砦での俺のお預かりはオズワルド
エピソード19の後の五歳のフィールとオズワルドの砦にて、です。
十五歳のケヴィンは火力が足りないようだ。
その事実に俺はケヴィンに対して酷い顔を向けてしまったかも。
そのため、ケヴィンは落ち込み、いつもよりも弱気になってしまったらしい。
「あの、俺がここに来たのは、母さん達がブリューの寝床……いや、君は団長と一緒の方が良いのかな?」
誘い方が弱い。
自分を否定されなれて無い子は脆いな。
俺は扱いが良い方が良いから、領主館の方に連れて行ってもらえるなら、いや、連れていかれたその後のことを俺は考えるべきだ。
俺に慣れている母様は俺が適当に転がってても転がったままにしておいてくれるけど、ケヴィンのお母さんやお姉さん方は子供の扱い方が暑苦しそうじゃないか?
ついでに言えば今は昼過ぎおやつ前ぐらいの時間だ。
俺はケヴィンについて行った場合をと想像し、親戚の子供好き婦人達が自分や兄達になにをしたかと思い出し、物凄くぞっとしたまま身を竦める。
わあ可愛い、お膝に乗って。
お菓子はどうかしら。
ひさしぶりのオバサンと沢山お喋りしましょうね。
否である。
絶対にお断りだ。
「オズワルドと一緒が良いです」
「じゃあ。また明日ね」
打たれて弱くなっていたケヴィンは簡単に引きさがり、弱弱しい笑顔を見せてからオズワルドの執務室から去って行った。
俺は今後のことを考え、落ち込んだ風にして去っていく少年を追いかけるべきか。
「いいのか? ケヴィンについて行けば領主館で美人に囲まれての上げ膳据え膳贅沢三昧だぞ」
「僕は大人の女性による可愛がりが苦手なんです。それに」
「ぷぷ。それに?」
「俺はこの部屋の隅っこに転がっていられた方が楽なんで」
「――俺もそうだけどな。ここには菓子も何もないぞ」
「いいです。毛布だけ下さい」
オズワルドはほんの少し眉根を寄せた後、自分が着ていた上着を脱いで俺に放り投げた。俺はそれを全身で受け取ったあと、すぐさまオズワルドへと突っ返す。
「毛布を下さい」
「普通はこっちの方が喜ぶんだけどな」
「重いしオズワルドの匂いが強くていや」
「……俺が臭いと」
「父様の匂いを忘れたくない。毛布下さい」
「……そっか」
オズワルドは部屋の扉付きの棚へと歩いて行き、そこから、今度はコートらしきものを取り出して俺に放った。
先程よりも大きくて重いので、俺は受け取ったそのまま転がった。
何せ俺は五歳児。
そして受け取ったこれは毛皮のコートだ。
俺はコートの外側の毛皮が体に当たるようにして抱き締める。
ぎゅっと目を瞑れば、俺は見ず知らずの部屋の床でなく、父の執務室の床の上で五歳の誕生日に貰った大きなクマのぬいぐるみを抱いて転がっているだけだと思いこめる。
お父さんはこんな俺に呆れるどころか、時々転がっている俺を抱き上げたり、お菓子を渡してくれるんだ。そして俺を探しに来たお母さんに見つかって、僕達二人は怒られるんだ。
あるいは、僕を探しに来た兄達が今度は僕をぬいぐるみみたいに抱きしめ、一緒に床に転がってしまったり。
そんな、昨日までと同じ幸せのままだって思える。
俺の頭に乗った大きな手は、お父さんの。
「未来を変えてどうするんだ、お前は」
オズワルドはそう呟いた。
なんか切なそうにも聞こえる声で。
未来が変わったら俺の存在が消えるのを知っているのかな。
だから、俺は答える気も無いから目をつむったまま寝たふりだ。
大きな溜息。
それから俺の傍にしゃがんでいただろう気配は消え、俺の意識もいつの間にか消えて無くなっていた。
体を軽く揺らされて目を開ければ、部屋の中はかなり暗い。俺はあの後本気で、毛皮のコートを抱いまま熟睡していたらしい。起き上がってみれば、俺の体には毛布が掛かっていたし、寝ていた場所は床どころかソファの上だった。
パッと明りが灯る。
「寝かせたままでもいいが、真夜中に腹が減って起きたガキの世話を考えると、食わしとかなきゃってね」
オズワルドはサイドテーブルに、プレートを置く。
そして俺の向かいのソファに座った彼の前にも同じプレートが置かれた。
夕飯だ。
メニューは、何味かわからない野菜スープと硬そうなパンと干し肉? だ。
「好き嫌いはするなよ。これはうちの兵食だ」
好き嫌い? しませんよ。
ライトノベル異世界転生あるいは転移の主人公のテンプレ食体験じゃないか。俺は幸運にも財力のある伯爵家に生まれたからさ、今までこんなの食べた事無いから興味深いばかりなのだ。
本気で不味くてカチカチパンなのかな。
「ええと。今日も恵みをありがとうございます」
祈りを上げれば俺はスプーンを掴み、恐る恐るとスープを口に運ぶ。
普通に旨い。
なんとなく畜生と思いながら、今度はパンをちぎる……れない。
やった、これぞファンタジー世界の硬くて食べられないパンだ!!
俺は硬いパンにそのまま齧りつき、グウっと悔しさに臍を噛む。
「すごい顔して。口に合わないか?」
「普通に美味しくて悔しい。パンは硬いけど香ばしい。噛めば噛むほど味がじゅわって来る」
「不味くないんなら喜べよ」
「だって」
これ、前世にあった本格焼き立てフランスパン屋さんのパンだよ。
フランスパンは口を切るぐらいに硬くてぱりぱりじゃないといけない、そういう本格的過ぎてリピーターがなくてすぐに潰れたあのパン屋に通じる奴だ。
だから。
大好きだったのに、失った味だった。
「泣いているぞ」
「美味しいけど噛み切れない。食べやすく切って」
「だよな。お前は子供だったな。ハハハ。まだ五歳の子供なんだよな」
大きな手は俺の頭をさらっと撫で、それから俺の手からパンを奪った。
その後は、俺のパンを懐から取り出したナイフで切り始めた。
「他にもして欲しいことはあるか?」
「干し肉も切っておいて」
「もう少し五歳の子供の仮面被れよ」




