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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
最終章

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35/73

そして他力本願な俺は川に落ちて死んだ男に未来を託す

俺は過去に戻れたようだった。

俺が今いる場所は、繁華街らしき区域の少々小汚い路地だ。

そんな場所で地面に座り込んでいるのだ。

もちろん俺の衣服はエルマーの血で染まっていないし、俺の膝には冷たくなったエルマーの遺体こそ無い。


そして、俺が見上げる視線の先には、絶対に死なせちゃいけない男が立っていた。


オルディアート国の地上最強部隊と呼ばれるデュッセンドルフの魔獣騎士団を率いる若き英雄、史上最強の男。

酔った勢いで橋から落ちて、川で溺死する予定の男がそこにいた。


生きている今のオズワルドは、オフだからか真っ赤な髪を縛らずに流し、上に着ている服なんか遊び人風な生成りのたらっとしたシャツだ。下は…………足の長いのが一目でわかる黒革のブーツとパンツとは。くっそカッコイイ。

フェンシングの剣でも持たせれば、三銃士とかの映画に出てきそうなヒーローになってしまいますね。

が、そんなイケメン外見もよく見りゃ台無し補正がされている。


この酔っ払いめ。


いかにも深酒したって感じの頬の赤味に緩い表情、お土産なのか腕にきれーなお姉さんをぶら下げていやがる。

こっちはボロボロな未来をなんとかしたいと、お前に賭けてここまで来たってのに。あのエルマーの死にざまが台無しじゃないか!!


俺は自分比で百二十パな勢いで立ち上がり、思いっ切りの声をぶつける。


「オズワルド!!このばか!!」


「うおっ」


「みんなが大変なのに何やってんだよ!!」


「戦勝会で何しようが全部頑張ったご褒美だろうが!!」


「そ、そうよ。お子様はもうお家にって、あら、あなたはどこの子? とっても育ちが良さそうね。お姉さんがお家まで送ってあげましょうか?」


オズワルドの腕にしがみ付いていたお土産が何か言い出した。

平民らしく暗い茶色の髪であるが、貴族の令嬢には見られない大きな胸と肉付きの良い腰が良くわかる。前世の大人な俺が全力で逃げたくなるキャバ嬢だ。


「結構です」


俺は女性に冷たく言い放った後、オズワルドにと目線を動かす。

オズワルドは俺の目線などで怖気づくことは無いことは知ってるけど、すっごくすっごく貯めていた彼へのなんやかんやが俺にはあるのだ。

オズワルドはフッと口元を弛めた。


「で?」


「で、とは?」


「いやあ、思い出せないからさあ、まずお前が言いたいことを言ってくれないか? たぶんも何も俺がお前の姉さんを惑わしたってことなんだろうけど、覚えがないんだよなあ。お前等姉弟は似ているか?」


「はい?」


「いや。お前に似ていたら、俺は結婚してもいいかなってね」


「はい?」


「最近な。ガキもいいなって思ってさあ。だけどねえ、俺に似たガキは嫌だなって奴でさあ」


「あ、あたしが生んだげるよ。ねえ、早くあんたのヤサに行こうよお」


俺とオズワルドは、しっかりと存在を忘れていた女性へと視線を向ける。

それはもう、同じ動作だったので、酒場の女はびくっと脅えた。

オズワルドの腕から両手を離しちゃうぐらいにね。

俺は丁度いいからって、オズワルドを自分へと引っ張った。


あ、簡単に動く?


「悪いな。この兄ちゃんを相手にしなきゃだから、今度にしてくれ」


で、今度はオズワルドこそ俺を引っ張って歩かせ始める。

まあ俺も彼としっかり話し合いたいので引き摺られるままにした。

ってうか、酔っぱらいだが足元はしっかりしているし、引っ張られるままにしておくと移動が楽。


「お前、自分の足で歩けよ。そういうとこまであいつにそっくりだ」


「ぶはっ。そうか。そうか」


「何が、そうか、だ?」


「オズワルドが子供を欲しがっていたのは僕のせいか。オズワルドは僕がそんなに大好きだったのかって、って、わああ!!」


突然手放されるなんて。

完全に脱力して引き摺られるままにしていたので、俺はバランスを崩してその場に崩れ――落ちなかった。

腰にはオズワルドの腕が回されていて、俺をすんでのところで支えてくれていた。


「どうもです」


「自分で立て」


「ハハハ。あなたに持ち運びされるのに慣れちゃって。お久しぶりです、僕の名前は」


「その先言うな」


「成長した僕はがっかりでしたか?」


「ああ、がっかりだよ。お前似の姉なんかいない。その事実でぐらぐらだ」


「あんたは、そんなにも五歳の俺が好きだったか」


あ、耳が真っ赤だ。

この人、本当は子供好きで、俺のことを可愛がっていたのか。


「おずわ、うぐ」


抱きしめられた。

けれど酔っぱらい要素で細やかな配慮ができない鍛え上げられた腕による抱擁は、万力で締め付けられたような衝撃しか俺に寄こさない。痛い苦しい。

そうだ、こんなオズワルドの雑な扱いに俺は泣く代りに、オズワルドにずばずば文句を言ってた。それで走り回ったりもせず小煩くなかっただろうし、俺はオズワルドの性格的に都合の良い子供だった。


オズワルドが五歳の俺を面白がって欲しくなったわけだよ!!

楽しい玩具だったんだ、玩具。


「ちょっ、オズわ」


「成長はできたんだな。また、お前の家族がどうにかなったのか?」


「いや。あんたがどうにかなるのを阻止しに来たんだよ」


「神殿や側妃の実家が俺の口封じに来るのか?」


「酔っ払ったあんたが川に落ちる未来から救いに来た」


「それは、俺が刺客にやられて俺の遺体が川に投げ込まれたっていう、痛ましい事件が起きたってことか?」


「いいや。酔っ払ったあんたが、猫の鳴き声を赤ん坊だって思い込んで橋げたを覗き込んでそのままボッチャンだったと俺は聞いている」


「未来でそれを語った奴は誰だ?」


「エルマー」


オズワルドは大きく舌打ちをすると、俺をひっつかんで引っ張り出した。

それでオズワルドがずんずん歩いた先には、デュッセンドルフ領を横断する大河ではなく、その支流のそのまた支流という小川が流れていた。

乗用車二台分の川幅があるので、勿論橋も架かっている。

そして橋には、確かに赤ん坊の泣き声に聞こえそうな、発情期の猫によるフギェアアアな大音声つきである。


「ここか。俺の死に場所」


「そうらしいですね。ここは真っ直ぐご自宅にお帰り下さい」


「わかった。お前が消えるまで、俺は大人しくしてるか」


グッと俺の襟首に手を掛けられた。

逃がさねえぞってことなんだろうけど、俺はとりあえずこの過去で、オズワルドの面倒を見ながら、これから起きる王立学園の悲劇や魔の森スタンピードをオズワルドに解決させるよう誘導しなきゃいけない。

とっても面倒だ、と思うと気力は抜け、なすがままに引きずられることにした。

歩くのホントめんどいし。


「いくつになった? 鍛錬はしているのか?」


「十四歳です。鍛錬? それっておいしいのって奴です。それから、俺は解決したら消えるんで、余計な鍛錬など必要ありませんから」


「そう言うな。記憶が残ってるお前のままなら、これから受ける鍛錬も無駄にはならないさ」


「ええ!!俺の仕事は、あんたを生かしてこの先のスタンピードとから世界を守ってもらうって奴なんです。頑張るのオズワルドなんで!!」


「ハハハ。未来は俺頼みか。なかなかグッとくるよ」

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