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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第二章 デュッセンドルフ砦の正規軍のゴタゴタ

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辺境伯夫人とのお茶会だ

領主夫人とのお茶会のために、俺はケヴィンのお古に違いない昨夜選んでおいた淡いブルーグレーのスーツを着た。従者としてついてくるデニーには、俺デザインの先日作っておいた上着を羽織れと渡す。


アラネ織の焦げ茶色の生地を使い、少々ミリタリー風味も入れたチェスターコート型の丈の長いものだ。

チェスターコートはカジュアルにもシックにも幅広く使えるきれいな形だし、これならば執事風でもあるし、スマートな護衛官にも見えるかな、と。


騎士服を脱がねばいけなくなった自分を思い落ち込むならば、元同僚に会った時には見せびらかせる服を着てたら大丈夫かなと作っておいたのだ。


「ブリュー様、ありがとうございます!!」


「喜んでくれて嬉しいよ。せっかくだから髪も作ってやろうか」


「お願いします!!」


あれ?

どうしてデニーの頭と尻に犬のシッポと耳が生えているように見えるんだろう?


そんなこんなで着飾った俺達は、うっきうっきな顔でお迎えの馬車を待った。

俺もデニーも、とんだバカ野郎である。


それでもって迎えの馬車についていた護衛が、デニーの格好に一瞬だか目を留め、俺を馬車に誘導するデニーにそっと顔を寄せて何かを囁いた。囁きを受けたデニーが誇らしそうな笑みをふっと浮かべた。これは多分どころか、絶対にイイネって感じのセリフのはず。


「いい思いしやがって、と、妬みを貰いましたよ」


何だがほっとして、俺こそ口元がにやけてしまった。

備えあれば患いなしって本当だね。


「そりゃあ良かった。さあ、久しぶりの砦に行こうか」



        ――――――――



「お招きありがとうございます」


「堅苦しいのは不要よ。ブリュー。たった三ヶ月で大きくなりましたね」


デボラは遊び心のある人だな。

デボラと俺は仲の良い親戚同士みたいに、頬を当て合い抱き合った。

親戚の子供ならば、と俺が腕を出せば、勿論デボラは俺の腕に手をかける。


「贈ったスーツを着てくれてありがとう。ケヴィンがそれを着た時よりも似合っていて、とても可愛らしいわ」


「恰好良いと言って下さらねば泣きますよ」


「うふふ。いつでも抱きしめて慰めてあげる」


うん。家で悩む必要なんかなかったな。

彼女は完全に俺を貴族の子として扱っている。

俺達の後ろを杖を突きながら歩くデニーなど、完全に護衛官のすまし顔だ。


辺境伯夫人のデボラさんは、艶やかな黒髪に緑がかっているどころか金色にも輝く琥珀色の瞳で、顔形だって俺の母と全く違うというのに俺は母を思い出した。俺に向ける優しい目元が、母が俺に向けてくれた眼差しと同じだからだろうか。


以前もそう感じたよな、と五歳の時を思い出して申し訳なく思った。

五歳の俺は慰めようとしてくれる彼女の腕に入らずに、適当にほったらかしにしてくれるオズワルドの執務室に逃げたのだ。たぶん、母ではない女性の腕に入ってしまったら泣くしかないと分かっていたからだろう。


母の死を認めるのは、俺は今でも嫌だ。

でも。


!!


俺の目の前で両扉が開き、中の様子が見えた事で俺は物思いから覚めた。

俺はデボラが俺一人の為に用意してくれた会場を目の前にして、ほうっと大きく感嘆の溜息を吐く。

緑豊かだったかつてのバルバドゥス領でも目にしたことは無い、艶やかな緑と色とりどりの花々の洪水がそこにあったのである。


「なんて素晴らしいサンルーム。ここだけ南の異国ですね。グロリオサにトケイソウ、ああレモンの木は実がたわわに育っている。あなたに捧げる歌を俺の代りに歌っているようだ」


「うふふ。あなたはやっぱりうちの愚息達とは違うわ。ちゃんとお花の名前を知っている。お花の楽しみ方も。さあ、さあ、お席に」


グロリオサの花言葉は「栄光」、トケイソウの花言葉は「受難」だ。

そしてレモンの花言葉は「献身」に「思慮分別」。


サンルーム内には他にも数多くの草木があるが、俺が三つの名前だけを上げたことにデボラは気付いているようだ。それでの息子とは違う発言だろう。


デュッセンドルフ砦(栄光)に影さす「受難」が起きている、その対処を願います、だ。トケイソウには「聖なる愛」もあるので、デボラが女性騎士達の問題を知らなければ、普通に「素晴らしき領主夫人に尊敬と献身を」ぐらいなおべんちゃらでお終いだ。どっちで受け取ってくれたかな。


さて、デボラを座らせた後に俺が席に着こうとすれば、デボラは自分の向かいではなくすぐ横の椅子を指し示す。


「――親密過ぎませんか?」


「こーこ。五歳のあなたが可愛がらせてくれなかった罰よ」


俺は諦めデボラの横に腰かける、するとすぐに、俺の前に内側は白いが外側はローズピンクの縁取りがある淡い水色の花が開いたような形のカップが置かれた。

香り高い紅茶が満たされたカップの底には、蝶々の絵付けがある。

外見が一緒のデボラのカップ底は、ピオニーが描かれていた。


「私のは花よ。セットなの」


「確かに、真横に並ばないと楽しめない茶器でしたね」


「衝動買いしたことは後悔していないけれど、アルブレヒトはこんな可愛いカップでお茶を飲まないでしょう。ようやくこの子達をご披露できたわ」


「辺境伯を出し抜けた栄誉をいただきます」


「まあ!!」


俺はカップを持ち上げ、その可愛くも美しいカップの中で揺らぐ茶の香りを嗅いだ。少しスモーキーで異国風。口に含めば。


「ああ美味しい。ヘランバートル皇国産のキーム茶が飲めるなんて!!」


「キーム茶はバルバドゥス伯爵家お抱えのアルバー商会のお勧めですものね。きっと気に入って頂けると思ったわ」


「ええ。仰る通り。大好きです。何年ぶりだろう」


デボラは喜ぶ俺に切なそうに目を細め、それからぽつりとつぶやいた。


「今度はスタンピードが起きるのですってね」


「ん、くく」


お茶を吐き出す所だった。

女子騎士案件超えてそれ? と。

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