こんにちはそしてさようなら
オズワルドは有言実行の男だった。
そして俺は、デュッセンドルフが誇る魔獣騎士団の恐怖を、この目に焼き付けることになった。
研修所を襲って来たワイバーンに対し、無傷で殲滅できるだけあるのだ。
彼らはワイバーンに情けなど一切かけなかった。
虐殺したのだ。
地べたを這い逃げるワイバーンを、騎乗するベヘモットを使って踏みつぶし、あるいは引き裂かせ、仕損じ損ねを己が剣か戦斧で切り刻む。
ある時は飛び掛かって来るワイバーンを長剣で切り捨て、逃げようと飛び立った個体には炎魔法で翼を焼いた。
聖なる竜の住む場所は一時間もしないうちに、ワイバーンの死体置き場と様変わりしてしまったのである。
「キシャアアアアアアアアアア」
地面を揺るがす魔物の声が渓谷に大きく響いた。
大型種が谷の異常に駆け付けたか。
俺は奴の叫びで起きた振動、体にも感じる小刻みな振動から、なんとなく答えが見えた気がした。
何度もオズワルドが口にしていた、彼の疑問の答えだ。
簡単に壁に穴を開ける。
俺も見たけど、叫び声だけで地面が陥没していた。
風魔法?
違う、そうじゃない。
ほら、ワイバーンの翼って単なる皮膜で、蝙蝠みたいじゃないか。
奴らに超音波が出せるって考えれば、奴らが地面に穴を開けて体を浮かせられた理由も説明できる。仮定でしかないけど、奴らは音波を投射して衝撃波を起こせる、なのかもしれないと。
俺達に大きな影が落ちる。
ただ、高速でもなく突っ込むだけならば、騎士も彼らを乗せたベヘモットも慌てるなどあるはずもない。難なく向かって来た巨大種をひらりと避けた。
「わあ!!」
ケヴィンがベヘモットから落ちた。
俺サイズのワイバーンがケヴィンに貼り付いている?
でもってオズワルドもアルバンもブルーノも、とにかく皆が剣や戦斧を閃かせたってことは、こっちにも小型種の飛び掛かりがあったのか。
「すごい。大型種は自分を囮にしたのか。意外と賢い。トカゲにしては」
「言ってやるな。やられたケヴィンが可哀想じゃないか」
「ああ、ケヴィンは!!」
ケヴィンは無事にベヘモットさんの背に戻っていた。
ケヴィンを乗せるベヘモットさんの口にはワイバーンの引きちぎられた翼が。
多分、そのワイバーンの破片はケヴィンに貼り付いた奴の一部だね。
「ケヴィン。そのまま引け。ギードはケヴィンの守りに。あとは大型種に集中!!」
人数がいればこの大型も大丈夫なの?
でも。
俺は先程思い付いた答えで、ぞわっと背筋が寒くなった。
背中などオズワルドの胸にぴったりとくっついているというのに。
だけど、思い出したんだ。
奴らが神殿の屋根を軽々と壊してきたことや、それに突き飛ばされたデュッホルトのぐにゃりとした遺体を。
大型のワイバーンは、神殿で俺達家族にして見せたようにして、身を起こして立ち上がった。けれどあの時と違い、俺達を喰おうとはしない。
あ、こいつは叫ぶつもりだ。
「オズワルド!!超音波がくる!!」
「超音波?」
「あいつは叫びで僕達の体の中をぐちゃぐちゃにする気だ! 反射させなきゃ! 鉄あるいは鉛で盾か何かない? あったらあいつの口の前に置いて!!」
それで防げるのか、そこまで俺は分かんないけど。
とにかく超音波を反射しなきゃ、無意味な行動でもしないよりかはまし。
コンロの火を消したかどうしても気になって、通勤途中に家に戻って確認した時あるだろ。結局意味のない行動で遅刻になって責められたけど、火を消していたって安心はあったよね。
「お願い。オズワルド!!」
「クレメンス。お前の鉄斧を投げろ。その後はギードと炎で鉄斧を板状に変形させろ。ケヴィン、エルマー。風魔法で鉄斧をワイバーンの顔の前に固定」
「俺の相棒。って、糞!!」
「急、急すぎ。でもって意味わかんないよ!」
「風魔法こんな使い方したの初めて!」
歴戦の相棒だろう鉄斧を溶かす羽目になってごめんなさい、クレメンス。
それと、クレメンスは仕方ないにしても、うるさいなエルマー。
あとケヴィン。
「キシャアアアアアアアアアア」
ワイバーンは叫び声を放つ。
だが奴の顔の真ん前には、奴の口先を遮る程度だが、ひしゃげて歪な四角だろうが平面はつるつる(短時間ですごい。反射ってことで頑張ったんだな)という鉄の板が浮いているのだ。まるで口の中の吐息を遮るマスクのようにして。
間に合った、と俺がホッとした瞬間、鉄板が大きな音を立てて地面に落ちた。
第二波が来たら、と俺は構えたが、ワイバーンはそのままぐしゃりと潰れた。
するとすぐに、ワイバーンへと動いた者がいた。もちろん、エルマー。彼は剣先でぐちゃぐちゃと、ワイバーンの死体を突ついている。
「うそ。鉄板で塞いだだけなのに」
「うわやっばい。頭部の中身がぐちゃぐちゃ? 頭部の穴という穴からなんかぐちょぐちょな中身が出てるよ。どうして?」
早速エルマーに追従しているのはケヴィン。
まだ十五歳だものね。
だが、お前が死んだら全てが終わるんだから自重しようか。
「で、何が起きたか説明してくれるか?」
俺の頭の上にオズワルドの顎が乗った。
俺は縛り付けられて逃げられないからって!!




