魔獣騎士団長の癖に門を顔パスできないとは(怒)
砦に着いた俺達に、当り前だが門番が俺が誰かとオズワルドを問い質す。
そして今は深夜。
俺は連れこみ宿でもいいから宿に泊まれば良かったと、オズワルドを睨む。
「ブリューだよ。覚えているだろ? あの小さかったブリューが良く大きくなったなあって、感激してやれよ」
門番あんぐり、酔っぱらいの無理難題状態、である。
この人はほんと、何をやりやがってくれてんだろう。
俺は、ああ、こんなアグレッシブに動くキャラじゃ無いのに。
門番とオズワルドの間に入る。
「申し訳ありません。酒屋でクビになったばかりのブリューと申します。孤児でこれからの住む場所もないので、グラナータ様がご自宅の家政夫に雇ってくださったんです。ですが、家が野宿した方が良い状態だったので、今夜は砦のグラナータ様の部屋で休めと連れて来られたのですが。ダメですか?」
オズワルドをしっかりせき止めてた強面の中年の門番は、意外にも心優しい方のようだ。俺の申し出に対し、オズワルドに対したように強く出るところか、栗毛色の眉毛の眉尻を下げて困った顔をした。
「いや、だめ、というか、城主の許可が無い方を簡単に砦内に入れるわけがいかない、といいいますか?」
「わかります。では俺はそこの門前の路上で一晩明かします。帰る場所も無いんでいいですよね。もしかしてこのまま凍死するかもしれませんが、いいですよね? だって俺、ここから離れるのは怖いし」
「いや、あの。宿に泊まることは?」
「僕、十四歳で、お金ないです」
門番は言葉を失ったのか、ぐっと歯噛みする。
この国は十二歳から働けるが見習いという扱いで、十四歳になって初めて労働者として扱われる。それなのに十六歳が成人年齢だ。
本来は体がしっかりしていない子供を働かせてはいけないが、子供が働けるならばすぐに働かせて稼がせねばならない平民の貧しい生活に添った慣習法でもある。
それで出来るだけ働く子供を庇護できるように十六歳と成人年齢を設定しているそうだ。けれど俺は逆に庇護どころか、十六歳まで半人前扱いで給料をピンハネされているんじゃないかと疑っている。
常にネガティブ思考だからかな。
ついでに貴族の子女が通う学校が十四歳からというのも、平民が働いて修行しているように自分達も学業に専念して修行する、ということらしい?
なので十四歳から魔獣騎士団の見習いに入って正騎士になったケヴィンは、もとから王都の学園に行くってことは考えていなかったらしい。
それでも無理矢理、それも十五歳の彼を学園に編入させたのは、王都でアンデッド魔獣を討伐するケヴィンの姿に惚れた貴族女性達の願いなんだそうだ。
道々オズワルドに聞いた話じゃ。
デュッセンドルフは遠いけれど、次男なら婿に来れるわね。
話題の子を我が家の娘の夫に。
愛人にしてもいいわね。
貴族夫人の願いはこんなんだろうな。憐れケヴィン。イケメンって辛いね。
あ、話が逸れた。
門番が俺のセリフで言葉を失ったのは、労働可能年齢でも未成年なのでちゃんとした宿には泊まれないし、悪い奴らに捕まれば、働ける年齢だからと無理矢理契約させられていかがわしい店で働かせられる可能性を考えたからである。
もし俺の入城を拒んじゃったらね。
だけど、オズワルドという権力者を前にして頑として不審者を入れないって姿勢、俺は評価する。ついでにオズワルドを城外に出さないって徹底してくれていたら、俺がこっちに戻って来なきゃいけない世界にはなって無かったかも。
うん、ぜんぶ、フラフラしているオズワルドが悪い。
「じゃ、そういうことだから。ほら、ブリューさっさと入れ。酒が覚めちまっただろうが」
「ちょっと待ってください。その子のことよりも、勝手に魔獣を砦内に入れないでください。事情ある子供よりも、自分の愛玩魔獣を申請書類なしに出し入れされる方が困ります!!」
「こいつはジェニーだ。見りゃわかんだろうが」
「ベヘモットはどれも同じでしょうが!!」
「違うだろ? 本気かよ?」
「一般人はそうだと言っているんです。そのために必要なのは鑑札でしょう。どうして首に掛けて無いんですか。無い? ちょっといいですか? 今日こそ聞いてもらいますよ」
何だ、門番が止めて説教をくらわしたかったのは、オズワルドにだけか。
だけど、これからジェニーさんについての申請書類書いたり手続きやらしていたら、どれだけ時間がかかるのだろうか。
気をもみ始めた俺に、オズワルドを叱りつける門番の横にいるもう一人の門番が、俺にこそここそっと囁いて来た。俺よりも緑がかっている濃いアッシュブラウンに俺と違ってしっかり緑色の瞳をした彼は、にっこりと、それは安心感ばかり感じる笑みを俺に向け、入城証となる木片を差し出してくれている。
「寒いし遅いから君だけでももう入りなさい。騎士団寮の受付はいつでもやっているから、受付に声を掛ければ仮眠用の部屋を貰えるはずだよ」
親切。
「ありがとうございます。本当にお世話になってます。うちの主人が本当に毎日、毎秒、ご面倒をお返しするばかりで申し訳ありません」
「ハハハ。その従者っぷり!!これからよろしくね、ええと」
「ブリューです」
「そうか。俺はリノだ。君は確かにあの子の面影もあるし、名前も同じだ。あの人が君を路上で拾っちゃったのは仕方がないね。あの子がいなくなったあと、あの人、すっごく落ち込んじゃったんだよ」
オズワルドが周囲に分かるぐらいに、小さなブリューの消滅に心痛めていたようだと知ったが、心温まるどころか、ぞわわん、だ。
「オズワルド!!あんたって、幼児愛好者だったのか!!」
「ふざけんな!!俺が酒場のネーチャンを土産にしてたの知ってんだろ!!」
よし、いい返答だ。
俺は親切な門番のリノに向き直る。
「すいません。どうやら彼は俺を酒場のネーチャンと勘違いしてるみたいです。酔っぱらいの酔いがさめたら俺は叩きだされるかもなんで、このおっさんをさっさとベッドに放り込んでいいですか? 明日必ず出て行きますし、ジェニーちゃんもおっさんの部屋に閉じ込めて問題を起こさせませんから」
リノには俺の思惑がすぐに通じたようだ。
彼もこんな深夜にオズワルドとグダグダしていたくはない。
彼は相棒へと囁く。
「いや、でもお前」
「ガースさん。酔ってる団長弄ったって意味無いですよ。わかるでしょ」
「わかった。行っていいよ。そのベヘモット、ジェニーさんは厩舎に入れて?」
「かしこまりました。やっときます。ほら、おっさん。行きますよ」
「誰がおっさんだ、こら」
「さあ、お部屋行きましょうねえ~」
俺は酒場のお姉さんがオズワルドにしていたようにオズワルドの腕に自分の腕を絡めると、ぐいぐいと、勝手知ったる騎士団寮へとオズワルド引っ張って行く。
どんどんと寮の建物に近づけば、オズワルドが噴き出して笑い出す。
「お前はろくでもねえな」
「ろくでもないのはあんたでしょうが」
「ハハ。俺のことを、あんたに、主人と呼ぶ。お前って俺の女房みたいだな」
俺の背筋にぞわん、ぞわわんと、いや~な寒気が走る。
この世界はBL系だったりするのだろうか。
それはごめん被る。
「おずわ」
「しばらくは俺の相棒だな。よろしく頼む」
「あんたの面倒は見たくないな」




