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バイパスの光

夜明け前の風を切りながら、スクーターを走らせている。

まだ世界が目を覚ます前、街の音が薄く滲んでいる時間帯が好きだ。

信号のないバイパスに差しかかると、背後から車のライトが迫ってきた。

エンジン音が低く唸り、まるで怒りをぶつけるように煽ってくる。


道を譲った。

ほんの一瞬の判断。

その「一瞬」が、命を奪うこともある。

焦りや焦燥は、ナイフより鋭い。

一秒早く走ろうとする誰かの感情が、誰かの人生を簡単に断ち切ってしまうことだってある。


風が冷たく頬を打つ。

身体の震えは寒さのせいだけじゃない。

人間は、いつだって境界の上に立っている。

生と死の、わずかな線の上に。


スクーターのミラーに映る自分の顔は、どこか遠い他人のようだ。

何年も仕事を変えながら、派遣という立場で生きてきた。

昔は、そんな自分を情けなく思っていた。

でも今は違う。

「何も持たない」ことで、やっと見えるものがあると気づいた。


誰かに教えたり、導いたりすることが自分の使命だと思っていた。

けれど、それは自分を飾るための言葉だったのかもしれない。

今はただ、この風の中で生きているという感覚だけが、確かなものだ。


世間が言う「一人前」には、なれなかった。

家庭も地位も名誉もない。

それでも、誰かを見下さずにいられる今の自分が、少し好きだ。


人は肉体という牢獄に閉じ込められている。

痛みも、恐れも、そこから逃げられない。

けれど、その牢獄の中にこそ、光がある。

風を切りながら、ふと感じた。

生きている――ただそれだけで、十分に美しいと。

あとがき


なんとなく、自分には人を見下す癖があると、

もう数十年前に気づいていました。


そのまま進んで、そのまま生きていけば、

きっと自分は、苦しい人生を送っていたと思います。


お金に困ることはあっても、

いまのように、人を見下さずに生きられること――

それは、自責の念から解放された時間であり、

もしかすると、至福の瞬間なのかもしれません。


風の中でふと、そんなことを思います。

生きることは、戦うことではなく、

ただ、誰も見下さずにいられる自分であること。

それだけで、十分なのだと。

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