子大事なギルマスなら、しっかりとあいつらの手綱を握るだろう。


では今回のことについては?


一班班長のカリンナも二班班長のベリンダも、俺は全く面識がない。

ついでに言えば、デニーに外見だけを聞いただけで、彼女達の人物評価も聞いた事が無ければ噂話だって知らない。他の女性騎士達だって全然だ。

だからデボラが言うように、部屋を台無しにした女性騎士全員の騎士職を剥奪して砦から追い出すのが、一番簡単で後腐れが無い方法だろう。


だけどねえ。

俺は見てしまった。

リーザの部屋を。


リーザが、汚い部屋の隅に自分の生活スペースを何とか作って生活していたって、想像するまでもないほどに憐れな様子がひと目で理解できるあの部屋を。


でもなあ。

あんなひと目で「誰かにやられた」ってわかる状況なのに、どうしてあの子は誰にも言わずに先輩騎士達に嬲られるままにしているのか。


本来ならば練兵場でしごかれているはずの見習い(リーザ)が、三日連続で我が家の呼び鈴を鳴らせたことで、俺もさっさと気が付けば良かったんだろう。

我が家に来ることこそ、リーザが受けてる命令で、それが虐めだってことに。


俺からの断りを命令者に伝え、命令が達成できなかった咎で暴力を振るわれる。

そこまでがワンセット。


でもなあ。

リーザの瞳には力も光もあった。

デニーの真っ暗な洞穴みたいになった目じゃ無いんだ。

前世の俺が自分がもうだめだって思った、洗面所の鏡に映った俺の死んだような顔じゃないんだよ。

でもって俺が係わる必要ない。


「マーガレットさん。床が腐っていた一番年季が入ってそうな部屋の持ち主は誰でしたっけ?」


ああ! 何やってんだろ、俺は!!

余計な質問した自分を罵るが、そんな俺に事務的でしっかりした声が答えた。


「第二班のベリンダよ」


「他領からの人ですか?」


「いいえ。デュッセンドルフ出身ね。商家の長女だと聞いているわ」


「ベリンダ班長のことはよくご存じで?」


「入団時は明るい……子だったわね。見習いの時は評判が良かったのよ。魔の森での演習で、魔獣狩りに尻込みもしないって。それで班長にまでなったのに」


うお、語尾が唸り声かよってくらいに低くなった。

宿舎を汚された恨みを吐露し始めそうだ。


「で、では、カリンナ班長は?」


「彼女は王都から来た騎士よ。とにかく優秀だと誰もが言うわね」


俺は、ふうん、だ。

部屋をキレイに使っているカリンナはマーガレットには好意を抱く対象かと思ったが、ベランダに向ける感情の半分も無いぐらいに薄い。他領の人だから?


「憐れなリーゼも他領の子ですか?」


「あの子はここの騎士の子よ。生まれる前に父親を亡くしているわ。亡父の意思を継いで騎士を目指した子だというのに。こんな目に遭っていただなんて!」


「……りょうかい」


「それで、ブリュー様はベリンダ達に何をするつもりでしょうか?」


「会話ですね。俺にはこの砦での権限は何一つ無いですから」


「ですが、踏みにじる、と」


「どういったことだよ!」

「何? 誰があたしらの部屋を勝手に開けやがった!」


俺とマーガレットは、起きたばかりの怒声へと視線を向ける。

癖のある赤茶色の短い髪をした人と長いだけで手入れも無い黄土色の髪をした人、という確実に戦士な大柄な女性二人だ。


誰? とマーガレットに尋ねれば、赤茶がリンダで黄土色がジャネットと。

どちらも二班のひとらしい。ついでに部屋番号も教えてくれた。部屋は乱雑だが汚れ物も腐った生ごみも無いという部屋の人達だな。


俺は、ふうん、とデボラを背に庇うようにして彼女達の前に足を踏みだそうとして……ちょっデボラさん、あなたこそ俺の前に出るなんて!

この二人はデボラやマーガレットのドレスが似合う姿と違い、大柄で筋肉質という大きなバイクに乗っていそうな世紀末戦士そのものだぞ。


「あなた方、この部屋もこの寮も、あなた方のものでは無いの。ご理解頂けて?」


デボラさん! 男前すぎて格好いいけど止めて!!

ここは俺が「汚物だまりが大事な部屋でしたか?」なんて恰好良く言って、戻って来た女性騎士の前に立ちはだかる場面です!


俺の心の叫びなど、デボラには聞こえない。

心の叫びでしか無いし。


「げ、領主夫人」

「うわ。領主夫人。マーガレットまで」


二人は見るからに慌て、俺は俺が前に出なくて良かったのかなと思った。

だけど、情けなさはマシマシ。


だってマーガレットさんまで俺の前に立ってるし。俺を庇うように!

俺は確かに戦闘力0だけれども!!


さあて、役立たずな男でも行動しなきゃ。

彼女達の壁に出来ている隙間から俺は顔を出す。


「あ、こんにちは。これから移動と考えていたので丁度良いですね。お二方には僕の護衛をしてもらいましょう」


「あたしらがどうして」

「一人で行けよ。男娼風情が」


「ブリューになんて侮辱を」

「今の暴言は騎士団長に報告してきます」


「いいから。ふ、ハハハ」


「ブリュー?」


俺は二人の間から一歩踏み出して、今度こそ二人を背に庇った。

そんな感じでリンダとジャネットの前に出る。


「無学ゆえの失言です。流してあげましょう」


俺はほんの少し丸みが女性性を示すだけの筋肉だるまに対し、高慢この上ない見下しの微笑みを向けた。腐っても俺は伯爵令息である。

平民は根底から「貴族に逆らうな」と叩きこまれているのだ。

貴族であれば、自分よりも階級が上の人間の匂いを嗅ぎ分けろ、だ。


女戦士達は見るからに俺が出した高位貴族の存在感に怯むが、暴力的な報復を企む目で俺を睨まない我慢はできないようだった。躾の出来ていな犬でも人に襲い掛かってはいけないって本能でわかっているが、調教師に対して唸り声をあげることはやめられないって感じ。


お前等は腐っても騎士職を賜っているくせに。

知っているか? 調教不可と見做された犬は処分されるんだよ?


「いいですか? 権力者の愛人こそ権力者なものですよ。さあ、黙って僕の護衛をしてもらいましょうか」


「あ、あたしらは宿舎が荒らされているからって見に来ただけで訓練中だ」


「では、訓練風景を見せて頂きましょうか。皆さんはどちらへ」


「いや。あの」


「どちらに?」


「第五練兵場」


「では参りましょう。練兵場へ。僕はあなた方の練兵度が見たい」

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