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タイトル未定2025/10/05 02:02

 前書き


 本作に描かれる病院へのサイバー攻撃の物語は、現実の身代金要求型攻撃と大差ありません。


 実際にこうした手口を生業とする組織も存在しており、日常の裏側で、私たちのデータや社会インフラは脅かされています。


 物語はフィクションですが、描かれる事象はすでに現実に起きうる問題の延長線上にあります。


 AIやシステムの便利さの裏で、犯罪はより巧妙に、より遠隔から操作されるようになっていることを読者に感じてもらうことを意図しています。

 本文(冒頭〜序盤)


 午前九時、都心の基幹病院。外来の待合は人で溢れ、子どもの泣き声と高齢者の咳が入り混じる。

しかし、電子カルテの画面はすべて真っ黒に沈黙していた。


 「システムが落ちています! 再起動しても戻りません!」

看護師の声が響き、医師たちは慌てて手書きのカルテを取り出す。受付では混乱する患者たちの不安げなざわめきが広がった。


 その瞬間、院内のネットワークに不気味な赤い文字が浮かび上がる。


 《四十八時間以内に三〇〇ビットコインを送金せよ。さもなくば患者データは永久に消去され、全てを公開する》


 ランサムウェア。誰もがニュースで耳にした言葉が、現実として突きつけられた。


 病院グループの経営会議室では、幹部たちが異様に冷静に議論していた。


「要求額は想定の範囲内だ」

「支払う資金は確保してある。問題はない」


 主人公のシステムエンジニア、三島は首を傾げた。なぜこれほど落ち着いていられるのか。彼にとって、これは病院の存亡を揺るがす初めての大事件だった。


 数か月前、大量の事務職員が「AI化による業務効率化」を理由に解雇された。病院は最先端AIを導入し、書類処理や予約管理を自動化したと宣伝していた。



 だが三島は薄々気づいていた。あのとき浮いた人件費の一部は、裏で「緊急対応費」に振り分けられていることに――つまりハッカー集団への身代金支払いを想定した資金プールだったのだ。


 「患者の命を守るための措置だ」と経営者は言うだろう。


 だが、三島の頭に浮かぶのは、解雇された人々の顔だった。十年、二十年とこの病院で働き続けた事務職員たち。彼らが失った給料は、今まさに匿名のハッカーの懐に吸い込まれようとしている。


 ――これは未来のためのAI化ではない。犯罪者に脅され続けるための資金繰りにすぎない。


 病院の現場は混乱の極致にあった。


 救急搬送が次々と止まり、手術は延期され、検査も中断。医師たちは紙とペン、ホワイトボードを駆使して診療を続けるしかなかった。


 三島は復旧用のバックアップを確認するが、古いシステムや外部委託先の制約で、すぐには復元できない。


 「システムが戻らなければ、患者が死ぬかもしれない」

三島の胸を冷たい恐怖が駆け抜ける。


 一方で経営層は冷静だ。彼らの頭の中には、「最悪でも資金は確保済み」という数字だけが回っている。


 外部委託先のセキュリティも穴だらけだった。検査センター、電子カルテ管理会社、予約システム――どれか一つが侵害されれば、被害は連鎖する。


 その中で、AIに置き換えられた事務職員の欠員は、まさに「資金プール」を生むために必要だったのだ。


 患者の命は、資本と技術の下で、計算の対象として扱われている――三島はその現実を直視するしかなかった。


 ハッカー集団からの要求はただの金銭要求ではない。


 データの暴露、業務停止、二重の脅迫――身代金を支払えば回避できるかもしれないが、支払えば次の攻撃のリスクも増す。


 まさに、「経営の合理性」と「人命」の間で、現場は引き裂かれていた。


 三島は決意する。

「守れるのは、少しでも多くの命だけだ」


だが、その先に待つのは、AI化の表面の下で計算された冷たい資本の論理と、予測不能なハッカーの脅威だった――。

 あとがき


 本作に描かれたAI化やハッカーの手口は、単なるフィクションではありません。

 AIによって犯罪手口はより巧妙に、遠隔から匿名で操作できるようになっています。


 技術を逆手に取った頭脳戦は、もはや個人の知恵だけでは防ぎきれない領域に突入しています。


 この物語は短編としてまとめましたが、状況次第では長編化も可能です。


 重要なのは、物語の結末ではなく、現実の社会でこうしたリスクがすでに存在しているという認識です。


 そして強調したいのは、従来の日本社会であれば、このような惨状はまず起きなかっただろうということです。

 しかし現代では、資本主義的合理性とAIの利便性が混ざり合い、従来の文化的ブレーキが効きにくくなっています。


 さらに、政府の施策や社会制度が犯罪者にとって都合の良い形で進められている場合もあり、例えばマイナンバーカードの管理や遺伝情報との結びつきが悪用されれば、個人の存在そのものが危険にさらされる可能性さえ現実味を帯びています。


 正直なところ、こうしたことは書かなくても誰もが認識しうる事実であり、改めて言葉にせざるを得ないことに憤りさえ覚えます。


 それでも、この物語を通して伝えたいのは、国家や社会が多額の資金を動かす仕組みと組み合わさったとき、私たちの安全や命が単なる計算上のリスクとして扱われる危うさです。


 ――この国の現実に対して、深い絶望感を覚えずにはいられません。

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