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十一話 刀も具合が悪くなるので


「なんだか、だだっ広いなぁ」



『迷子にならぬようにな、主よ』



「大丈夫だ、最初っからどこにいるんだか

ちっとも分からねぇ」



『……そんなことじゃろうと思ったわぃ』



さてさて

亀山社中の武士達から追われる太助とかに吉ですが

案の定、花月楼の中を適当に走り回っているだけのようです。



「しかし……廊下がこんなにつるつるしてると走りにくくて適わんな」



『それだけきっちり清掃が行き届いておるという事じゃ、主の家とは大違い

ぢゃな』



「うるせぇな。今は迷惑なだけだよ全く……」



と、少しばかり見当違いなぼやきをしながら、ぐるぐる走り回っていると

外に出られそうな場所に辿り着きました。



「ここから外に出られそうだな」



『とにかく外に出なければ逃げられぬからのぅ』



と、その時―



ったか!?」



「いや、こちらには居らんようだ」



「もっと捜すんだ!ここで逃したら末代までの恥だ!」



武士達が太助を捜し回っている声が廊下に響き渡ります。



「こりゃあ、さっさとずらからねぇとマジでやべーな」



『あれだけ挑発して異能で決着を付けるなど、あやつらを怒らせて当然じゃ』



「勝ちゃいいんだよ、勝ちゃあ!負けたら元も子もねぇだろーが!」



確か、このお話の主人公は太助だったはずです……


さてさて。


二人が出口のような場所まで来ますと、そこは橋になっておりました。



「よし、ここから外に行けるぞ!」



『でかした主よ!たまにはやるもんじゃ!』



「いちいち変なボケ入れないと気が済まねーのか!」



そして二人は橋を渡り、中庭に出ます。


宴会場からも見えてはおりましたが、それはそれは手入れが行き届いている庭園に

ございます。

芝は丁寧に揃えられ、大きな松の樹がどっしりと立っている風景は、なかなかに

圧巻でございます。

ちなみにこの庭園、今でも見る事が出来ますが、太助が渡っている橋はすでに

撤去され、客人は立ち入り出来ないようになっております。



『主よ、これは……中庭じゃな』



「え、それじゃまだ中にいるのと変わらねーってことか!?」



『うむ。主の頭でもその程度は理解出来るようじゃのぅ』



「一言多いんだよ!この鈍ら刀が!」



『ほれほれ、怒っている暇があったら逃げないと見つかってしまうぞぃ』



「覚えてろ!あとでたわしで磨いてやる!」



――



ちょうどその頃――



「何か、外が騒がしいですね」



「まさかとは思いますが……

太助がまた何か、やらかしてないと良いのですが……」



太助を追い出した後、しっぽりと酒を酌み交わしているシーボルトと

耕牛でありましたが、外の騒ぎが聞こえてきているようです。



「先生、少しばかり外の様子を見て参ります」



「そうですね、太助さんもぜひ連れ戻してきてください」



「それは……何とも言えませんが……」



明らかに複雑な表情で、耕牛が部屋を出ようとしたその時でした。



「Oh!今、庭園にいるのは太助さんではないですか?」



「え!?」



驚いた耕牛が中庭を見てみますと……



「……あのバカ、一体何やってるんだ……!」



太助がちょうど橋を駆け抜けたところでした。

それを見た耕牛は一瞬、目を見開いたまま固まり――


一瞬にて怒髪天を突き、襖を勢いよくガラリと開け、

ドタドタと走り出しました。



「今度という今度は、もう許さんっ!」



時折滑り、壁にぶつかりながらも、耕牛は廊下を走り抜けていきます。



――



「しっかしまぁ、見事な松だな、おい」



『見惚れておる場合か、主よ。早く逃げないと膾切りにされてしまうぞぃ』



「分かってらーな。でもよ、こんな松の木、なかなかお目にかかれねーぞ。

風情のない刀は、これだから嫌だねぇ」



『刀に風情も何もあるか!』



逃げてる最中のはずですが太助は、中庭の立派な松の木にすっかり心を

奪われておりました。右手の人差し指と親指で顎を撫でながら松の木を

見上げております。



「まあ、なかなか来れねーとこだしな。景色くらい目に焼き付けといても

罰は当たらねーだろ。

しかしまぁ……見事なこの松のぶっとさよ……

枝っぷりも負けず劣らず、ご立派だぜ……

おめーにゃ分かんねぇだろうけどなぁ。

これが風情ってもんよ」



『何を呑気な……ほれ、何やら怒号が聞こえてきておるぞ』



追手の武士達はようやく太助を見つけたようです。



ったぞ!中庭だ!」



「そのまま取り押さえろ!今参る!」



太助は追手を見つけて、後ろ髪引かれる思いで再び走り出しました。



「全く……人がせっかく風情に浸ってるってのによ……

どいつもこいつも粋ってもんが分かってねぇなぁ」



『逃走中に風情に浸るでないわ。しかも主が原因じゃろうが』



「大体、なんで俺が逃げなきゃならねーんだよ。

勝ったのは俺だっつーのに」



『異能なんか使うからじゃ。ああいう試合の時こそだな、

もっと、ふぇあぷれい精神を――』



「それを言うなら武士道だろ。しかもこの時代にフェアプレー

なんて言葉、日本にあるかいっ!」



二人はいつものように言い合いをしながら走っておりましたが……

前にある池のそばに、月を見上げながら立っている御仁の存在が

全く目に入っておりません。



そして御仁は月を見ながら、もの思いに耽っている様子。



「まだ出会うたばぁじゃが、あの男ぁ、でっかい事をしよる気がするがよ。

あいつにもっと力っちゅうもんが要るようになった時、

わしらぁ……土佐商会ぁ、それに応えられるがかのぅ……」



と、考え事の最中。


そこへ、あの二人がやってきます……



『だから主は何時まで経っても浪人なんじゃ!』



「それとこれは関係ないだろ!いい加減に――」



御仁が二人に気づき、振り返るよりも早く、二人は突っ込んできて――



「え!?な、なんじゃお主らは!

ああぁぁぁぁ――」



ドシーンッ――


ドボーンッ――


ザバァーン――



三人仲良く池ポチャしてしまいました。

そこまで深くないため、溺れるような池ではありませんが――



「ぶはぁー!

おいお前!どこ見てんだ!危ねーだろ!」



「そ、それはわしのセリフじゃ!お主どこから来おったんじゃ!」



『主よ!早く我を拭き上げるのじゃ!刀身が錆びついてしまうわっ!』



なんだかもうめちゃめちゃです。


そこへ、追手がようやく追い付いてきました。



「待てこらああぁぁぁぁ!」



「そこへ直れええぇぇぇぇ!」



ドタドタと橋を渡ってくる足音。



そして、追手の後ろからは……



「太助ええぇぇぇぇ!今日という今日は許さん!」



追手よりも恐ろしい形相で耕牛が橋をドドドドと、土煙をあげそうな勢いで

渡ってきました。



「やっべ、耕牛のやつまで来やがった!おいかに吉!本気で逃げるぞ!」



『そうじゃな。あれは、ちと本気でまずいわぃ』



「こら待てぃ!わしを引き上げていかんか!」



太助は池からささっと出ると、今まで三味線を弾いていたと思わせるほどの

段違いな速さであっという間に逃げていきました。

そして追手は、太助が逃げ去ったあと、ようやく池の前まで到着しました。



「ああ!これは彌太郎殿!大丈夫ですか!?」



「今、引きあげます!」



武士達に引き上げられた彌太郎は、全身びしょ濡れになってしまっていました。



「は、は、はーくしょい!

うぅ……

今のは一体何だったんだ……」



――



その頃――



ひとり宴会場に残ったりょ……

もとい、梅太郎は太助がつけた刀傷をずっと見つめておりました



「この刀傷、誰でもつけられるものではない……

異能持ち、やはり恐るべし……

普通の人間があれに対抗するとなれば……

これからは銃の時代になっていくのかもしれぬ……」



一人、思案顔で柱の前に座っている梅太郎の前に、花月楼の女将が

スッと現れました。



「コホンッ……

ちょっと坂本さん……

これは一体……何の騒ぎですかっ!

柱までこんな傷つけて……ここで刀は抜かないでって何回も

お願いしてるはずですよ!?」



「ああ!いやこれは……すまんすまん……

だが、この傷はわしじゃないきに……」



「坂本さんのお仲間がやったんでしょ!?どうしてくれるんですか!」



「だからほんと、すまんよって……

と、ところで女将よ。

誰ぞ銃の商いをしておる商人とか、知ってたりせんかね?」



「今日はもう許しませんからねっ!

……銃……鉄砲ですか?そんな物騒なものを……

――それなら確か、手前どものお客様に、お一人いらしたような……

でも、異人さんですけどね」



――



次の日の朝――



「はーくしょい!」



『はーくしょい!』



太助とかに吉は仲良く寝込んでおりました。



『うぅ……主よ……我もその薄っぺらい布団の中へ入れるのじゃ。

寒くて適わんぞぃ』



「どこの世界に風邪ひく刀があるんだよ。しかもおめー、

鉄だから冷てーだろうが。

布団の上に置いてやってるだけありがたいと思いな」



「かに吉さん、寒いの?

うちで丁子さん包んでる手ぬぐいあるから持ってくるね!」



太助の看病をしていたおみつが、ぱたぱたと一度自宅へ戻ります。



「あんまり甘やかさないでいいぞー。

甘やかしてると刀身が錆びついちまうからよ」



『どこの世界に甘やかすと錆びつく刀があるんじゃ!』



しばらくしておみつが戻ってきます



「はい、かに吉さんっ」



『おお、これはちょうどいいわい』



普段は包丁の丁子さんを包んでいるので、あまり長くはないですが

手ぬぐい二枚を使ってかに吉の刀身をうまい具合に包んであげたおみつ。

いいお嫁さんになれそうですね。



『ああーええ感じじゃわぃ。

ちょいとばかり鉄臭いのがいただけないがのぅ』



「お前も鉄だろうが!」



「もう……二人ともケンカしてないで大人しく寝てなさい!」



「『はい……』」



おみつが帰った後、太助はおみつが作り置きしてくれた粥を啜ります。



「全く……このままじゃ寝正月になっちまいそうだぜ」



鼻水を啜りながら、かに吉が答えます。



『主が大人しくしておれば何も起きなかったものを……

ほんにうつけじゃのぅ……ずずっ』



「おめーこそガバガバ酒飲んでたじゃねーか!おめーも連帯責任なんだよ!

今日こそへし折って道具屋に叩き売ってやるからな!」



『たわけが。刀身折ってしもうたら二束三文にしかならんわぃ。

そんなことも分からんのかのぅ』



「うるせぇ!」



こうして花月楼での仕事を終えた二人。

後に耕牛はしっかり梅太郎と折半で、柱に傷をつけた弁償をしたとか

しなかったとか……




――今回のお話はここまで。


これにて


【長崎異能浪漫譚】刀がしゃべるので――


第一部幕引きとさせていただきます。

おあとがよろしいかどうかは、あなた様次第でござ候。



―完―


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