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合法だが、間違っている

「税金はパワハラではありません」


課長はそう言って、資料の角を揃えた。

声は穏やかで、感情の起伏は一切ない。

その言い方が、いちばん疲れると私は思った。


「法律に基づくもので、個人的な感情はありませんから」


個人的じゃない。

だから誰も悪くない。

だから誰も止めない。


机の上には督促状。赤い文字。

期限は三日後。

それ以上でも、それ以下でもない。


「事情は理解します。ただ、制度ですので」


制度。

それは誰の顔もしていない。

叱らないし、怒鳴らないし、殴らない。

ただ、淡々と削る。

時間と、選択肢と、呼吸の幅を。


私は聞いた。

「これで、人が死んだら?」


課長は一瞬だけ瞬きをした。

それは、エラーが起きたときの機械みたいだった。


「……因果関係は証明されません」


証明。

証明できなければ、起きていないのと同じ。

起きていないなら、誰も責任を負わない。


帰り道、電車の中で広告を見る。

「誰一人取り残さない社会へ」


誰一人、の中に、

“期限を守れなかった人”は含まれないらしい。


夜、部屋は静かだった。

静かすぎて、考えが大きな音を立てる。


税金はパワハラではない。

なぜなら、加害者がいないから。

なぜなら、怒鳴る声がないから。

なぜなら、合法だから。


でも、

合法な圧力で

逃げ場がなくなったとき、

それは何と呼ばれるのだろう。


翌朝、ニュースでは言っていた。

「不幸な事案です。制度に問題はありません」


問題がないなら、

この重さはどこから来る?


私は思う。

もし誰かが机を叩いて

「払え!」と怒鳴ってくれたら、

まだパワハラだと呼べたのに。


制度は優しい顔で言う。

「あなたのためです」


その言葉が、

いちばん人を黙らせる。

あとがき


この小説は、

「政府はジェンダーフリーやパワハラ、セクハラを否定しようとする。

では、その政府が個人に課す“税金”という行為は、

現代の価値観で見たとき、本当にパワハラに当たらないのだろうか?」

という素朴な疑問から生まれました。


税は法律に基づくものであり、社会を維持するために必要な仕組みです。

この物語も、税金そのものを全面的に否定する意図はありません。

公共サービスや社会保障が、税によって支えられていることも事実です。


しかし一方で、

税やその運用によって生活が追い詰められ、

金銭的な行き詰まりの末に命を手放してしまう人が、

現実に存在していることもまた事実です。


もし、

拒否することができず、

逃げ場もなく、

結果として命が失われているとしたら、

それは本当に「暴力ではない」と言い切れるのでしょうか。


ここで浮かんだのが、

「それは反社会的勢力による金銭の強要と、

構造的にどこが違うのだろうか?」

という、答えの出ない問いでした。


もちろん、政府と暴力団は同一ではありません。

動機も、目的も、法的位置づけも異なります。

ただ、**受け取る側の視点に立ったときの“圧力のかかり方”**は、

本当に無関係だと言えるのか――

その違和感を、物語として残してみたかったのです。


この小説は、

「税は間違っている」と断定するためのものではありません。

また、誰かを糾弾するための物語でもありません。


ただ、

合法であることと、正しいと感じられることのあいだに、

確かに生まれている溝について、

一度立ち止まって考えてみたい。

そのための、小さな思考実験です。


もしこの物語が、

「そんな考え方もあるのか」

「自分はどう感じているのだろう」

と、誰かの中に問いを残せたなら、

それで十分だと思っています。

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