暇の重さ
街は静かだった。
歩道に人影はほとんどなく、空調の効いた建物の中で、生活はすべて自動化されていた。朝食はAIが運び、着替えも掃除も自動で整う。生きるために働く必要は、もう、どこにもなかった。
しかし、目を開けた瞬間から、主人公は重い何かを感じていた。
「今日、何をする?」
問いかけは自由だ。しかし自由であるほど、心は不安で満ちた。
スマホを手に取る。スクロールすれば情報は無限にあり、通知は絶え間なく届く。だが、そこに価値はなかった。誰かの投稿にいいねを押すことも、トレンドを追うことも、自分を生きている感覚にはつながらない。ただ、虚無だけが手に残る。
主人公は思った。
「生命は維持されている。食べ物も住まいも、すべて揃っている。なのに、私は、私である実感を失いそうだ――。」
街の小さなコミュニティセンターに足を運ぶ。
ボランティア活動があると聞いたのだ。人々の中で、自分の居場所を確認したい一心だった。だが、誰かに評価される瞬間、あるいは比べられる瞬間、気持ちは再びざわつく。義務でもないのに、なぜか疲れる。
日が傾きかけた頃、主人公は図書館の奥へと歩いた。古い書棚が並ぶ静かな空間。誰もいない。ここでは、ただ本を整理し、棚に戻すという単純な行為があるだけだった。評価はない。義務もない。誰も見ていない。
それでも不思議なことに、胸の奥に小さな満足感が芽生えた。
「私はここにいる。存在している――そして、何かに属している。」
生きることは保証されている。だが、生きている実感は保証されない。
それを手に入れるためには、自分で選び、関わり、時間を差し出すしかない。
主人公は深く息を吸い込み、静かに本を手に取った。
街は完璧で清潔、生活はすべて自動化されている。
それでも、人は何かに属していないと、生きていることを感じられないのだ――。
ただ、ここにいるだけでいい。
評価も義務もなく、存在することだけが価値となる、この小さな空間で。
主人公はその重さを抱えながらも、少しずつ、自分の時間を生きることを許した。




