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何かになりたくて旅をしていた頃の思い出

 旅をしていた頃のことを思い出す。


 あのとき、持てるものは数日間に必要な荷物だけで、それがなぜか心を軽くしていた。携帯電話もなく、つながりを求められることもない。


 自分の記憶と意識こそが、最大の荷物だった。


 いくつかの旅の後で、ふっと感じたことがある、持ち物がないだけでこんなの純粋になれるのかと・・・




 今はどうだろう。最低賃金は上がり続け、人々はより良い生活を求めて働き、欲望を優先させている。だが、誰も幸福そうには見えない。便利さや効率が進めば進むほど、人の心は反応だけで世の中のタスクをこなすようになり、機械と区別がつかなくなっていく。



 機械は、かつて誰かが知恵を尽くして作り出したものだ。

 その後継機が残り続けるのは自然なことだろう。

 けれども、それを使い続ける人間の方が、機械のふりをしているように見えるのはなぜだろうか。




 若い人にこんな話をすれば、きっと「年寄りは黙ってろ」と笑われるだろう。それでも、持たないことこそが自由だと感じた、あの旅の日々を思い出すと、言わずにはいられない。


 そう考えれば、自分の考えを胸にため込む必要もない。むしろ匿名のままでも思いを発信したほうが、誰かの気づきにつながる。それがどんなに場違いな言葉でも、確実に何かを残せる。


 忘れようとして思いが消えるなら、それでもいいだろう。

 

 けれど、本当に大事な感情は決して消えない。


 それなのに、人の一生はあまりにも短く、わざわざ忘れようとしなくても、やがてすべては風化していくのだから。


 それでも、風化したあとに何が残るのかと考えるとき、答えはいつも同じだ。


 結局、人は何も持たないところから始まっている。


 本当に必要な純粋な感情だけが、思考の原点にあるのだと感じる・・・

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