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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第五章

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知識チートしたらすごいで終わる世界うらやま

竜渓谷に大型のワイバーンが何頭いるのかわからないが、とりあえず谷にいた三十五頭と、追加で来た変異種の大型一頭とそいつにくっついていた六頭も倒した。

全部で四十二頭。

バルバドゥス領の空を守るには、あと何頭ぶち殺せばいいのだろう。


「ブリュー。俺に言うことは無いのか?」


「的確な判断です。相棒だって言ってた鉄斧を潰しちゃったから、クレメンスさんに代りの素晴らしい戦斧をオズワルドさんが贈ってあげなきゃですね」


「お前は余計な事ばかり言う!!」


オズワルドは俺の頬を片手で抑えつけ、俺はひょっとこみたいな顔になる。

こんなことする人に、今後余計なことは言わないと決めた。

そもそも余計なこと言うなってのは、オズワルドの指令だものね。


「この悪魔が」


さて、俺達は四十二頭のワイバーンを殲滅した後に何をしているのかと言うと、滝の裏側にあった洞窟の探索をしているのである。

竜渓谷には聖なる翼竜の姿は無いが、完全に魔の森に飲み込まれてはいない。

ならばどこかに翼竜が生きて隠れているはずで、翼竜の現状を知ることこそワイバーン事案の解明だとオズワルドは考えたのだ。


翼竜の状態が良くなれば聖なる結界が力を増し、ワイバーンが繁殖している竜渓谷はワイバーンが繁殖できない空間に戻るだろう。


それでオズワルドは探索と見張りに班を分けた。

洞窟内に入ったのは騎士は四名。

オズワルドにケヴィン、そしてケヴィンの護衛を任されたギードに、面白そうなことには首を突っ込みたいエルマーである。


俺? オズワルドに縛り付けられて、彼の胸に背中をくっつけた形でブーラブーラしているよ。

紐で拘束される姿の恥ずかしさや肉体への少々の痛みを流せれば、歩かなくて済んで俺はいいけどね。

でも、戦闘時に俺が邪魔で行動が抑制されるんじゃないのかな、と俺は思うんですけど。オズワルドさん。


「おも、重い。よくこんなのいつも振り回してるね。クレメンスは」


エルマーはクレメンスの戦斧だったひしゃげた鉄板を運んでいるのだ。

洞窟の奥にワイバーンが待ち受けていることを想定し、ワイバーンによる超音波対策である。もちろん自分こそ助かりたいのか誰よりも早く鉄板を担いだくせに、鉄板が重いとグチグチぼやくのはエルマーのお約束だろう。小煩い男だから。


「エルマー。俺が持とうか?」


知的さを感じる深い声に、俺は誰だと首を伸ばす。

なんと、ギードさん。

彼の声は初めて聞いた。

焦げ茶色の髪に焦げ茶色の瞳をした彼は、ブルーノと同じぐらいの体つきという大柄な人だ。またギードは基本無口で静かな人だから、戦闘時に三日月形の大きな刃がついた戦斧(バルディッシュ)でワイバーンを屠っていた壮絶さと対比が凄い。


「ギードは戦斧は持っているから……ないね。どうした?」


「外で番をする奴に武器が無いのは不安。クレメンスに渡した。俺は剣もある」


「クレメンスだって剣を持っているのに。あいつはもしや、武器が無いから洞窟には入れないって言ったのか?」


「言ってはいないが、クレメンスが洞窟に入ると思うか?」


「だねえ」


俺もエルマーに合わせて、心の中で「だねえ」と呟いた。

洞窟の壁には見た事無い灰色の失敗したサソリみたいな虫が貼り付いてモソモソしているし、でこぼこの地面は変なカビや苔が生えて滑りやすそうな上にミミズみたいなものがそこかしこでうねっている。


洞窟内を探索するオズワルド達は、野営用毛布を頭から被ってマントみたいにしている。それでも周囲の様子が気持ち悪いって騒いでいる人がいるのだ。

エルマーね。

艶のあるアンティックゴールドの金髪を七三分けにしている、なんとうか、恋愛小説の騎士のイメージそのままのクレメンスが、外見通りに潔癖症で虫が大嫌いっぽいなら、ここは無理だろうね。


「ねえ、オズワルド。ギードさんも戦斧だったのに、どうしてクレメンスさんの斧にしたの?」


クレメンスの戦斧は、先に槍が付いているハルバードって奴だ。そしてオズワルドにはハルバードという名の部下もいるから名前被りで、だろうか。

だったら嫌だ。


「ギードの戦斧はアダマンタイト製」


「あ」


「それで、俺の質問はどうなったのかな」


「余計なこと言うなって、オズワルドさんが」


「俺が望んだ会話以外が余計なこと。俺が望んだら余計な事じゃない」


「横暴」


「うるせえ。で、あの凶悪な超音波ってやつは何だよ。どうしてワイバーンの叫び声からそいつが出るとお前には分かったんだ?」


俺は知らぬ間に前世知識チートをしていたらしい。

それで普段は大らか適当風なオズワルドが、ちくちくちくちくあれは何でどうしてそうなった、とか、微に入り細に入りって細かく確認して来るのだ。ライトノベルだったら、すごい~で納得して終わりにして欲しい。うぜえ。

だから戦斧の話題で逸らそうと思ったのに。


でも、大型の死にざまも再び思い出し、俺の口元は自然と緩む。

家族を喰い殺した奴らと同種の大型を自爆させられたのは、誰かの剣で止めを刺されるところを見るよりも俺がやってやった感が強いのだ。


「ブリュー?」


オズワルドは低くて凶悪な、牛が唸るみたいな声で脅して来た。

ただし囁き声でしかないので、俺だけには教えろって奴だろう。

いいでしょう。どうせ消える俺だ。前世チートをご披露しましょう。


「ええと。音って見えない空気の波なのね。大きな音の時、耳が痛かったり、体に何か当たった感じがするでしょう。それで普通の音は単調にどんって叩いてくる感じだけど、超音波は聞こえない分とっても細かくてドドドドドドンて連続で叩いて来るの。えっと肉たたきでたくさん叩くとお肉柔らかくなるでしょ」


結局五歳児の仮面は外せなかった。

知識間違いあったらヤバいで、責任取らなくていいポジションに逃げたのだ。


「超音波は分かった。で、どうしてその攻撃があると気がついた?」


「亡くなったうちの護衛騎士の体はぐしゃぐしゃだった。あいつが鳴いた時に地面が揺れた。小型でも地面に穴を開けた。だから、念のため」


「いい判断だ。で、超音波は鉄や鉛で反射できると?」


「うん。百年前にワイバーンを討伐出来たのは騎士が鎧を着ていたからかも」


「アラネの糸が織り込まれた俺達の騎士服は、魔獣の牙や爪に強いだけか」


「ガラスウールは吸収するから、もしかしてアラネの糸も吸収して大丈夫かも。でも、騎士服にはフードが無いじゃない。頭を守らなくてどうするの?」


「それでお前は俺達に毛布を被せたのか」


「念のため。アラネの残糸が混ぜ込んであるって聞いたから」


翼竜の部屋にワイバーンが居座っていて、出会い頭にドカーンなベタな展開はあるあるじゃないか。

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