せきじつのあか
包帯男が伝えてくれと言ったセリフを、俺はオズワルドさん達にぶつけていた。
セキジツのアカ、と。
すると、その言葉はデュッセンドルフ辺境において、いや魔獣騎士団ではとっても重要な意味があるのか、オズワルドさんとケヴィンが頭を抱えた。
俺がデュッセンドルフ辺境伯の隠し子と彼らに誤解させてしまった時よりも、さらに深刻そうにして、だ。
「昔日の赤って、マジかよ」
「落ち込むな、少年。男は恋に関してはいつも本気だ」
「ぜんぜん慰めじゃないですよ。母も父もお互いしか見えないうざったい夫婦だと思っていたのに、親父が母を裏切って本気で他所の女に入れ込んでいたなんて最悪じゃないですか」
「え、どういうこと? 青い目の人にセキジツのアカって伝えたら、世界が救われるんじゃないの? ワイバーンの襲来なんて無い事にならないの?」
「え? なんて言った」
オズワルドさんの聞き返して来た声は、本気で思いがけないことを聞いた人が出す声だった。
確かに、俺の言っている言葉は荒唐無稽なものかもしれないけれど。
「ワイバーンだと? どうしてお前がワイバーンを知っている?」
「あなたこそどうして知らないの。魔獣騎士団は魔の森から溢れ出す魔獣を倒すのが仕事だってここに来るまでに教えてくれたじゃない。倒してよ。ワイバーンを倒してよ。俺のお父さんとお母さん、お兄ちゃん達を喰い殺したワイバーンを倒してよ!!」
「お前はワイバーンによってこの地に運ばれたのか!!」
オズワルドさんの大声に俺はびくっと震えた。
ワイバーンによって俺はここに運ばれた?
それは違う。
でも、結局はワイバーンがみんなを襲ったから、俺は今ここにいる。
だから、俺はコクリと頷いた。
すると、オズワルドさんは髪を乱暴に掻き上げ、畜生、と吐き捨てた。
「ワイバーンなんぞ百年前に全滅していたはずだろうが!!」
「団長。ラーラが消えたのは、もしや」
「ベヘモットを掴んで飛べるワイバーンだと? ああ、ちくしょう!!」
それから。
それから、オズワルドさんは?
「ケヴィン。宿舎に戻って見習い全員戦闘準備させて町の防備に向かえ。デニー、そのガキと食堂の地下に職員と一緒に潜れ」
「団長は?」
「砦の本隊に知らせを飛ばし、とりあえずハルバードと近隣を巡る。畜生。ラーラが消えたのは密猟者による泥棒なんて甘いものじゃなかったか」
ぎゅひゅいいいいいいいいいいん。
遠くで大きな獣の遠吠えらしき声が轟いた。
とっても、とっても近くだ。
オズワルドさんはその声に対して、皮肉そうにニヤッと口元を歪める。
「お迎え準備もできてねえのに、せっかちなお客様のご来襲か。こっちは仕込みも済んでいねえおぼこばかりだってのに」
オズワルドさんはケヴィンへの命令は取り消した。
非戦闘員である職員は食堂の地下室に籠るように指示を出し、食堂に集めた騎士見習い達には食堂内で己自身達を守れと命令し直したのだ。
そして彼は研修の教官として付随してきた部下六名と連れてきたベヘモットに乗り、宿舎の敷地を取り囲むようにして陣を引いた。
伝言魔法を砦の本隊に送り、ワイバーンに備えるように指示も出したそうだ。
あとは、ワイバーンの襲来に耐えるだけだ。
ちなみに、引退したジェニーさんまで彼等の陣に並んだそうだ。
食堂の地下室の中で俺を守るように抱きしめてくれるデニーさんが、ベヘモットの殺傷能力はワイバーン以上だよ、と笑って俺に教えてくれた。脅えている子供の気をまぎらわせるための軽口だ。なのに俺は、せっかくデニーさんが気安い雰囲気を作ってくれたのに、ぜんぜん笑い返せもしなかった。
でも、だからこそ俺は必死に祈りを捧げた。
オズワルドさん達が生き残りますように。
オズワルドさん達がバルバドゥス領を襲ったワイバーン達を殲滅できますように。
女神様、どうかどうか、僕と大事な家族の運命が変わりますようにと。




