表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/4

プロローグ :蠢く始原の泥



 ──食うか、食われるか。


 その問いは、生まれた瞬間からわたしのコアに刻まれていた。

 柔らかな粘膜が蠢き、ぬるりとした身体が暗黒の泥海を漂う。名もなきスライム。知恵も言葉もない、生物未満の原初の怪物。 


 だが、わたしは他の“それら”とは違っていた。

 わたしには記憶があった。異世界のもの、かつて人間だった何者かの記憶が、スライムの脳髄に溶け込んでいる。


 なぜだ? わたしは、なぜここにいる?

 何もかもがわからない。けれどひとつだけ確かなことがある。


 この世界は、弱肉強食。

 思考した時点で、私は“弱者”ではなくなった。




 第一の喰らい──眼のないヤツだった。

 岩陰から現れた巨大なナメクジのような魔物。粘液の匂いでこちらの存在を察知したのだろう。ぐにゃりと全身を蠕動させながら迫ってくる。


 恐怖? いや、むしろ歓喜だ。

 生き残るために喰らう。──それがこの体に刻まれた本能。




 跳ねた。しなやかなゼラチン質の肉体が、無機質な空洞を弾むように飛び込む。

 敵の腹部に吸着。体内のコアを高速回転させながら、強酸性の体液を噴出する。


 ──ズジュル! ジュボボボボ!


 咆哮。いや、悲鳴か。だがそれもすぐに絶える。

 敵は一分と持たずに溶け、喰われ、同化された。




 力が流れ込む。身体が膨張する。

 記憶も、技も、性質すらも……「喰えば、手に入る」。

 これが、わたしという存在のルールだ。




 スライム。

 忌み嫌われ、最弱と侮られ、冒険者の踏み台とされるモンスター。

 だが──わたしは喰らう。すべてを、すべてを。


 魔物を、英雄を、神を。

 やがて、世界そのものを。




 神祖マザースライム――それが、わたしの名となる。

 だがその名が世界を震わせるまで、あと三百六十五万回の“捕食”が必要だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ