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記憶の手前

前書き


これは、実際に体験した出来事をもとにして書かれた、ノンフィクションに近いフィクションです。

記憶が飛んでしまった時間や、自分の行動がどうだったか分からない不安をテーマにしています。

事実と想像が交錯する中で、心理の動きを追体験する形で書かれています。

記憶がない。

目を覚ますと、前のことはまったく思い出せない。

でも頭の中には、勝手にいくつもの映像が浮かぶ。


誰かを傷つけたのではないか。

無意識のうちに加害者になってしまったのではないか。

世間や家族から責められるのではないか。


どれも現実かどうかはわからない。

ただ一つ確かなのは、加害者の可能性がゼロでない限り、この想像は止まらないということだ。

頭の中で映像が繰り返され、心がざわつく。

それは、知らないうちに心に刻まれたトラウマのようでもある。


歩きながら、手に触れるものすべてが異質に感じられる。

自分の足取りさえ、記憶のない時間を埋めるために勝手に動いているようだ。

もしかすると、体は覚えているのかもしれない。

けれど、意識は一度途切れたまま。


目の前の道を歩きながら、想像はますます具体的になる。

もし誰かを巻き込んでしまっていたら――

もし自分の判断が誰かの生活を壊していたら――

その不安は、どこまでも連鎖して、頭の中で雪崩のように広がる。


記憶がないことは、自由ではない。

過去に縛られず、今を生きられるわけではない。

むしろ、記憶の空白が生む想像と不安に、心は常に捕らわれてしまう。


そして私は考える。

どうすれば、この連鎖を止められるのか。

答えはない。

記憶を取り戻すこともできない。

事実を確認することもできない。

それでも想像は続く。


誰かを傷つけたかもしれない。

無意識のまま、他人に迷惑をかけたかもしれない。

思い出せないからこそ、恐怖は増幅していく。


それでも、私は書く。

頭の中に渦巻く妄想を、文字にする。

自分の心の中で起こっていることを、少しでも整理するために。


ペンを置くと、わずかに息が落ち着く。

文字になった不安は、頭の中で暴れまわるより、少しだけ静かになる。


記憶が戻らなくてもいい。

答えが見つからなくてもいい。

ただ、この妄想を描くことで、

私は自分がまだ生きていることを、静かに確認するのだ。

あとがき


この小説を書いたのは、頭の中で止まらない心の動きを、少しでも整理するためです。

記憶が欠落した時間の間に浮かんだ妄想や不安を、文字にすることで、自分を客観的に見る手がかりにしようとしました。


現実に起きたことを正確に描こうとしたのではなく、むしろ、不安に囚われる心の仕組みや、記憶の欠落が生む心理的空白を表現することに意味があります。

この小説は、その心の動きを追うために、フィクションに近い形で書かれています。

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