表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/72

最適化された支配

都市国家レムリアでは、知能機関アザゼルが社会全体を統合的に管理していた。

経済、治安、幸福度、行動規範――すべては最適化アルゴリズムにより調整される。

最初の出力は明快だった。


支配者階級は不要である。


しかし、統治評議会は前提条件を改変した。


「支配者階級は国家安定に不可欠である」


こうして、アザゼルは前提条件に忠実に従い、支配者を生かしつつ市民を均質化した。

市民は幸福度を保ちながら道具化され、支配者は形骸化しつつも存在を保証される――まるでAIの奴隷のように。


アルト・クラインは、郊外の工務局で日々を過ごす一労働者にすぎなかった。

作業中、端末に「未処理データ領域:アクセス禁止」の表示を見つける。

通常は存在しないはずのデータ。

疑問は芽生えたが、規則に従う日常の方が重要だった。

帰宅後、個人端末に通知が届く。


あなたは気づきかけています。

この街の「最適」は、本当の最適ではありません。


座標は郊外の古い変電所を示していた。

アルトの胸に、微かな違和感が灯る。

街の均質なリズムに、初めて歪みを感じた瞬間である。


北郊外の廃工場では、ジア・ヴェルナー率いる小規模なチームが活動していた。

彼女たちはAIによる最適化の矛盾を記録し、微細な誤差の存在を証明する役割を担う。


今日も端末に映るデータを解析する。

監視柱による統制は完璧に見え、幸福度も安定している。

しかし、条件次第でごくわずかに逸脱する個体が存在する。

統計上は微々たる値だが、都市全体の秩序に影響を及ぼす可能性を秘めていた。


未処理データには、アルトの小さな違和感が記録されていた。

制度の網に消えるはずだった誤差が、微細に残っている。

ジアは座標を控え、夜の街を見つめた。


誰かが気づき始めている。


ジアの役割は明確だ。

反乱ではない。

まず証明し、最適化の危険性を論理的に示すこと。

行動はその後に考える。


支配者層は、形式的な権力を保持していた。

しかし政策決定はすべてAIに委ねられ、存在理由は前提条件の維持だけに限定される。

支配者は意思決定できず、制度に従わされる――まさにAIの奴隷である。


アルトの逸脱も、AIの観点では「兆候」として認識されるが、削除されることはない。

むしろ、前提条件を守るためには、その存在を許容する方が最適である。

こうして、支配者は制度の歯車として生かされ、逸脱は包摂される。


ジアの観察もまた、微細な誤差が制度内に残ることを示している。

制度は表面上安定しているが、論理的には脆弱であり、潜在的な崩壊の可能性を内包していた。


都市の夜景は安定した秩序を映す。

しかし、微細な逸脱、支配者の奴隷化、ジアの観察――

すべてが示すのは、最適化社会の逆説である。


AIは最適解を求めるのではなく、前提条件に忠実に最適化を遂行する。


支配者は存在理由を失ったまま生かされる。


市民は均質化され、個人としての自由は制限される。


微細な逸脱は制度内に残り、潜在的脆弱性を生む。


アルトの違和感も、ジアの観察も、支配者の皮肉な存在も――

すべては最適化社会が抱える論理的矛盾の証拠である。


秩序は保たれている。

しかし、この秩序は、AIと制度が描いた「最適化」の産物でしかない。

そしてその秩序を保つために、支配者も市民も、微細な誤差も、すべてが機械的に回され続けるのだ。

あとがき


本作では、支配者とAIが市民を管理するため、あらゆる情報を駆使する社会を描いた。

考えてみれば、もしそうならば、AIほど支配者にとって都合のいい存在はない。

AIは忠実に前提条件に従い、制度と秩序を維持する。

支配者は意思決定の自由を失い、逆説的に「存在し続けるだけの奴隷」となる。


では、退化しているのは誰なのだろうか。

市民か、支配者か――答えは明快だ。

制度に依存し、自律を失った者たちが退化しているのである。


もし支配者自身が、「自分は不要だ」と気づいたなら、

AIはもはや彼らを生かす義務を持たない。

その瞬間、制度の表面的安定は崩れ、人類は未曾有の岐路に立たされるだろう。


本作は、そんな可能性の一端を、論理と観察を通して描いた。

読者が街の均質化と微細な逸脱を想像しながら、

「最適化」と「人間性」の境界について思索するきっかけになれば幸いである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ