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ノイズに花が咲く 第2話:切り捨てた友

ドアの向こうに、リアンが立っていた。

カイの旧友。かつては同じ大学で詩を語り、夜通し理想を語った仲だった。だが今の彼は、全く別の世界に生きていた。

リアンは成功した起業家であり、効率の化身だった。AIを駆使して資本を動かし、世界中の都市システムを掌握するコンサルタント。彼の周囲には、無駄な動きも言葉も存在しない。


「久しぶりだな、カイ。」

リアンは部屋を見渡した。壁際に積まれた紙束、ランプの淡い光、古びたタイプライター。

「まだこんなものを使っているのか。」


カイは笑った。「便利になりすぎると、詩が死ぬ。」


リアンの口元がわずかに動く。「詩か。……君の詩には価値がない。」

淡々とした声だった。

「だが、AIに学習させれば利益に変えられる。人間が作る“情緒”をデータ化すれば、感情経済を動かせる。」


カイはタイプライターのキーを軽く叩きながら言った。

「無駄を切り捨てた瞬間、詩はただのデータになる。それは“感じる”ためじゃなく、“使う”ための言葉だ。」


リアンは肩をすくめた。「意味のないものにしがみつくのは、人間の欠陥だ。効率を求めない人間は、淘汰される。」


カイは少しだけ指を止め、窓の外のネオンを見た。

「欠陥かもしれない。でも、それが僕の生きる理由だ。」


部屋の空気がわずかに震える。

タイプライターの金属音と、外のドローンの低い羽音が混じり合う。リアンはしばらく沈黙したまま、その音を聞いていた。

「君はまだ、そんな無駄なことに時間を使っているのか。」

「無駄じゃないよ。時間を“使う”んじゃない。時間を“生きる”んだ。」


リアンの眉がわずかに動いた。その言葉は、どこか昔の彼を呼び起こしたようでもあった。

ふと、彼は窓際の机に置かれた一枚の紙に目を留めた。

そこには、手書きの文字でこう書かれていた。


“花は咲く必要がない。ただ咲くだけだ。”


リアンは短く息を吐いた。

「君は変わらないな。だが、世界はもう変わった。」

彼は立ち上がり、扉に手をかけた。

「無駄を愛する君が、この街でどこまで生きられるか、見てみたいものだ。」


カイは何も答えなかった。

リアンの背中が光の中に消える。残されたのは、機械のように均一な街の音と、タイプライターのカタカタという律動。


光と影、効率と無駄、数字と沈黙の境界で、時間が揺れた。

窓の外のネオンが瞬くたび、カイの打つ文字は、まるで抵抗の詩のように紙の上に刻まれていった。

彼の手が止まることはなかった。

あとがき


「ノイズに花が咲く」は全4話の短編です。


本作で描かれる人間とAIの違いは、私にとって“非効率”や“無駄”そのものです。

そしてそれは、社会的な成功や富を手にする可能性を低くする素質でもあると思っています。

それでも、その“無駄”の中にこそ、人間の温度やゆらぎがあるように感じます。


今でも自分に問いかけます。

なぜタイプライターなのか。

もっと便利な道具はいくらでもあるのに、どうしてそれにこだわるのか。

手を動かして制作するという行為ならまだ理解できる気もしますが、詩や言葉のような形のないものを書くことは、時に滑稽に見えるのかもしれません。

それでも、本人にしかわからない意味や衝動が、確かにそこにある。

そのわずかな“ノイズ”が、人間であることの証なのだと思います。

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