オズワルドのヤサ
エルマーの命を使ってでも阻止したかったオズワルドの死。
めっちゃ簡単に阻止できた。
酔っぱらいオズワルドを自宅に連れて帰るだけの簡単なお仕事でした。
たぶん?
「ここが俺の家だ」
目の前にはこじんまりした二階建て、ちな、いわくつき物件ぽい風情の手入れもされていない幽霊屋敷が建っていた。手入れしてさえいれば、赤レンガ造りで可愛いヴィクトリアンハウスだっただろうに。勿体無い。
俺は恐る恐ると、外観がこうならば家屋内も想像がつくと思いながらも、百万分の一くらいの確率で「違うじゃん」があるかもと意外性に賭けて扉を開けた。
だって今夜の宿はどうするのっていう、俺にとっては命題が残っている。
頑張れ俺ってやつだ。
「うっわ、汚い家。家を傷めるばっかなオズワルドに大家がムカついて、それで川に投げ込まれて殺されたんじゃないの?」
「大家などいない。借家じゃない。持ち家だ」
「はあ?」
意味わからな過ぎて途方に暮れる。
賃貸でも理解不能だが、自宅という財産をこんな扱い?
「俺は今すぐ寝たいのに!!」
「お、おう?」
もう夜だし、俺は荷物も無ければ宿の予約も無いエトランゼだ。
オズワルドの自宅にご厄介になるしか無いが、オズワルドの自宅の扉を開けた瞬間に俺が確信したのは、野宿の方がいいやつだ、である。
寒いから凍死するかもだが、ここで腐れ死にするよかいい。
共有トイレのあまりの汚さに、野ぐそしたいと切に願った、五歳の時の騎士寮宿泊時のことを思い出す。
で、こんなとことで寝泊まりできていたと?
ああ、もう!!
宿舎のトイレでも思ったけど、異世界人の衛生観念どうなっているの?
ああ、さらに俺を追い詰めるが如し、家から何かが腐っているような匂いがする。
もちろん、扉を開けたすぐ前にゴミらしき障害物がある、けど、それ以外の奥からだ。
どんな魔の空間になってんだ。
ここを今から片付ける?
むりむり、俺の足は一歩も前に出ないよ。
騎士団寮のトイレも腐海だったが、あの時はうんこ漏らしたくないそれだけで頑張れた。
けれど今の俺は、
「ほんっとになにこれ? 自分の持ち物だったら大事にしようよ。管理できないなら買うな。金の無駄遣い」
「仕方がないだろ。買ったはいいが住む気が失せた。内覧しないで買った時のままほっぽってたんだよ。これほどとは俺も思わなかった」
ああ、あれだ。
結婚前提に付き合った女性の為に家を買ったはいいけど、その相手にあっさり捨てられてしまったっていう流れだ。
これでは突っ込めない。
これ以上何も言えない。
一生童貞な俺が一生受けることはない心の傷をオズワルドは負ったのだ。
「そう。それで普段はどこに泊っているんだ?」
「砦の騎士団寮。当たり前だろ?」
「……なんでさ、俺をこっちに案内したわけ?」
「見せたかったんだよなあ。ブリューがもしも帰れなかったら、俺がパパになるよって言ってやりたくて買った家だからさ」
ぞわん、そわわん、と背筋に寒気が。
え、このおっさん、本気でそこまで俺を気に入っていたの?
どの部分で?
エルマーみたくお尻は見せた覚えはねえぞ。
とにかく突っ込むな、この家についてはもう深く触れるな。
「いつ買ったの、この家」
俺の好奇心は我慢できなかったようだ。
怖いもの知りたさ、というか。
「お前が砦に泊った日だな。お前の幼気さに親心が生まれた俺は、デニーに頼んで適当な家を手配して貰ったんだよ」
「聞くんじゃ無かった。家手配した翌日に俺消えたんじゃ、そりゃあ」
「何も手に付かなくなった。俺に残ったのは無意味な家とその借金だ」
「それで一緒に住むガキが欲しいと、赤ん坊だと思った発情期の猫を橋げたから引っ張りだそうとして、ぼちゃんか」
「そんな馬鹿な死にざまあるか。あれだよ、目障りな俺に放たれた刺客の腕が良くって、俺はとうとう殺られちまった、だよ」
「刺客に殺られたって奴より、俺は川で溺死の方がいいな。そっちだと、オズワルドより強い奴いないじゃない」
「ぶふ、確かに」
「じゃあ、宿屋に案内して。俺は一休みしたい」
「うちの寮でいいだろ」
「俺はもう五歳じゃないし、本人だけど皆が知っているブリューじゃない」
「大丈夫だよ。便所掃除するとこ見りゃ、みんなお前がブリューだって認める」
「うっそ。まだやっぱり汚いの? 俺は宿屋に泊まりたい!!」
「宿屋も汚いぞ。共有トイレなんかそんなもんだ」
「うわあ。この家を掃除したら明日から住んでいい? 俺はたぶんこれから三か月後に起こるスタンピードを抑えられたら消えるんだと思うけどさ、それまで住むところが必要だし」
「お前は消えていいのか?」
「いいよ。前の世界が消える方が良いからね。だって聞いてよ最低だ。デュッセンドルフ領でスタンピードが起こって魔獣騎士団は半数が亡くなって、その一年半後には王都の学園の生徒がアンデッドモンスター化してケヴィンが殺された。そして国内は魔獣が氾濫し、アンデッドモンスター化した死体がそこかしこを闊歩している。そんな世界、俺は消えて無くなった方が良いと思う」
「だが、お前の家族は生きているんだろ?」
「俺の大事な家族はあんな世界で生きていていいわけ無い」
「お前は――」
オズワルドは俺を抱き締めた。
俺は大きくなってはいるが、やっぱりオズワルドの腕の力は馬鹿力。
「放せ!!俺の骨を折る気か!!」
「ハハハ。悪い。俺は時々わかんなくなるんだよ。よし、家の中片付けるか。明日からな。今すぐじゃ活きのいい奴を捕まえられない。それで明日からそいつら奴隷を使って、明後日には一緒に暮らせるようにしよう!!」
「ははは、部下を奴隷ってひっどい上司」
良いのか、エルマー。
命賭けた相手がこんな奴だぞ。




