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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
最終章

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31/73

名もなき騎士の歌 二番

時々悪辣な人になる次兄、デューイ様。

現在十歳の彼は時々悪辣になるだけで、残りのほとんどの時間は純粋なお子様であったらしい。


彼は何と、父親譲りの澄み渡った晴れた空色という、水色の瞳をキラキラ輝かせて、若き英雄をお茶会に呼ぼうよ、なんて提案してきたのだ。

もちろんデューイの言う若き英雄とは、現在十七歳のケヴィン・デュッセンドルフ様その人である。


面識ない七歳の俺が? 十七のケヴィンにお手紙書くの?


実は口にできない面識がアリまくりだけどさ。


「知らない人に招待状を送ったら怒られない?」


「フィールはまだ幼い子供だよ。英雄に憧れる子供が、国の英雄にお手紙を書いただけ、でしょ。大丈夫。お兄様の学園生活の為に、学園の凄い人にも来て欲しかったって言えば、誰も怒らないよ」


デューイの両目が期待でキラキラとしているのは、デューイがかなりケヴィンという青年に憧れを抱いているからであろう。あるいは、恥をかくのが自分ではなく招待状を出す俺こそってところを俺に悟らせない誤魔化しで、当社比ニ十パー増で瞳をキラキラさせてます、だけかもしれないけど。


「ケヴィン様が怒るかも?」


怒るのはケヴィンに護衛回さなければいけない、オズワルド、かもしれないけど。

うちの領は王都の隣だし、護衛無しでこれるかな?


「ケヴィン様は下級生にはとっても優しいって有名だよ。ええとね、移動教室先がわからなくなった新入生を見つけたら、授業途中なのに案内してあげたり、自分が貰ったお菓子なのに下級生に気前良く分けてくれたり、それはもう凄く優しいって評判なんだよ」


それって、授業サボる口実、とか、貰った手作りお菓子が地雷品だったとか、嫌いなものだったりとか、とか?


――ブリュー、手を出して。


……うん、面倒見は良かった。オズワルド比で。


「お兄様は、本気でケヴィン様のファンですね。お調べになったのですか?」

すっごい情報通ですけど、ケヴィンを調べてたんなら俺は引きますよ、お兄様。


「お茶会ではいつもケヴィン様の話題なんだよ。僕も友達もみんなケヴィン様に憧れているからね。だって特別じゃないか。学園寮には愛馬を連れて行っても良いってことになっているけど、ケヴィン様はベヘモットを連れて行ったって話だよ。お茶会に参加してくださるときは、きっとベヘモットに乗って、だよ!!」


「お兄様はベヘモットにこそ会いたいのですね。ケヴィン様可哀想」


「フィールはベヘモットを間近で見たり乗ったりしたくないの?」


散々乗せられたし、踏みつぶされそうにもなったから、お腹いっぱいですよ。


そんな真実は告白できないし、俺は適当にデューイに頷いて見せた。

だけど俺こそケヴィン達が懐かしいのも事実で、デューイの勧めに乗って招待状を送ることにした。それでケヴィンに送る招待状の隅っこに、「せきじつのあか」と書きかけたりもした。


書かなかったけど。


書いたら覚えているよって印になるのに、ケヴィンが来ないかもしれないって考えたら、なんか、本当はまた会いたくてたまらない自分がいるんじゃね? という感じで、自分が情けなかったから。


そうじゃない。

書いたのに来なかった、という結果が悲しいんだろうな。


俺は気付いちゃったよ。

俺って誰からも「いらない」って言われたくないから、人と打ち解けるのが怖いんだなって。

やっぱさ、離婚時に母親に切られたって事実が俺には辛いんだよ。


普通は母親が子供を連れて行くのに、母は俺を父親に押し付けたんだ。

育てたくないって。

もう関わりたくないから、養育費は慰謝料で相殺してくれればいいからって。


「こいつはお前そっくりじゃないか。お前は母親だろ」


「あんたの血が一滴でも入っているって思ったら、もうだめなのよ。あたしと違ってあの女は家庭的なんでしょ。育てさせたら?」


…………あ~あ、どうしていつまでも覚えてんだろ。



招待状を発送した数週間後、出欠についての返信が続々届いた。

さて、ケヴィンからも返信があった。

デューイどころかヒューベルトまで大喜びで、俺は彼等に褒め称えられながら二人の前で封筒を開けることになった。


出欠用返信カードを取り出した俺を、兄達は左右から抱きしめる。


「ちゃんと返事をくれるだけ素晴らしいことじゃないか」


「そうだよ。ケヴィン様が書いたこのカードこそお宝だよ」


そう……うん、わかってたけどケヴィンの返事は、欠席、だった。

ついでに返信のカードの裏には、余計な一文を書くという手厚さだ。

俺はこんな心遣いこそいらなかったけどね。


「昔日にみた世界と同じなら? どういう意味だろ」


うん、わかんないよね、ヒューベルト兄様。

これね、「名もなき騎士の歌」っていうデュッセンドルフでは知らない人がいない歌のね、二番目の歌詞の一節なんだ。


死んでいく騎士が残して来た大事な人に思いを伝える歌でさ、一番目は「愛していた」と伝えたかったで、二番目はね「もう待つな」って伝えてお終い。


ハハハ、俺のとこには決して戻らないから待つなって?


お前のことなんか待ってねえよ!!


本気でお前が俺のお茶会に来てくれるなんて思ってない、あたりまえだろ。

わざわざ書いてくる意味わかんねえよ。


無視してくれてた方が良かった。


「泣くな。フィールには僕がいるんだから」


「ごめんね。僕が余計な事頼んじゃったから」


「泣いて無いです。大丈夫です。僕にはお兄様達がいるもの。お兄様達がいれば僕のお茶会は大成功だもの」




俺の七歳のお茶会は無くなった。

ヒューベルト兄が進学する予定の学園が魔物に襲われ、たくさん、たくさんの学園に通っていた生徒達が犠牲になったのだ。


ケヴィンの言いたいことがわかった。

過去をやり直せる俺の所にケヴィンはもうやって来れないから、「待つな」という事だ。


もっと早く、俺はケヴィンに覚えているって伝えれば良かった。

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