メランコリックな人はグダグダしていたいだけなのに
威圧的な講師が俺の前からようやく去ったかと思えば、そいつと同じく大柄だが使える筋肉でしゅっと締まった体をしている、焦げ茶色の髪に焦げ茶色の瞳をした硬質的な顔立ちの男が出現した。
いつもの戦斧は持っていないが(ここ学園内)デュッセンドルフの魔獣騎士団の黒い軍服を着ている(ここ魔獣いないよ?)彼は、彼こそ出会いたくなかった魔獣に出会ったようにして、俺をダメ出しして来た。
「弱い者いじめ、お疲れ様です」
「してないし。学生と講師だったら俺の方が弱者でしょうよ!!見てたならあのうざいのの仲立ちぐらいしてよ」
「できる限りブリューの邪魔をするな、が団長の希望です」
「俺になにができるって言うんだよ」
「そう思っているのはあなただけでしょうね」
ギードは、呆れ返ったぞと言う風に溜息を吐く。
いかにも、自分の推し担と全く違う俺への呆れと俺への言付かりで、自分をケヴィンの側から離れさせやがってという気持が籠った溜息だ。
推し担と心中までしてみせた、強火担め。
わかるけどね。
ケヴィンってさ、ロープレの勇者みたいなキャラなんだよ。
ちょっとお馬鹿で乱暴な口調をする子だけど、人を貶めることは言わないし、義理堅く人情に厚く、困った人がいたら親身になってと、とても良い子だ。
忠義を捧げる相手を探していた人には、胸ど真ん中じゃないかな。
ギードとか、ギードとか、ギードには。
そんなギードは、ケヴィンの側仕え兼護衛で学園に常駐している。が、オズワルドの養子になった俺についても目を光らせるようにとオズワルドに言い含められているのだ。
たった今ギードが漏らした言葉によれば、オズワルドが目を光らせて欲しいのは俺の危機ではなく、俺がやっちゃった行動を、らしいいけど。
酒の肴にしたいのかな。
「ブリュー、受け取って」
ギードはさっさと仕事を終わらせたい雰囲気を隠さずに、厚みのある書類袋をどうぞと俺に押しつけた。ぐいぐいと。受け取らないけど。
書類袋を受け取ったら俺の終わり。
俺は袋の中身の書類が何か大体わかったからだ。
寂れ征く世界で人口が減っていくならば、領でのゲオルグの補佐官の数も減る。そこでこんな俺でもできる事ならと、俺はゲオルグの手伝いもしていたのだ。
それに前世で経理事務も営業事務も庶務仕事もやっていたから、きっとなんとか男爵領の経営についての書類仕事はなんとかなる、だろう。
だけどね。
「団長からのお願いです。来週までに仕上げて王宮に提出してくださいと。俺は領地経営は無理だわ~、だそうです」
「俺は絶対に受け取らん!!」
「あなたが受け取らねば困る人がどれだけいるとお思いですか? と、これも団長からの伝言です」
「てめえが開拓した魔の森じゃねえか!!」
「確かに開拓地としてあの土地の権利を得たのは団長ですが、そこにマンドラゴラ植えて、かなりの利益を出したのは誰ですか?」
「……ぼくです」
せっかく魔の森を後退させたのだから、魔獣でさえも避けるマンドラゴラを境界に植えたらどうかってオズワルドに提案したのは俺である。
この世界でもマンドラゴラはやっぱり幻の薬草だが、抜いた人間は死ぬ、というオプション付きなのも一緒だ。ヘタに足に引っ掛けて抜いちゃったら、魔獣でさえも即死する即死魔法を放つのだ。
魔獣除けになるのもそれが理由で、実物が魔の森のあちらこちらにゴロゴロ生えてて万能薬の元になるのがわかっているのに幻なのは、「誰も怖くてマンドラゴラを抜けない」からである。
Q、そんなマンドラゴラをどうやって植えたのか?
A、抜かなきゃいいんだよ、あんなもん。
プランターサイズに土ごと掘り起こして、そのまま移植しちゃえばお終いだ。
魔獣除けにするんだから、生えている状態を維持できてればいいのだ。
だがしかし冗談で結界だと線引き状態で植えただけなのに、適度な水やりや肥料と日当たりの恩恵を受けたマンドラゴラが、一ヶ月経たずに増殖してマンドラゴラ畑を作ってしまったのには驚きだ。それどころか、日向ぼっこがしたいのか、時々地面から飛び出て転がって乾燥している奴もいる。
もしかして、収穫しろってことか?
それで乾燥してたやつを拾って売ったら、一本金貨十枚で売れたとはこれいかに。
瑞々しい状態だったら金貨五十枚だとよ!
飛び出た奴を拾うシフト仕事が魔獣騎士団に出来たとかなんとか。
「……税務と土地の権利関係に、か。みんなも土地開発出資者ってことにしたから利益分配とか税金計算が面倒になったか。で、俺にやらせたいのわかったけど、直接提出しろって? 最終確認のサインは? 俺にはできないよね?」
ギードはニコリと微笑んだ。
それから俺に金の指輪とその指輪の使用許可なる証明書を差し出した。
「領主が絶対に手放しちゃならないシグネットリングでしょおお!!」
「ブリューに預けるのが一番安全だと俺達こそ思ってますんで、ぜひ」
確かに。
オズワルドが嵌めていたら、三日しないで酒場の姉ちゃんに奪われてそうだ。
「あいつが俺を学園に入れたがったのは、こうしてしっかり自分の仕事を俺にやらせるためだったのか。側にいれば俺があいつにやらせようとするからな」
「団長は元の家にいれば受けられたであろう環境をあなたに提供したいんですよ。男爵になろうが元は平民の一兵士でしかない団長では、伯爵様が息子に出来るものとはダンチでしょうがね」
「ハハハ。いい迷惑」
「迷惑、ですか?」
「うん。俺は学校嫌いだし。人ゴミも都会も嫌い。同年代の子供も大嫌い。親になりたいんだったら、まずは子供の真実に向き合いましょうって伝えてくれる?」
「オルディアート語、難しい」
「てめえ、面倒になると片言異国人に戻りやがって」
ギードって陽キャなエルマー達との会話が面倒になると、カフマン国のザナドゥ族出身ってことを利用して、オルディアート語がわかんない異国人ぶるんだよ。
「ケヴィンに泣きつこうかな。ギードが薄情だって」
「くっ」
「ハハハ。ざまあ」
そして俺はできる限り面倒無しでグダグダしたい人間だ。
俺は大きく溜息を吐きながら、結局、オズワルドからの押し付けを受け取った。
学校は九月開始。
時系列ではケヴィン(15)が無理矢理に学園二年に編入させられたのは健康の女神のアマテリアの季節で11月ぐらい、その頃にフィール(14)がオズワルドの所に転送されてます。その半年後の武の女神アテイリアの季節で5月にあたる頃にフィールも学園入り、です。
オズワルドはケヴィンが爆殺された事案についてまだ警戒してますので、目端の利くフィールを学園にぶちこんでいるのですが、フィール君はそのことすっかり忘れてます、てか、フィールが気付いたらケヴィンが17になる頃で良いじゃないって騒ぎそうなのでオズワルドは黙ってます。
ちなみに学園は14歳から17歳までの四年間です。
そして、こういうゆるーい感じを書きたかったので、フィールの学園編のエピソードの方が書いていて楽しです。ここまでお読み下さりありがとうございました。




