だけどやっぱりリア充には嫉妬します
「ごめん。だって素晴らしい先輩じゃないか。先輩!!この間は迷った新入生を自分の授業も放って助けたって聞いてます。お優しいですね」
うん、俺を見つけたって授業から逃げ出して俺を捕まえ、学園に抱えているかなりの鬱憤をくどくど俺に吐き出してくれたよね。学園に通う気なんか無かったのに王都動乱で目立ったせいで、無理矢理に学園に入れられちゃってたなんて知らなかったよ。だけどね、愚痴話聞くこっちのSAN値がガタガタよ?
「あと、肉体を作るために甘みを断っているって、ストイックでカッコイイって尊敬ですよ。それでケヴィン様に共感した騎士科の先輩達も、女子からの差し入れを全部断って鍛錬に励んでいるなんてお聞きしてます。凄いカリスマです」
うん。女の子は恋のおまじないをしたがるよねって話をしたら、ケヴィンどころかケヴィンの友人や同期、先輩方に伝わって、女子からのお菓子怖いになっちゃったんだ。本気でか失敗か、本当に髪の毛が入っているパウンドケーキを貰った人もいたからねえ。手作りは危険。
どこぞの上位貴族の娘が恋の媚薬(?)を手に入れて、それを手作りお菓子に使用した事によって起きたあの災害だったからね。俺は頑張って手作り菓子危険と布教するよ。またあんな未来は嫌だよ。
俺は家族を完全に失ったかもだけど、前みたいに大事な人が死んでいるばかりの世界は嫌だから、不幸のフラグっぽいのは出来るだけ折って行くつもりだ。
「で、ほら、僕の名前」
「ちゃっかり大将って呼ぼうか?」
「止めて」
「ハハハ。ケヴィン。彼は同じクラスのサミュエル・ルイス君ですって、あ、違う。ええと、ルイス様です」
いけない。
俺は今はオズワルドの養子で、一代男爵の息子でしかない。
もとの伯爵家三男じゃないから、子爵家次男には様付け絶対だ。
「ええ~ケヴィン様を呼び捨てにしている癖に。僕のことも名前を呼び捨てでいいよ。グラナータ君」
「いえ、そういうわけには」
「やめて。グラナータ君に敬語使われるとなんかざわざわするよ」
「だねえ。誰もが脅えるグラナータ殿に敬語なしでずけずけ物言える奴なんだ。そんな奴に敬語使われたら逆に怖いだろ。だから俺は呼び捨てにさせているんだ」
「わかります。入学してすぐに、あの威圧的なバイハン講師をやり込めていましたもの。あれで新入生全員がグラナータ君に一目置いたんですよ」
「知っている。上の方でもしばらくその話で持ちきりだった」
「持ち上げるまでもないことでしょうに。さあ、ケヴィン。どこに行きたいんでしたっけ? 先日サボったと聞く薬草学の講師室に行きましょうか?」
「うわ、ヤッバ。逃げるぞ、ルイス」
「はい、先輩!!」
俺は楽しそうに駆け去っていく二人の後姿を眺め、やれやれと首と肩を回す。
老人臭い素振りだが、中の人は前世を含めれば今はそれなりな年齢だ。
「もうグダグダしちゃっていいでしょう」
俺は適当なベンチに座り目を瞑る。
「こんな場所で眠ったら風邪を引きますよ?」
まるで花がほころんだような優しく可愛らしい声に目をパッと開けば、目の前には確実に上位貴族で上級生の美女が立っていた。
誰?
俺は目を開けたが、体勢を紳士的なものに変えられなかった。
まるで交通事故に遭ったばかりの猫みたいに、ベタっとベンチに両腕を開き足を開いた恰好のままだ。視線だって美女から動かせない。
彼女の左右に二人の制服女子もいるが、俺の目は美女に固定されたままだった。
だって、こんな可愛い系美人を俺は初めて目にしたのだ。
今すぐにスマホ撮りし、俺の大事なメモリーフォルダーに移動させて永久保存したくなる。つまり、胸は大きいが華奢で少々童顔という俺の嗜好どんぴしゃりな美少女が、今、目の前にいるのだから、俺が感動で動けるはずなど無い!!
月の雫で出来た様な輝ける淡い色の金髪に、タンザナイトのような青紫色の透明で神秘的な瞳。唇は、唇は、桜色でプルっとしている。
美しすぎる!!
「うふふ。驚かせてごめんなさいね。どうぞお楽になさって」
「姫様。彼はかなり楽な体勢をされているとお見受けします」
「元平民ですもの。養父もそうでしょう。礼儀というもの自体学んでいないのですわ。姫様、このような方はお捨て置きを」
上位貴族どころか姫だったという情報よりも、階級差別のない前世を知っている俺は彼女の取り巻きの俺への蔑みが気になった。
さあっと冷静になった俺は、ゆっくりと立ち上がる。
それからオズワルドと俺への侮辱の仕返しの如く、伯爵家三男として学んできた王族に対した時の最上礼の形を取った。
「ま、まあ。おやめになって。ここは学園です」
「恐れながら。あなた様に仕える方々はそうはお考え無いご様子ですので」
「そうね。私の者が失礼いたしましたわ。私自身は身分を問うつもりはありません。さあ、お顔を上げてくださりませんか?」
俺はゆっくりと顔をあげ、ついでにきちんと立ち直す。
骨など入っていない体とオズワルドに罵られるが、数分ぐらいならば伯爵家令息として体面を保てる立ち姿を維持できるのだ。
姫と呼ばれた美少女は、立ち直した俺にホッと安堵の表情を浮かべ。
「わたくしは、ミリディア・オルディアート。ケヴィンが自慢していたあなたに会って見たかったの。突然でごめんなさいね」
オルディアート国の第五王女て、ええ? うっそ。
それで、えっと、一つ年下のケヴィンと仲良し?
王女様はふわっと笑う。
「ありがとう」
「いえ、こちらこそ。お声をおかけいただき」
「世界を変えてくれてありがとう。私は今度こそあの馬鹿者から名もなき騎士の歌を捧げられはしないはずよ」
「え?」
「ごきげんよう」
俺の目の前から美しき王女が去っていく。
俺は彼女の後姿を見送っていた。
だって、こっちに来る前の世界のオルディアート国の第五王女と言えば、神殿から一切出ずに祈りを捧げるか光魔法で傷ついた兵士や市民を癒す聖女だった、から。
「俺があなたの人生をより良きものに出来ていたならば何よりです。でもケヴィンはもげろとか爆発しろって感じです」
お読みいただきありがとうございました。
やっとプロローグに繋がりました。
王女様はプロローグで死にゆくケヴィンを看取った人です。
冒険者なのに言葉遣いがとてもきれいなのは元王女様だったからでした。
ケヴィンが毎回命を賭けて散っているのは、全てこの方に生き残って欲しいからなのです。
そして、頑張ったせいでお家に帰れず貧乏くじばかりのフィールは思うのでした、リア充爆発しろ、と。




