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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第四章

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俺達みんなケヴィンを守り隊

アルバンが隊列を外れてでもオズワルドに言いたかったのは、どうしてケヴィンを連れて来たってことだった。わかる。ついでに、どうして五歳児を連れてきているのって、そっちも進言して欲しかった。


だけど、ケヴィンは辺境伯のご子息だし。

今のところ俺はただの孤児だし、扱いの違いは仕方が無いか。

俺が今着ている服だって、ケヴィンが小さい頃の遊び着という古着だ。


でも、俺はただの孤児なのに、高級なアラネ織の新品のマントコートを羽織っている。ちゃんと腕が出る仕様の奴で、オズワルドによる俺への縛り上げを阻害しない素晴らしいものだ。危険な場所に行くなら動きやすい方が良いって、辺境伯夫人(デボラさん)とケヴィンのお姉様方が一晩で作り上げて下さったんだよね。


マジ優しい。

俺を連れて行かせないって頑張る方向じゃ無かったのは笑うしかないけど。

でもわかる。

常識的に彼女達は考えたのだ。

ちっちゃな俺を連れて行くオズワルドが、命を賭けるおっかないことはしないだろうって。


俺が炭鉱のカナリアでしかないって知ったら、彼女達はどんな顔をするのか見ものだな。


「アルバン。戻れ」


「あなたは気付いていませんか? 森が静かすぎます。こんな森で考えられるのは、これからスタンピードが起きる兆しか――」


「場にそぐわない力を持った魔獣の誕生だ。ワイバーンが森中の魔獣を餌にしてしまったとは思えないが、脅威があるのは確信できただろ? 全滅したら次男も長男も無い。それよか、使えるもの使わなきゃ。だろ?」


アルバンさんはオズワルドの返しにきゅっと唇を噛んだ。口惜しそうな顔は、彼こそケヴィンを犠牲にしてもやり遂げないと、と理解しているからだろう。

彼は軽く頷いて見せた後、再び隊列に戻っていった。


俺はアルバンの後姿に、オズワルドも俺もあなた方を犠牲にしてもケヴィンだけは生かすつもりだから心配しなくていいよ、と心の中だけで呟いた。

でもアルバンさんのご進言により、俺はなんとなく、隊の方々が不機嫌そうな顔をしている意味が分かった。


みんなケヴィンが心配なのだ。


あ、戻ったアルバンさんとブルーノさんが二言三言会話を交わした後、ブルーノさんがベヘモットを少し前に出して、ケヴィンに話しかけた。

坊主に近い短髪に体格の良いブルーノは、脳筋にしか見えない外見だ。けれどブルーノはきっとものすごいインテリな気がする。

だって、あの見るからに神経質そうなアルバンと談笑できるのだ。


「無理はするなよ。いざとなったら逃げる勇気を忘れるな。いいか、殺しても死なない俺達なんだから、何かあっても助けようとするな」


「ありがとうございます。ちゃんと逃げるって約束しますんで、あなた方も俺を守ろうとしないでください」


「約束だぞ。アルバンなんか、お前に助けられるぐらいならと、元気なくせに舌を噛み切りそうだ」


「元気だったらお前等捨てて逃げるよ!!」


アルバンは真っ赤になってはすっぱな声を上げ、ブルーノは大笑いだ。

そしてケヴィンも笑いながらだが、二人に対して誓ったと分かるように自分の胸を軽く叩いた。すると、わかったと軽く頷いたブルーノは後ろへと戻る。


そうか、ケヴィンは誰も見捨てられない、義理堅くていい子なんだ。

だからアルバンさん達はケヴィンが心配なんだ。


「だからケヴィンは生き残ったんだね」


「騎士じゃなく世界を渡る冒険者になるのが夢のあいつにとって、魔獣を屠れる魔獣騎士団は憧れらしい。俺達のほら話を目を輝かして聞いて喜ぶガキだ。誰かが怪我して砦に戻れば、心配だからと枕元にまでやって来る。うちの団ではみんなの大事な弟だ。今回は特にあいつを暑苦しく可愛がる五人を揃えた。あいつは大丈夫だよ」


俺は昨夜を思い出し、ケヴィンのお世話の申し出を断ってしまった自分を責めた。

中高時代を思いだして、十代の陽キャと一緒は辛いよなって思ったんだ。

けど、オズワルドを選んだばかりに、俺はベッドではなく硬いソファで毛布を被って眠ることになったし、トイレでトイレできない経験をしたのだ。


ケヴィンにしておけば!


「僕はケヴィンと仲良くするべきだった」


「ケヴィンと仲良くなろうが、お前は絶対逃がさないからな」


「僕は五歳児なんですけど」


「ほんとうに? 今だって逃げないどころか泣きもせずにここにいる。五歳児はもうちょっと可愛げがあるぞ」


「だって逃げ場なんかどこにもないもの。逃げたって、お父様もお母様もデューイ兄さんも、僕を最期まで守ってくれたヒューベルト兄さんも、どこにもいない世界しかないんだもの」


「何だ、逃げる気は無いのか」


「無いです。僕がケヴィンが良かったって言っているのは、ケヴィンになりたかったではないです。昨晩の待遇についてです。きっとケヴィンだったら幼児な僕が食べられるごはんくれたし、昨晩はベッドで寝られたはずだもの」


「ハハハ。そいつはすまなかった。そういう所は五歳児だったな。で、今はお前の家族は生きているんだよな。頼むからお前の本名を聞かせてくれ。ここで失敗しても、お前の両親の所で俺はそいつらを迎え討つことができるだろ」


「無理です」


「良いから言ってみろ」


「ここからバルバドゥスはとても遠い、です」


「確かに、デュッセンドルフから遠すぎるな。だが、それは馬を使った場合だろ」


「早馬でも一週間はかかる距離でも、ベヘモットならば行けるの?」


「そうだ。三日あればイケる。正直になって良かったな。生きている限り次がある。絶対に笑える結末に辿り着ける。希望ができただろ?」


「うん、うん」


俺の視界は溢れる涙で霞が掛かった。

オズワルドのお陰で、なんかすごく楽になれた、から。

でも僕はオズワルドに流されない。


「よし。強い子だ。昼飯は干し肉だけでも大丈夫だな」


「やっぱりあなたよりケヴィンと仲良くします」


「わかったよ。麦粥作ってやる」


「う~」

大人って(怒)


「お前は真面目だな。ソファだったら、寝られないって騒いで、誰かのベッドに潜り込めるかなって、俺の親心は台無しだ」


「僕は一人で寝たい質なんで」


「可愛げがねえ」


オズワルドは笑いながら右手を後方へと振り切った。

別にベヘモットに速度を出せという合図じゃない。

これまでも何度もやっていた、忍び寄って飛び掛かる魔獣に風魔法を当てたのだ。


「オズワルドが静かに倒しているだけで、ちゃんと魔獣いるじゃない。それに気がつかないって、みんな頭が平和。大丈夫なの?」


「頭が平和ってひでぇな。ハハハ。ばあか。前方からはなんも来ないだろうが。普通は前から来るんだよ」


「じゃあ、後ろからは?」


「俺が一振りでバラせる程度だ。何かにビビッて森の端まで逃げてじっと静かにしていたやつらだ。腹が減ってりゃ、隠れていたことも忘れて出てきてしまう。それだけだよ」


俺は前方を見つめる。

鬱蒼とした森は静かで重苦しい、まるで前世の俺が陥った精神の墓場みたいだ。


「ようやく怖くなったか?」

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