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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第三章

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名もなき騎士の歌

魔獣騎士団専用の研修所は閉められ、そこに居た全員と(ジェニーさん)は砦へと撤収した。

もちろん俺も砦に連れて来られたが、デュッセンドルフ辺境伯その人が五歳児の俺の話が聞きたいらしい。砦に着くや領主館の領主の執務室に俺は呼ばれた。


執務室で俺を待ち受けていたのは、デュッセンドルフ辺境伯夫妻だけじゃなかった。ケヴィンとケヴィンの兄姉達までいたのだ。

ちなみにケヴィンは次男だが、兄と二人の姉の下、という、末っ子だった。

そして俺は彼等を目にして、ケヴィンが自分の瞳を前髪で隠している理由を知ったのである。


ケヴィンの兄姉達の瞳も青いが、ケヴィンの瞳の色と違うのだ。

彼らの瞳の色はオズワルドにこそ似ている。

普通の人間の青い瞳ってこと。


もしかして、ケヴィンこそ後継ぎという、末子継承みたいな風習の地?


俺の表情から俺の言いたいことに気がついたか、ケヴィンではなくオズワルドが俺にこそりと教えてくれた。ケヴィンの瞳は先祖返りなだけだ、と。


「先祖がえりなだけだったら、ちゃんと跡継ぎはお兄さん?」


「そうだ。余計な事を言う奴除けに瞳を隠しているんだよ」


「目が青いだけでケヴィンを当主に何て、誰がそんな馬鹿を言うんですか?」


「勘違いしたいお年頃なんだよ。若さを失うと若者を傀儡にして欲をかきたくなる病気にかかってしまうらしい」


「ほらあ、聞いた? 瞳の色を気にしているのは、あなたと、オズワルド様のおっしゃるような馬鹿だけよ。さあ邪魔な髪の毛切っちゃいましょうよ」


「そうだよ。今さら俺を押しのけて、お前を、何て言う奴に追従する奴なんていないから」


俺とオズワルドの内緒話のせいで、ケヴィンが可哀想な事になってた。

兄と姉の言葉に心抉られたか、ケヴィンは口元はうぐって感じで歪んでる。きっと前髪あげたら、涙目になっているんじゃないのか。

だけど、仲いいな。

兄弟仲が良いのは、この世界のデフォなのだろうか。


そうだよな、だから俺はこっちの家族に愛されたのだ。

俺みたいな人間でも愛してくれる素晴らしき人達。

だからケヴィンの家族もそうで……きつい。


俺は今、執務室のソファに座るオズワルドの膝の上にいるという状態だが、それでいたたまれなくなっているわけではない。ケヴィンの家で家族内争議を起こし、針のむしろ状態な孤立を起こしたのは自分、という罪悪感でビシビシとSAN値を削られているのである。


この仲の良さそうな家族の絆をぶち壊してしまったのは、真実を歪めて伝えた俺のせいなんだよ。

ほら、奥さんと子供達の辺境伯を見る視線が、まるでゴミを見るようだ。

俺の父と同じぐらい体が大きいアルブレヒト・デュッセンドルフ伯が、まるで子鼠みたいに体を縮めてソファに座っているじゃないか。


なんて見るも憐れな!!

この人の今の不幸は、全部俺のせいだね。

人を不幸にしかしない俺はもう死んでしまいたい。


「ほら、お父様の浅はかさでこんな小さい子が死にそうに傷ついているわ!!」


里帰り出産で戻って来ていたという長女が、全く罪のない父を責めた!!

彼女の目は、孫が生まれてもお前には抱かせない、と語っている。

ぐふぅ、と俺こそ胸が痛んだ。

辺境伯ごめんなさい。

ああ俺のSAN値がメリメリ減る、死ぬ。


けれど、あの包帯男の瞳の青がデュッセンドルフ辺境伯家の青というのは本当だな、と俺は辺境伯の瞳を見つめる。でも、同じ青でも違うんだな、と、結局俺の視線はケヴィンに戻る。


ケヴィンの目が一番あの包帯男に似ているのだ。

もちろん、きっと彼だけ前髪を下ろして目元を隠しているから、似ている、と思い込んだ昨日の記憶が後を引いているのだろうけど。


だって、あの包帯男はケヴィンよりもずっと大人だったし、体つきだってケヴィンと似ても似つかずオズワルドに近い。


「うん。ケヴィンはひょろがり」


だから違うはず。


「おい、ガキ。誰がひょろがりだ」


デュッセンドルフ家一同は、ケヴィン以外が全員笑いをかみ殺した。

うん、同じ行動で、本当に仲の良い家族だってしっかりわかった。

うううう。真実を言うべきだ。


「あの、すいません。デュッセンドルフ辺境伯様と奥様、それからオズワルド様だけになっていただけますか」


「おい、ガキ。俺こそのけ者はないんじゃないか?」


「だって、信じられない話だし」


「私が君の父親だって言う話かな? けれど私はグラナータから、君から自分の両親は死んでいるという告白を受けたと聞いているよ?」


「はい。辺境伯様はお父様じゃないです。僕のお父様がワイバーンに殺されたのはほんとう。でも、僕がこれから言うことは嘘にしか聞こえないから」


「いいから話せよ。あああ、姉さん達と兄さんは席を外してくれ」


「黙れ、ケヴィン。この中で子供はお前だけだ。お前だけ出て行け」


「俺は十五歳です。成人してます」


「そこがまだお子様って言っているの。ほら、あなたが子供子供しているから、こんな小さい子が言いたいことも言えなくて委縮しているでしょ」


「こいつのどこ見て萎縮してるなんて言えるの? こいつはあどけない幼児の皮を被った悪辣なガキだよ?」


「あなたはその逆なのが悲しいわね。ケヴィン?」


ひどい。

ケヴィンたら非難の集中砲火を受けている。

でもこれが大人になった兄と姉の本来の姿ならば、俺のヒューベルト兄さんもデューイ兄さんも大きくなったら、こんな風な意地悪を俺に言うの? それとも、ケヴィンだけの話?


「ケヴィンったら、可哀想。ここにいていいよ」


「急にここを出て行きたくなったな」


「じゃあ出てけ」

「そうよ、バイバイ」

「出たついでに、バリーにお菓子の追加を頼んで」


「ケヴィンが可哀想~」


「お前が泣くなよ!!本気で俺がいたたまれなくなる!!」


「で、君は話してくれる気になったかな?」


俺は鼻をすすると、辺境伯に顔を向けた。

信じてもらえなくても、俺は頑張る、うう、頑張るべきなのだ。

だって何もしないと六日後にバルバドゥス領へのワイバーンの襲来が起き、大好きなお父様とお母様にお兄様達がワイバーンに喰われて死んでしまう。


「うう」


「落ちゆく太陽よ


地平線に沈みゆくお前のその輝きが今日も明日も同じなら


きっと昨日とも同じだろう」


滑らかで深みのある歌声。

俺はオズワルドが突然歌い出した事で、零れるばかりだった涙が止まった。

それで彼を見上げれば、彼は俺の頭をさらっと撫でた。

それから彼は再び歌を口ずさむ。


「昔日の赤い夕陽と同じなら俺をそこに誘っておくれ


遠い昔に失った幸せがそこにある


俺はたった一言 たった一言だけを


俺を待つあの子に伝えたいんだ 愛していたと」


この歌は俺の今の気持だ。

過去に戻って俺は俺を愛してくれた人達に伝えたい。

俺はあなた達を愛していた、と。


「うう、うう」


「お前は家族がワイバーンに殺されたんだったな」


「うう、うん」


「そしてある男に、お前の父親は宝石みたいな青い目をしているから探せと言われたと言っていたな」


「う、うん」


「だけど、お前は両親は死んでいると言った。そしてお前はワイバーンによってこの地に運ばれた。その男はワイバーンを操っているとでもいうのか?」


「ちが、ちがう」


「違うのか?」


「ちがう。ごめんなさい。あの男が言った事は違うの。あの男は、右手と左足が無かった。今にも死にそうで、体中包帯塗れで顔だって分からなかった。でも」


「でも?」


「でも、宝石みたいな青い目をしていた!!彼は僕に言ったんだ。俺を探して、俺に伝えてくれ、せきじつのあか、と。それで気がついたら、ここにいたの。嘘じゃない。嘘じゃないからワイバーンを殺して。お父さんとお母さんとお兄ちゃん達が死なない世界を作って。む、六日後は、僕がいない正しい世界にして!!」

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