僕の二度目の能力鑑定
フッ酸と呼ばれるフッ化水素酸は、触れただけで激しい腐食を起こす猛毒だ。
詳しくって言ってきたから、俺は蛍石をオズワルドに見せつけながら、フッ酸について知っていることを頑張って説明した。
出来る限り害のない子供っぽく、フッ酸は何でもとかしちゃう怖い毒でガラス瓶だって溶かしちゃうんだよって。
フッ酸は凄いよ、な俺のプレゼンが終わった後、ケヴィンは分かるがオズワルドまでも数秒固まってくれた。そして動き出したオズワルドがまずした事は、俺から蛍石を取り上げることだった。
「あ、僕の蛍石!!」
「ケヴィン、お前の目でこいつが他に危険物を持っていないか調べてくれ」
「えっと。目で見てもわかんないよ。蛍石だって本来危険物じゃないし」
「そうです。濃硫酸が無いと危険物にならない綺麗な小石です。返して!!」
「俺はお前が言う濃硫酸は知らんが、石や金属を溶かせる酸は知っている。だから駄目だ。ケヴィン、お前も知っているはずだよな。硫黄臭い、あれだ」
「あ!!穢血?」
あいけつ?
ケヴィンが何かに思い付いた驚き顔を作る。
俺は、違うかなって思ったけど、そうかもしれないってことで希望が湧いた。
濃硫酸は無臭と聞いているけど、工業生産じゃないものは臭いかもしれないし、俺は希硫酸だって嗅いだことは無いから硫黄臭くないと言えない。
だからオズワルドとケヴィンが知っているそれが、濃硫酸と同じ化学式を持っているものかもしれないじゃないか。だとしたら、濃硫酸を一から作らなきゃって問題が解決される。
違うものだったとしても強酸の特性があるならば、いくらでも武器に転用できるのだ。俺には凄い朗報だ。
「ねえ、ねえ、何のこと? 僕に教えて?」
可愛らしく、「体は子供、頭脳は大人」の真似をしても、ケヴィンもオズワルドの俺には絶対に教えないという壁を崩せないようだ。だから――。
「どうして教えてくれないの!!ワイバーンにぶっかけたら、ワイバーンだって溶けるはずの凄いのができるかもなんだよ。あいつらの巣に塗っておけば、巣に戻って来た奴らを溶かして痛めつけられる。凄い毒じゃないの!!」
俺は叫んでみた。
大事なものを取り上げられて憤慨してる感じで。
俺は彼等に濃硫酸と蛍石でフッ酸ができることと、それの危険性を印象付けられればいいかなってぐらいなのだ。
大体、フッ酸なんぞ、ポリエチレン容器とかじゃなきゃ保存も持ち運びもできないブツなのだ。この世界じゃポリエチレン容器なんてあるわけ無い。
だから「どう作る」よりも、「どう運ぶの」って方が問題だから蛍石を取り上げられても、「あいけつ」とやらを教えて貰えなくとも、俺には無問題なのだ。
「あいけつ」についての情報を手に入れるのは、別に今すぐじゃなくて良い。
だけど、俺の本気は分かって欲しい。
「僕の大事な家族を生きたままぐちゃぐちゃにかみ砕いて殺した奴らなんだ。僕だってあいつらを生きたままぐちゃぐちゃにしてやりたいの!!」
俺はオズワルドを睨む。
オズワルドはふうと大きく溜息を吐く。
俺の真剣な目と訴えで、俺の本気をわかってくれたのか。
「ケヴィン。お前の目でこいつの祝福とスキルは見えるか?」
「父さんに禁止されてるから試した事ないけど、見ようと思えば、たぶん」
「頼む。この悪魔がどんなスキルを持っているか知りたい」
「見るまでもないよ。僕のスキルはスカスカだった。名前と魔法属性しか無かった。僕がお父様とお母様の子供だって、知ってるよそんなこと、程度だった」
「ぶはっ。そこが一番大事なんじゃねえか。まあいいや。いいか? 無駄な諍いを作らないために、魔法属性以外のスキル系は全部隠すんだよ」
「え、だったら、スキル鑑定なんて意味無いじゃない」
「国と教会には重要だ。誰がどんな力を持っているのか把握して管理できる」
「僕はほんとは凄かったりするんだね」
「だからそれを確認したい。ケヴィン、見えたか?」
え、もう見てた?
俺こそケヴィンを見返せば、ケヴィンは左手で前髪を上げて、真っ直ぐに俺を見つめていてくださっていた。――大変なイケでございますありがとうございます。
「見えた。それで、俺がブリューをここに送った理由も分かった」
「なんだ。物凄い悪魔だったのか?」
「物凄い嘘吐きだった。ブリューの本名はフィール・バルバドゥス。バルバドゥス伯爵家の三男だ。そしてスキル名が、過去を回す歯車。ブリュー一人じゃ歯車は回らないけど、過去の変革を望むもう一つの歯車が嵌れば動き出すらしい。たぶん未来の俺の願いがもう一つの歯車になったんだ。それでブリューはスキルが発動してここにいる」
「そうかそうか。で、他には無いのか? 悪魔的な奴」
「無い。悪魔的どころか、ちょっと魔力量が少なすぎて、水魔法を行使するには足りないかもって心配になるぐらい」
「ええ!!僕は魔法が使えないの!!」
「生活魔法、ぐらい――う~ん。魔石に魔道具あるから!!」
「そんな」
「神よ感謝します。最高の祝福です。この悪魔が魔法使えたらこの世も終わりだ」
「ひどっ。お父様もお母様もお兄ちゃん達も、僕が天使って言ってるのに!!」
「親の欲目は際限が無いからな」
「オズワルドも僕を天使言った!!」
「ハハハ、ほら、ブリュー、そろそろ行くぞ」
オズワルドは誤魔化す大人その通りに、俺を持ち上げて抱きかかえる。
ケヴィンは俺に対するオズワルドの気安い振る舞いが気に障ったのだろうか。
なんだか納得できないという表情だ。
「どうした?」
「団長。こいつを本名で呼ばないんですか?」
「問題あるか? 王都近くのバルバドゥス家にはもう一人のこいつとまだ生きている家族がいるんだ。五日後には死ぬ予定のね。その死ぬ未来が変わったその時に、このブリューはこの世界から消えていなくなるんだよ」
ケヴィンは本当に良い子なんだなあ。
初めて気がついたって顔となり、俺を見つめた時には痛ましいものを見る目だ。
俺もオズワルドも何度も言っていたんだけど、俺が家族の元に帰るからここの領地から消えてしまう、としかケヴィンは思っていたのは笑える。
本当に俺という存在が消えるんだよ。
未来が変わったら俺が過去に来る必要も無いからね。
今のこの俺は消えるんだ。
それにようやく気がついたケヴィンは、多分、消えてなくなることが怖くないのか、と俺に尋ねようとしたんじゃないかな。
彼は開きかけた口元を、奥歯を噛みしめる感じで閉じたのだ。
俺がその可能性に気がついていないならば、自分がわざわざ俺に聞くべきじゃないって思い直したのかな。
自分が尋ねた事で、五歳児の俺が脅えちゃったら困るって。
なんて優しい人だろう。
だから俺は無邪気にそうにして、オズワルドに向き合って声を上げた。
ケヴィンに分かるように。
「行こう。オズワルド。こんにちはして、さようならをしよう」
俺は最初から覚悟はできているよ。
穢血ってケヴィン叫んでたんです。
文章直してた間に消えてました。修正しました。




