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聖域の静かなる反逆

世界は今、見えない巨大な糸で吊り上げられている。


モニターに並ぶ経済指標、硝煙の匂いが混じるニュース、そして為替の不自然な揺らぎ。

それら全てが、誰かの巨大な意志によって「終末」というゴールへ向かって誘導されているようだった。


男は、静まり返った部屋でその気配を感じていた。

テレビでは、聖職者や「使命」を帯びた者たちが、恍惚とした表情で語っている。「ハルマゲドンは近い。これは神の計画の成就であり、選ばれし者が救済されるための、聖なる通過儀礼なのだ」と。


キリスト教、イスラム教、ユダヤ教。歴史の中で血を流し合ってきたはずの彼らが、今、この「終末の台本」だけは奇妙に共有し、同じ地平を見つめている。


彼らにとって、世界が一度破滅することは、神への忠誠を証明する「儀式」に過ぎなかった。


だが、男の胸に宿っていたのは、熱狂でも恐怖でもなく、凍てつくような怒りだった。


「……これが神への愛だというのか」


男は窓の外を見た。街路樹の葉が風に揺れ、名もなき虫が土の中で季節を繋ぎ、鳥が電線で羽を休めている。彼らにとって、明日という日は単に「生きる」ための地続きの時間だ。そこに「予言」も「選民」もない。ただ、生を受けたという圧倒的な事実があるだけだ。


「人間だけを特別視し、自分たちの物語を完結させるために、この星の全ての生を道連れにする。これ以上の神への冒涜が、他にあるだろうか」


男は確信した。

神がいるとすれば、その神は特定の教典の中に閉じ込められ、人間たちのエゴの「看板」として利用されている。神という名の下に、資源を奪い、核のボタンに指をかけ、生命をチェスの駒のように扱う。自分たちだけが救われる「ハルマゲドン」を待ち望むその姿は、神を敬っているのではない。


神を汚し、命そのものを踏みにじっているのだ。


もし神が、懸命に生きる一羽の鳥よりも、傲慢な「救済」を叫ぶ権力者を優遇するような存在なら、そんな神はいない方がマシだ。


いや、本物の神は、この狂った「使命」を掲げる者たちの外側にいる。踏みにじられようとしている小さな命の鼓動の中にこそ、静かに怒りながら佇んでいるはずだ。有事の足音が近づく。


それは「神聖な計画」などではない。神という名を騙って、生命を冒涜し続ける「人間という怪物」たちが、自らの傲慢さによって引き起こした、ただの惨劇に過ぎない。


男は決意した。


たとえ世界が予定通りの「終末」へ向かい出したとしても、自分だけはこの「正義」に屈することはない。誰かが書いた残酷な台本を破り捨て、ただの一個の生物として、生命への敬意という名の「本当の信仰」を守り抜く。それが、神という名を独占し、生命を侮辱し続ける者たちへの、男にできる唯一の、そして最大の反逆だった。

あとがき


私は幼い頃から、ずっと感じていることがある。


もしこの世界に神がいるとすれば、それは仰々しい教典の中に記されたイエス・キリストのような姿ではない。


イエス・キリストは子供でもその偶像が利用されていると理解できるので・・・



今の年齢になって感じる神は


静かで、名もなき生き物たちがその生を終えるとき、そっと寄り添い、その「命の灯火」を捧げ、受け取ってくれるような存在ではないだろうか。


あるいは、それは神とは認識されないかもしれない。けれど、自分の利益のためではなく、世の中の醜いエゴから外れた場所で、ただ自分自身の道理に従って生きている者がいるならば、その姿こそが「神」ではないだろうか……?


人間が勝手に作り上げた「ハルマゲドン」という名の残酷な台本。

自分たちだけが救われようとする傲慢な救済。生をうけている生物にとって、これ以上の冒涜はない。


ありえないのだ。


神が生贄を欲しがることも、子供を犠牲にしてまで何かを成そうとすることも。それは神を敬っているのではなく


神を、そして生命を侮辱しているに過ぎない。



今、この世界で神を侮辱し続けている人間はあまりに多い。そして、その冒涜を「正義」や「使命」として正当化し続ける限り、この世から争いがなくなることはなく、いずれ私たちは自ら招いた結末によって滅びるのだろう。



もし、このあまりに単純で残酷な真実に気づくことができたなら、そこにはさらなる発展や、本当の意味での救いがあるのかもしれない。……こうして書いている私自身の言葉も、また一つのエゴでしかないのかもしれないけれど。

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