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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第二章 デュッセンドルフ砦の正規軍のゴタゴタ

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あなたはとてもとても可愛い子供よ

「ん、くく」


俺はお茶を吐き出す所だった。

今度はスタンピードが起きるのですってね、って突然すぎるよデボラさん。


オズワルドがスタンピードについて辺境伯(アルブレヒト)には伝えているかもしれないと思ったが、まさか辺境伯夫人(デボラさん)にまで伝えているとは思わなかったのだ。だって身重の長女(カミラさん)がもうすぐ出産だ。

ただでさえ娘が心配なデボラさんを動揺させたら駄目でしょう。


「けほ、ど、どなたからそんな話を?」


「あなたがこちらに来る前、ケヴィンが学園に入ってすぐに、学園の紋章が付いた封筒でお手紙が届いたの。匿名のその手紙にはね、我が領で起きるスタンピードについての警告が書かれていたのよ。このことは夫にも伝えていないわ」


「その手紙の差出人にお心当たりは」


「ないわ。でも私は三か月前に失った可愛い五歳のあの子を知っている。あの子が警告した通り、ワイバーンの襲来があった。だからアルブレヒトに手紙について相談するべきだってわかっていたのだけど」


三か月前、俺が消えたその夜に、砦にはワイバーンの襲撃もあったと聞いている。ただし竜渓谷にいなかった数匹だけで、あんなものは物の数では無かった(オズワルド談)らしい。


でも、空飛ぶ巨大な魔獣は死骸でも目にすれば怖いものだっただろう。

そしてそれもまだ三か月前の出来事だ。


「お忙しくされている背中を見れば、不確かな相談など呑み込んでしまいますね」


「あなたは気遣いができる本当に優しい子。私は自分本位ですからね、違います。私はね、もしかして消えたあの子が戻って来るかなって期待してしまったの」


俺はキョトンと、デボラを見つめる。

彼女が砦の危機を予言する手紙を夫である辺境伯に黙っていたのは、三か月前に「こんにちは」した五歳の俺が戻ってくると考えたからだというのか?

俺の表情が間抜け過ぎておかしいのか、彼女はくすっと少女のように笑った。


「あの」


「私は賭けに勝ったわ。あなたが戻って来た。可愛いあなたが戻って来た」


「ん、んん。俺はあなたが待っていた五歳児では無いですよ。どうして俺があの日のブリューだと確信しているんです?」


「あなたを間違えるものですか。あなたは小さかったあなたと変わっていないわ。あなたはあの日のブリューよ。そうだと言って。あなたはスタンピードで生き残れたと。生き残ったから、また私達を救いに来てくれたのでしょう」


「――手紙にはなんと?」


「デュッセンドルフでスタンピードが起き、この世から希望が潰える、と」


「もしかして、あなたは俺の生死が知りたいがために、俺を待っていた?」


デボラは俺に微笑んだ。

俺は、やられた、と思いながら額に手を当てる。


「たった一日だけの邂逅なのに」


「たった一日だけでも、私はあなたを愛しちゃったのよ」


「あなたは情が深くていらっしゃるから」


「あなただからよ」


「俺ですか? 地味でどこにでもいる顔じゃないですか。兄達のように金髪碧眼で天使のような風貌でもない。――逆に、だからですか?」


「あらまあ。私はあなたが自分の愛くるしさを知った上でのあの振る舞いだと思っていたわ。それがこんなにも自分の外見に自信のない子だったなんて」


「もちろん。幼い子供であるってところは充分に活用しましたよ」


「もう! あなたは自分の可愛らしさをもう少し理解するべきね。飴細工でできた妖精さんに見えるわよ。お母様はとても美しい方なのね」


俺の脳みその動きが再び止まった。

飴細工でできた妖精さん? その賛辞は本気で俺に?


「どうしちゃったの?」


「そ、そんな風に言われたのは、はじ、初めてです」


「あら。ご家族の誰も褒めてくれなかったの?」


聞こえるはずのない、記憶の中だけの家族の声が聞こえた気がした。

なんて可愛い天使。僕達の可愛い弟。大事な大事な可愛い末子。


「いえ、そ、そんなことは。たくさん、たくさん、ほめて、くれ、て」


俺はきっと耳まで真っ赤に染まったであろう。

熱っぽくなった頬に両手を当てる。

家族との思い出して、物凄く恥ずかしいというか、幸せになったのだ。


母も兄達も父も、俺を見つければ可愛い可愛いと必ず抱きしめた。


愛情を持ってくれての抱擁だって、俺は嬉しく理解してた。けど、俺の外見が可愛くて仕方がなかったから、という理由付きは、さらに俺を喜ばせたのだ。


自信なかった自分の外見を、俺は家族の汚点のように思ってたから。


俺の外見が兄達のように可愛くないからこそ、俺を慰めるために一番に可愛がってくれたのかな、とか。


そんなネガティブな条件付けを一瞬で廃して、家族が俺に無償の愛を捧げてくれていたって確信できた瞬間だから。


「あら、ごめんさい。辛いことを思い出させてしまったかしら?」


「いいえ。幸せの涙です」


「あら残念。悲しいなら抱きしめて慰めてあげたかったのに」


「嬉しい時に抱きしめてもらうともっと幸せになれると思いますっす!!」


本気でデボラが俺を抱き締めてくるとは思わなかった。

だけど、久しぶりの母の腕の中だった。


「あなたはお母様なんですね。あなたの腕の中は僕のお母様の腕の中と同じ。お母様をまだ求めていたなんて、僕は情けない」


「ふふ、いいのよ。あなたは私の末の子供になってもいいの。可愛いあなたが私を頼ってくれると嬉しいわ」


「差し上げられません。ブリュー様は団長のものです!!」


「デニー、横からビーとかエル誤解のある台詞を叫ぶんじゃねえ」

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