え、なんで?
俺は何をしているんだろうな~、と最近思う。
俺が過去に戻って川で溺死予定のオズワルドを死なせなかったので、その三か月後に起きた魔の森スタンピードも発生させる事無く終息できた。
あのおっさん本気で凄いわ~。
殺られる前に殺ればいい、という計画も何も無い感じで、スタンピード発生日まで魔獣を、狩る、狩る、狩る、と大虐殺していた。
それでぐんぐん魔の森奥深く入って行き、スタンピードの原因となるダンジョンを発見した上に踏破しちゃうんだから凄すぎる。
ゲームクリエイターだったら、まずゲームバランスの為に消去したくなるだろうチートキャラだったのである。
あれだ、チュートリアルで主人公の手助けに出て来て、本編開始すぐに死んでしまうという、イベントキャラだよ。
オズワルド凄い。
あのエルマーが自分をぶち殺してでもオズワルド召喚を俺に望むわけだよ。
まあとにかく、俺が過去に戻った目的三つの内二つは達成した。
これで俺が消えてもいいはずだった。
だってさあ、オズワルドったら俺からケヴィンの最期について聞くや、ケヴィンが死ぬことになった学園の厄災が起こらないように手を打ってしまったのだ。
違法薬物関係のルートや組織を破壊しまくったんだよ。
もうこれで全部完了だって思うじゃない?
なのに俺は消えなかった。
「ケヴィン案件がまだ未確定なんじゃないか?」
オズワルドは面倒くさそうにそう吐き捨てた。
確かに、学園のバイオハザード案件の発端は、上位貴族のお坊ちゃまに恋のおまじない媚薬を混ぜたクッキーを贈ったお嬢様がいたから、だったんだよね。
「俺が消えそうで消えなかった理由はそれでなのかな」
実は俺が消えそうな時が一度はあった。
スタンピードを生むダンジョンをオズワルドが壊した瞬間に俺は消えかけたが、前回と違って戻るどころか意識そのものが弾かれたのだ。気が付いたら透明人間脱却した俺再び。これは、俺という存在がこっちに固定されてしまった、という感じなのだろうか。
たぶん、エルマーが命を賭したあそこに至るまでの九年分の歴史が、全部変わってしまったからかもしれない。
前回は家族がワイバーンに殺された瞬間で、俺が認識していた歴史の違いもそこからなので、違う俺は存在せず俺はすんなりと戻れたのだ。
けれど今回は、どこからなのかを俺自身が厳密に言う事ができないどころか、俺の脳みその中は年々王国が疲弊して貴族の我が家だって生活の質が落ちて行ったという記憶しか存在しないのだ。
つまり、未来が変わってそれを享受できている俺と、今の俺を作った俺は違う。
そして俺自身が存在していた九年後がもはや存在しないならば、俺はもうどこにも戻れやしないのである。
「だからって、なあ」
「君はあの有名なグラナータ殿の息子なのに、騎士科に進学しないのかい?」
俺は引き釣った笑顔を声をかけて来た相手に向ける。
そう、帰れなくなった俺をオズワルドは自分の養子にした。
それでもって彼は男爵位を手に入れたが、それは俺の為なんだそうだ。俺を貴族の子女しか入れない王立学園に編入させるために、自分の尊い身を削ったのだそうだ。
削った?
削れてるのは、男爵になってより女にモテて大喜びのお前のあそこだろ。もげろ。
「大人になって必要なのは、親のコネと学歴だ。俺はコネ無いからよ、デュッセンドルフで使い潰されたく無きゃ勉強頑張れ」
にわか貴族のオズワルドにはコネ無いから、俺がオズワルドの為にコネつくれって、言ってるようにしか聞こえないな。
くっそ。
なんか未来変えない方が、俺の人生楽ちんだった。
お兄ちゃん達がいたし!!
「ブリューには体力よりも脳みそを期待しているから普通科でいいんだよ。逆に騎士科を選ばないでねって感じ。我がデュッセンドルフはね」
俺の両肩に一つ上の年齢の少年の手が乗って、俺の代りに質問に答えた。
全く。
俺が家族の元に戻れないと知るや、兄貴面になりやがって。
「ひどいだろう? デュッセンドルフの魔獣騎士団は。俺に大量の書類仕事を背負わせるつもりなんだよ。養子の俺だったら絶対に逃げないだろ?」
「でもねえ。兄貴分としては君がやりたい事があれば応援するから、本気でやりたくなければイヤって言っていいんだぞ」
言えねえよ。
俺はケヴィンやオズワルドにしがみ付くしかない。
未来が変わったせいでバルバドゥス家には俺じゃない三男がいるんだ。
なぜか知らないけれど、俺の面影を残してはいるが俺っぽくはない感じの幼児が中庭を駆けまわっているそうなんだよ。エルマーによるとね。
あいつの情報は正確だが、言い澱むとか聞き手への慮りとか全然ないよな。
だから今の俺は、ケヴィンの兄貴分って気負いは嬉しい。
俺はケヴィンに感謝が伝わればいいなと彼の手の甲を叩き、こんな俺にも声を掛けてくれた親切な同級生に微笑んだ。
彼は磨かれたオーク材のような艶やかな髪に、青々とした葉っぱみたいな綺麗な緑色の瞳の体格がしっかりした背の高い少年だ。体型どころか顔までしっかり整っている彼は、俺に対してクシャッと大きな笑顔を顔に作る。
「さあ、ブリュー君。友人の僕をケヴィン殿に紹介してよ!!」
くっそ、俺は異性愛者なのに胸に来るほどの良い笑顔!!
イケメンはどこまでも強いよ。憎し。
「てめえ。俺へのアプローチは全てケヴィン目当てだったかよ」




