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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第二部第一章 俺は帰って来た、過去のデュッセンドルフに

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お手伝いに一万円分の銀貨は安いか高いか

昼過ぎには家屋内のものは全て運び出され、一つ残らず荼毘にふされた。

俺はゴミを燃やし尽くしている聖なる炎などガン無視で、貴族的な飾り文字を多用した契約書を自動機械人形みたくなって頑張って仕上げている。


周囲の目は俺の手元に釘付けだ。

俺の手が綴る素晴らしい貴族的文字よりも、俺の持つペンに興味津々なのだろう。

役付きの彼らは下っ端と違って書類もたくさん書くからね。


ファンタジーあるあるみたくガラスペンを考案したのか? の、わけがない。

俺がこっちに戻ってまだ二日だ。

鉛筆サイズに切り出した木の棒の先を、やっぱり鉛筆みたいに削っただけのものを使っているのだ。


これは羽ペンよりもインクの持ちも良いし書きやすい。

割り箸を鉛筆削り器で削って作った割りばしペンって、意外と使えるでしょ。

先が潰れたら簡単に削り直せるし、気兼ねなくぽいぽい捨てられるし。


「あの団長にあんな細かい魔法制御させてあんなもん作らせるとは」

「ブルーノ。そちらの団長、罪の意識で完全言いなり? ということ?」

「やはり団長はブリューを埋めてたのか。神よ、祝福を」

「祝福してどうするよ。アルバン。埋められたブリューが土ン中で成長してたんだぞ? ブリューは芋系魔人だったって脅えるとこだろうが」

「ハハハ。ダフネの言う通りじゃ、魔のブリュー畑があるって感じだ。いいね。土の中で育ったブリューがモロモロ土から這い出てくるの。掘り出しに行ったら、お尻が可愛い五歳サイズがいるかな」


いねえよ(怒)。


「デニー、インク」


「はい、どうぞ」


背中を机代わりに俺に差し出し屈んでいるデニーが、インクを持つ手を差し出す。

周囲の誰かが鬼と罵ってくれたが、実際がわからなければ書けないものだから今やってんだよ。俺は契約書の紙の下敷き代わりにもなっている偉そうな黒表紙の帳面に視線を動かす。


家屋から運び出されたものはこの黒表紙の帳面に記入され目録となり、ゴミとなったそれらの損害額も注釈として書き記してあるのだ。室内の意図的な破壊跡と汚され方についても記載漏らさずだ。


こういう算出ができるのも、前世でばあちゃんち片付けてる時に売らないかって話があって、その時にちょっと調べたりしていたし、現世では館の手入れの手伝いもしていたからね。

経験が無駄になることは無いって本当だね。

お陰でとても良い契約書が作れたよ。


「よし、終わり」


「一切合切燃やしちゃったし、きれいにして足跡も消えたし、言いがかりとか言われませんか?」


デニーはのっそりと体を起こした後、もう締まっているインクの蓋を回す素振りを続けながらびくびくと俺を覗う。

俺は出来上がった契約書を帳面に挟み、パタンと帳面を閉じながら言い捨てた。


「言わさない」


あんまりにも後ろ向きだと、俺はデニーをちょっと睨む。

あれ?

…………叱られた犬の伏せた耳がデニーの頭から生えて見える。どうして。


俺は目元を軽く揉んで、たった今の幻視を振り払う。

それから改めて笑顔を作って、待たせていた本日の功労者達へと向かい合った。


「本日はありがとうござました」


「こわ」


誰だ? エルマーか?

ていうか、どうして皆さんなんか脅えた目つきしてんだよ。


「ええと、室内も洗浄魔法入れて下さったので、あとは家具入れるだけになりました。とても感謝しております。で、これ、オズワルドからの心付けです」


なぜか不穏になってる大掃除隊員達に俺は内心小首をかしげながら、オズワルドから受け取っていた銀貨を差し出した。一人分ずつ、小さな小袋に入れてある。そんなポチ袋この世界には無いから、俺が今朝急いで作ったのだ。色付き便箋を正方形に切って、中に小銭入れて折り折りと。オズワルドこそとても欲しがって、余計に一袋多く作る羽目になったのが解せんが。


中身は自分の小銭だぞ、いいのか?

機嫌がいいから、ちょっといいものも貸して貰えたんだけど。

ふふっと思い出しながら、俺からポチ袋を受け取ったエルマー達の様子を見守る。


「可愛いなあ。御礼の仕方が五歳児って、うそ」

「面白い紙の折り方をって、え、うそお」


ふふ、喜べ。

前世では引越しの手伝いをしてくれた人には、三千円から五千円を渡すのが常識らしいが、中身は銀貨で一万円ぐらい入っている。全員分でそれなりな出費になったが、前世で引越し業者に頼んだ場合の金額を思えば安上りだ。


「おお。タダ働きじゃなかったのか」

「こんな気遣いまで」

「いいのか? こんなに貰ったらあとが大変じゃないのか?」


ダフネとエルマーと違い、ブルーノにアルバンとそして良心の青年リノは、銀貨に喜ぶよりも困り顔である。

あれ、御礼にお金渡すのってこの世界じゃそぐわない行為だった?

でも我が領で俺はこうやって余計な仕事をしてくれた使用人に心付けを渡してて、そしたら人使いが上手いって父様に褒められたんだけど。あれも親の欲目で、本当は無駄遣いがって困ってたかな。


「皆様への感謝の気持ちでしたが、不要でしたら返してください」


「「「「「やだ」」」」」


全員が全員、同じ動作で銀貨隠して拒否したよ。

返す気無いなら余計なこと言うな。


「それで、ブリューはこれからどうするの?」


エルマーがすっごいほくほくそうな声と顔で俺に尋ねた。

お仕事第二弾があると思ってるのかな、あるけど。


「飯前に片付けたい案件があるので、そっちに行きます」


「買い物は腹ごなししてからにしなよ。荷物持ち手伝うぞ」


「小金をせびりに行くだけですよ」


「砦に戻るの? やっぱ金なくなった? 一回これ返そうか?」


「でも後で上乗せして返せ?」


「ハハハ。そうそう。この可愛い折りものもたくさんつけて」


「気に入って頂けて幸いです。俺が行くのは砦じゃなく、冒険者ギルドだから大丈夫です。この家を汚した冒険者パーティから賠償金貰いに行くだけですよ。では、本日は――なんで皆さん嬉しそうな顔をしているの?」


「そんなん声かけろよ。俺も行くから」


「そうですね。そんな危険な場所に一人で行くなんて無謀です。俺も」


「違うって、リノ。俺達は、ブリューの手腕を眺めに行くだけだって」

「そう、邪魔しないでくださいね」


エルマーはわかるが、アルバンこそリノ側に立つかと目に入ると思ったけど。

まあいいや。

せっかく見るからに怖いお兄さんを五人も手駒にしてるんだから、もう少し俺につき合わせても良いよねって思うし。

そのための嗅がせ薬でもあったからね、お駄賃は。

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