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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第四章 ブリュー・グラナータになったもんでブルーな気持ちでいられない

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ヴァルターさんはマキャベリズムを学びつつある

ヴァルターが連れて来たリノさん達が、ブリス達を調査団が宿舎に使っている宿に送り届けてくれるそうだ。――あの女将の宿かよ。それで、調査団団長でもある偉いさんのマキュベリとやらは、偉いからこそ宿でなく領主館に滞在しているそうだ。ヴァルターがウンザリと教えてくれた事によると。


だからヴァルターはブリス達を直に砦に連れて行って、マキュベリに恥を掻かせてやりたかったらしいが、そんな愚策してどうするよって俺が止めた。

止める時の実際の口上は「このままじゃ肺炎になっちゃうから」と、二人を慮ったような恩着せの言葉であるが。


彼等は俺に大事な言質をくれたのだ。俺が今後マキュベリとやらからの呼び出しに応じなくても良いと。彼等は大事にしてやらねば。


そしてなぜか我が家に残ったヴァルターは、俺の決定がまずいんじゃないかと心配しているようである。

それで居残った、だよね。俺に何かしたらヴァルターが出るぞ、という意思表示で、抑止力になるように残ったんだよね。俺とデニーのお茶会に参加したかっただけじゃないよね。


と俺はいまいち信じられないヴァルターに、バターシュゼットが乗ったケーキ皿を手渡した。


「うわ。オレンジの香りがふわっと……季節じゃないよね?」


「この熱々なカラメルソースにマーマレードとオレンジリキュール入ってます。本当は砂糖とお酒をクレープに掛けてフランベして、それでカラメルソースにしちゃうんです。今回は煮て作ったオレンジ風味カラメルシロップを掛けただけで、なんちゃってで申し訳ないですけど」


全然申し訳ないと思ってないけど、ちゃんとした人に出すにはどうかなって思って先に弁明してみた。自分で食すだけなんだからそれっぽいのでいいんだよ、で作っただけのモノに便乗してきたのはヴァルターだし。


フランベって怖いんだよ。

火がぼおおおおってなるの。


「ああ。旨い。――女の子だったら嫁に貰うのに。そうしたら母の嫁嫁攻撃が静かになるだろうに、くっ」


ヴァルターはデボラさんのいる砦に帰りたくないだけのようだ。

貴族なんだからもう政略結婚でもしてしまえよ。


「デボラさんのは、そろそろまた赤ちゃんを抱っこしたいわ病ですよ。育ち切ったお子さんばかりになると、母親はその病を発症するらしいです」


「カミラがもうすぐ産むだろ」


「産まれて目が開いて可愛くなった頃に、カミラさんは婚家に戻るんですよね。だから尚更ずっと家にいてくれる赤ん坊が欲しくなったのでは?」


「くっそ。いやな病気だな。それであいつらは帰ってくれるんだよな。ほんと、なんで旦那がうちに里帰り? して来たんだ? あいつは領地でやることないのか? 領主として大丈夫か?」


カミラさんの旦那であるユーグ・バレ氏は、デュッセンドルフとの間に一つ他領を挟んで南に位置するバレ領の領主である。もともとは政略結婚だったらしいけれど、ユーグさんはカミラさんにベタ惚れらしい。


……確かに領主何やってんだ、だな。スタンピードが起きてた前の世界でもきっとこっちに来てたはずで、きっとカミラさんと一緒に死んでたはずだ。


俺はハッとした。


そうか、この世界はもう安全で、愛妻家なユーグ氏を何やってんだと笑い話に出来るのか、と。俺は嬉しくなりながら、ヴァルターを宥める言葉をかける。


「もうすぐ予定日で心配だからいらっしゃってるだけでしょう。カミラさんが愛されている証拠じゃないですか」


ヴァルターは大きく溜息を吐いた。

そこでオズワルドがワハハと豪快に笑う。


「合わねえんだよな、カミラの旦那と」


「煩いな。……ブリュー、カミラが子供産むまで砦に来ないか?」


「ぶふふ。なに自分で地獄を呼んでいるんだよ。こいつは風よけにならないぞ。逆に面倒を人に放り投げる奴だ。それも、とっても面倒な状態にしてからな」


「ああ~わかる。あいつらお咎めなく解放しているし。それも、あいつらを慮ってあいつらが対面を保てるように宿に返しちゃうしな。あいつらをマキュベリに突きつけてマキュベリの恥にした方が今後の面倒が無かったかもなのに」


「そう考えるのはあなたが真っ当だからですよ、ヴァルター。貴族の殆どは自分に恥を掻かせた相手を親の仇よりも憎みます。そんな逆恨みを買うよりも、上手く事が運ばないのは自分の馬鹿犬のせいだって思わせた方がいいんです。あの二人だって、今後は俺に約束した事を守り、マキュベリの呼び出しに応えない俺とマキュベリの間に立って、マキュベリの圧に耐えて下さるでしょうし」


「うっわ。母はどうしてこんな悪辣な奴が俺よりも可愛いって言うんだろうな」


「ヴァルター、悪辣だからだよ。素直で可愛い仔猫よりも、自分で下りられないくせに上ったカーテンレールの上で、シャーシャー鳴く仔猫の方が可愛いだろ」


「そういう可愛さか! 確かに俺もケヴィンも良い子過ぎた」


ムカつくなあ、この二人。

俺は母親が抱っこできないくらいに育ち切った男と、酒場のお姉ちゃん達に抱っこされまくっている男に見切りをつけることにした。

マキ()ベリズムの実践だ。

奴らは自分勝手に自分の欲望を追及してるんだから、俺こそ合理的に動くぞ。


「デニー。今度はブランデーでお菓子を作ろうか」


「団長のブランデーで、ですか」


「そう。大~事にちびちび飲んでる奴あるでしょう。あれにドライフルーツを漬け込んで作るケーキは、きっととっても美味しいって思うんだよ」


「ああ~確かに」


「おい! 分かった、俺が悪かった」


「グラナータ。仔猫に負けてどうするんだ」


「ハハハ。負けてこそ勝ちだ。この仔猫がカーテンレールから落っこちる前に捕まえときゃなきゃいけないだろ?」


「ああ。あいつら余計な事を言っていたものな」


おおう。勝手に俺が突っ込みやすい話題に流れたじゃないか。

俺は今だと聞きたかった話題をヴァルターに振る。


「ねえヴァルター。ダンジョンの宝物箱の宝物って、あいつらが言ってたみたいに、そんなにもガラクタばかりだったの?」


「あ、あ~せっかく自分で距離とっといて近づくか」


「な? 自分から落っこちようとするだろ?」


「確かに。せっかく奴らの手が届かないカーテンレールに乗り移ったのに、奴らが玩具を振った途端に飛び掛かろうとするなんて。先に捕まえときゃなんだな」


「俺は魔道具を知りたいだけです。奴らには近づきたくなんかないですよ」


「ガラクタだろうがあれらは全部奴らの所持品になっている。どうやって見せてもらうつもりだ?」


「普通にどんなだったのって二人に聞いただけなのに。あ、そか。二人とも実は見ていないんだ。物凄い宝物をガラクタと言い張って、凄いのは自分の懐に、そして適当なガラクタをこれですって王に献上するかもしれないのに」


「それはないだろう」

「ないな」


「信用あるんだね」


「当たり前でしょ。調査団の顧問としてアンリ・ジェラール様がご同行されている。彼のダンジョン研究が学術的興味だけで、ご自分の懐を温めるつもりが何もないのは誰もが知っている。けどなあ。臣籍に落ちた単なる学者ですと仰られても、はいそうですかで受け入れるこっちは終わらないんだって!!」


ヴァルターが帰宅拒否なのは、貴族主義の嫌な奴(マキュベリ)結婚結婚煩い母(デボラさん)苦手なカミラの旦那(ユーグ・バレ)だけでなく、王弟殿下(アンリ・ジェラール)様まで領主館にいるからか。


でも、うちに泊まるって、ねえ?

はいそうですかって、受け入れるこっちは終わらないぞ。

マキャベリズム

目的の為には手段を選ばない みたいな

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