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第六話 刀もかっこつけたいので


次の日の卯の刻・太助の長屋

おみつの家



「でねー、丁子さんにそろそろ切ってもらおうかしらーと思って

振り返ったらね、

政吉さんちの猫が咥えて逃げるとこだったのよー



『あらあら。それは政吉さんのとこ行って、その鯵、

弁償してもらいなさいなー』



「でもねー、あの家の奥さん怖いのよねー


いいがかりはよしとくれ!


なんて言われてご近所付き合いが悪くなったらそれこそ困るでしょー?」



『まあ、そうねぇ。あの奥さん底意地悪そうだしねぇ』



「あらあら、人聞きの悪いことを大声でしゃべっちゃだめよ、丁子さん」



『あら、ごめんさい。つい本音が出ちゃったわー』



「『あっはっはっはっ』」



おみつの家では今日もおみつのおっかさんが、包丁の丁子さんとおしゃべりを

しながら朝餉の用意をしております。



「おみつーちょっと頼まれてー」



「はーい」



そとで洗濯をしていたおみつに、おっかさんが声をかけました。



「今日ね、これ作りすぎちゃったから、大家さんのとこへ持ってってー」



「はーい。

そうそう、あの刀、太助さんに押し付け…じゃなくて渡しておいたよ」



「あらあら、ありがとね。

あの刀、耕牛さんに太助に渡しておいてくれって頼まれてたんだけどねー。

あんな太くて長くて大きいの、家の中にいつまでもあったら邪魔だわー

お父っつぁんも何か嫌がってたしねー」



「そうよねー。でも太助さん喜んでたよー」



「あらあら、それはよかったわー」



『おみっちゃん、押し付けてきたなんて、正直によそで言っちゃだめよ?』



「わかってますって。丁子さんは心配性だねっ」



「「『あっはっはっはっ』」」



――



その頃・太助の家



「『へーっくしょい!』」



太助とかに吉は、なぜか同時にくしゃみが出ました。



「うー。なんか噂されてんな。俺も罪な男だぜ……」



『我は何か崇められてるのか何なのか……

なんだか、むずかゆい噂をされた気がするのぅ』



かに吉はなかなか鋭いのですが、太助は相変わらずとんちんかんな勘違いを

かましております。



「さて、今日は朝飯どうするかな」



『そういや夜は花月楼に、また耕牛と行くんじゃろ?

今あまり食わないほうがよいのではないか?』



「ほぅ……刀のくせに鋭いな、かに吉……

その通りだ。

今日はボディガードだけど、たらふくいいもん食ってきてやるぜー!!」



『だから……その名前はなんとかならぬのか。

誰にも名乗れぬではないか。

特に遊女の皆様に』



「お前……

刀が人間の遊女と会話するのに変な気ぃ使ってんなよな」



『何を申すか!

”れでぃ”に気を使うのは”じぇんとるまん”の基本ぞ!

……まあ、お主に言うたところで通じるとは思わないがのぅ』



「それより食いもんだ、食いもん!

今日で何日分食ってこれるかなー♪」



「……いい歳して女より食い物か。

なんだか寂しい男じゃのぅ……

まあ、卓袱料理だからって遠慮なしにガツガツ食うでないぞ。

我が恥ずかしい思いをするはめになってしまうじゃろうが』



「お前、二重に失礼な発言してんじゃねーよ!

食わなかったら人間死んじまうんだぞ!?

女に現を抜かしてる暇があったら、とにかく食っとくんだよ!

遠慮なんかしてる場合じゃねーだろ!」



本当にさもしい太助であります。



『相分かった。花月楼で我を抜くことまかりならん。

末代までの恥晒しの共犯にされたくないでな』



「誰が恥晒しだ、こら!

しかもお前、一人で千年以上も生きといて何が末代だ!

つーか刀が子孫残せるか!」



『朝からいちいちうるさいのぅ。

ものの例えも分からんほど、うつけ者ではなかろう』



「わかってるわ!お前に合わせたんだろうが!」



『まぁ落ち着け。

そんなに”きれ芸”を披露しなくてもよいぞ。

それから”かるしうむ”をもっと摂取しておくと短気も改善されるぞぃ』



「だからそんな言葉、この時代にあるわけねーだろ!」



と、太助のキレ芸がクライマックスになろうかというタイミングで



「おー、邪魔するぞー」



今朝も耕牛が顔を出しに、太助の家へ寄りました。



「なんだか朝からうるさいな……

相棒が出来て、生活に艶でも出たかい」



「誰が相棒だよ!これは物だ!刀だ!」



「まあ、楽しそうで何よりだ」



「俺の話聞いてる!?ぱーどん!?」



『お主……本当に江戸時代の人間か?』



「それはそうと、今日は二人とも一緒に花月楼へ行ってもらう話、

忘れてないだろうな。

昨日シーボルト先生に合わせたのは、先に太助が

「あたおか」

だってことを先生に知っておいてもらうためだからな」



「お前もいきなり”でぃす”ってんじゃねーよ!

誰があたおかだ!」



その時、かに吉から手が生えてきました。

そして、耕牛と一緒に太助を指差すのでした。



「変なとこで呼吸合わせてんじゃねーよ!……ったく。

とにかく夜になったらまた来い耕牛。一人で行っても花月楼なんか

入れてくれねーからな」



「分かってるって。

じゃあまた夜な。太助、かに吉」



『耕牛よ……貴様まで我をその名を呼ぶのか……』



かに吉の寂しそうな呟きも気にすることなく、耕牛はさっさと帰って行きました。



さて、今日は耕牛とシーボルトが花月楼という、それは立派な料亭にて会食をする

こととなっております。


太助とかに吉は、耕牛とシーボルトの護衛ということで花月楼へ随伴する依頼を

受けておりますが、一体どうなることやら。




――今回のお話はここまで。

おあとがよろしいかどうかは、あなた様次第でござ候。



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