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デュッセンドルフ領の魔獣騎士団

デュッセンドルフ領の魔獣騎士団の団長のオズワルドと、デュッセンドルフ伯の次男だったケヴィンに、俺はとりあえず現在ケヴィン達が使用しているという宿舎に連れていかれることとなった。

もちろん俺は幼児だから、オズワルドさんの抱っこで、だけどね。


町の警ら隊ではなく領の特殊部隊でもある騎士団に連れて来てくれたのは、俺の主張を領内に噂としても広めたくないからだろう。

俺の「僕のお父さんは宝石よりも青い目をしている」という主張に合致する青い目の持ち主が、デュッセンドルフ辺境伯の一族の誰かに違いないからだ。


なんでも、直系の跡継ぎにしかその独特の青い目を受け継がない、という事だ。


これ、代継ぎ時の魔法継承が絡んでの瞳の色の発現現象ということか?

うわ、あいつは未来か過去のデュッセンドルフ辺境伯だったということか!!


それでもってオズワルドさん達は、俺の身の上が本当にデュッセンドルフ辺境伯の一族にあると信じた訳ではないようだ。俺を誘拐したか捨てた人物が、デュッセンドルフ辺境伯家の事情に詳しい事が気になったからであろう。


貴族は庶民の前に滅多に出ないし、魔導具で目の色を隠せるものだってある世界だ。それなのにデュッセンドルフ辺境伯家の独特な瞳の色について知っている、というところがかなり警戒されたのだろう。


あの包帯男は自分の目の色だけでデュッセンドルフ辺境伯家の直系とわかるに違いないと考えたのかと、俺は脱力しながら理解した。

どうりで名前も言わずに俺を転送する無茶ぶりしたなと。

あいつが俺を送った先が、あいつの一族の本拠地、デュッセンドルフだったしね。


でもあと、伝えて欲しい言葉が、せきじつのあか? なんだそれ。

俺は騎士団の旗か印にそんな目印があるのかと、辿り着いたらしき宿舎について目を凝らす。


あれ?


騎士団の宿舎というから高い塀に囲まれた要塞的な所を想像してたが、普通に農場にポツンとある大農家の使用人専用建物のようだった。丸太で作ったカントリーハウス風だからか、うちの騎士団用宿舎よりも牧歌的な雰囲気に感じた。

軍旗も無いし。


「ほんとうにここが騎士のおうち?」


「お前っ」

「ハハハ。ブリューの言う通り。ここは本当の騎士のお家じゃないな。俺達の本当のお家は砦の方にある。今は見習い達をベヘモットに慣らすためにこの研修訓練場に来ているだけだ」


魔獣騎士団はベヘモットに乗って魔獣と戦う部隊の為、騎士になるにはまずベヘモットを乗りこなせないといけないらしい。ここには見習い騎士の練習用として、俺を踏みつぶしかけたジェニーさんとラーラさんの二頭がいるそうだ。


もちろん、宿舎横にある簡易馬房? 魔獣用だとどう呼ぶのかわからないけれど、現在そこには研修生を引率してきたオズワルド以下六名の正騎士のベヘモットが放り込まれているらしい。


「訓練生が十人もいるのに訓練用のベヘモットは二頭だけ? オズワルドさんのベヘモットも訓練に使っているの?」


「俺の? まさか。いつだって未熟な男への手ほどきは、世間を知っている優しい女に頼むのが一番なのさ」


オズワルドさんは俺に片目を瞑って見せたが、オズワルドさんの説明を聞いたケヴィンはうへえと言う顔をした。


「なんだ? 言いたいことがあるのか?」


「世間を知ってても、男を知らない女は意地悪で仕方がない。手ほどきどころかいたぶってきますよ、あの性悪どもは」


「歴戦の男達を知っているから暴れるのさ。一線を退いたあたしたちは、オズワルド様みたいなテクニシャンじゃないと我慢できないのさってね」


「うへぇ」


つまりここの二頭のベヘモットは、年齢的に現場を引退した雌ということですね。

それでもって気性が荒い種だと。

確かに、俺を助ける時のオズワルドさんのベヘモットへの声掛け、なんかとっても腰が低かった気がします。で、二頭いた?


「ジェニーさんとラーラさんは仲が悪いの? 別々の囲いなの?」


「うん、それは」


「余計なことは言わんでいい。ケヴィン」


「すいません」


「おかえりなさい。って、団長。その腕の中の小さいのはどうしたんですか?」


俺達に声をかけ俺について尋ねた男は、うちの領の騎士達にた雰囲気で、しかしうちの領の騎士達よりも少々肉体が弛んでいた。この人もジェニーさんみたく一線を退いた人なのかな。


「ケヴィンの隠し子らしい。今晩はここで預かって、明日砦に連れて行く」


「なっ」


「この動揺。確かにそうですね」


「なっなな!!」


やっぱりオズワルドさんも今来た人も大人だった。子供を揶揄える機会をしっかり逃さない。ケヴィン可哀想。そして真っ赤になって言葉を失ったケヴィンをそっちのけにして、二人して真面目な顔に戻る。ケヴィン可哀想。


「この子のご飯はどうしましょう。大人のご飯しかありませんよ」


「デニー。そこは料理人の腕だろうが」


「ではミルク粥ですね」


「おとなのごはんでだいじょうぶです!!」


「デニー。余計な仕事を増やしたくないって、お前の底意地の悪さに俺はぞっとするな。ほら、お前にやるから後は頼んだ。俺はもう少し仕事がある」


オズワルドさんは俺をデニーへと手渡した。

それでまたジェニーさんの囲いがある方へと踵を返したが、一緒について行こうとするケヴィンに対して来るなという風にケヴィンに手の平を向ける。


「団長」


「ブリューの面倒を見て、もう少し詳しい話を聞いておいてくれ。今はくだらなくとも少しでも情報が欲しい」


オズワルドさんの声と言葉に俺はびくっとした。

先程までのチャラけたものでは無いからだ。

俺は俺達を襲ったワイバーンの記憶を呼び覚まされ、ぶるっと震えた。


「寒いか、ぼうず」


大きくて温かい手が俺の背中を軽く叩く。

それはデニーさんのものだが、俺は彼の大きな手から父の手を思い出していた。

神殿での鑑定が怖いと脅えた俺の頭を撫でた、大きくて優しい父の手。


「団長、俺を連れて行ってください。ブリューはデニーに任せれば大丈夫です」


「暗いだろうが」


「暗いからこそ俺の目は役に立ちますよ」


ケヴィンは前髪をさっと右手で上げた。

彼の瞳は真っ青で、包帯男と同じものだった。

彼が俺の言ったセリフで父親の愛人囲いを想像した通り、デュッセンドルフ辺境伯の次男である彼の瞳はあの包帯男と全く同じ色のものだった。


でも次男って言ってなかった?

跡継ぎのスペアも同じ瞳を持っているの?

ケヴィンの瞳は、デュッセンドルフ辺境伯直系の跡継ぎにしか発現しないらしい、魔力を含んだ青い青い瞳なのである。


彼はその瞳を縋るようなものにして、必死にオズワルドを見つめている。

包帯男が俺に願いを込めて見つめたように。


伝えてくれ!!


「せき、せきじつのあか」


「ぼうず? どうした?」


「伝えなさいって言ったの。セキジツのアカって。ねえ、セキジツのアカって何? それで世界が救われるの?」


オズワルドさんとケヴィンは振り返って俺をまじまじと見つめている。

俺が口にしたのは、そんなに大事な言葉だったの?

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