助手の拒絶
次の日。
畑で取れたトマトとキュウリ、とうもろこしを使ったチャロア特製冷製パスタを昼食にして。向日葵に日差しから守ってもらいながら、冷たい麦茶をお供に。
オニキスが分厚い学術書を読んでいる横に簡易机を寄せて、チャロアが過去の依頼書の清書をしているときだった。
ごっ ごっ ごっ。
適当どころか苛立ちを込めて鳴らされたのだとわかるノッカー音。性急に開けられた扉にドアベルは悲鳴を上げた。あまりにも乱暴な様子に依頼人ではないと判断。しかも以前聞いたことのある鳴らし方に、チャロアはオニキスを庇うために立ち上がった。
大きく開いた扉から入ってきたのは金髪青目にオールバックと黒いスーツの男。躑躅峰・オーウェンだ。苛立たしげにずかずかと入り込むオーウェン。
その後ろには茶髪にアーモンド色の瞳、茶色いスーツに丸い眼鏡をかけた男性がなんとかオーウェンを宥めようと言葉を尽くしていた。だが言葉に耳を傾けず、依頼人用のソファーにどかりと座ったオーウェンに、オニキスでさえ眉をひそめた。
「ええい、なぜこの島はこんなにも湿気がある!?」
「そういう立地だからとしか言えないのだけど……、とりあえず汗を拭こうか、オーウェン」
「どうせあの探偵気取りの悪魔の陰湿さが湿気となって島に広がっているに違いない。忌々しい!」
「ああ、もうわかったから落ち着いて。そこのお嬢さん、申し訳ないけど冷たいお茶を一杯くれるかな?」
「は? 嫌ですけど」
一瞬で背筋が凍りつきそうな声で、チャロアは拒否した。
思わずチャロアの方を向いた男二人は、外から入ってきたばかりで熱い体を凍らせるほどの目で見られ、硬直する。
すぐにオーウェンが何か言おうと口を開きかけたが、薄氷の笑みを浮かべたチャロアのほうが早かった。
「返事も待たずに勝手に侵入してきて散々先生の悪口を言ったあげく、当然のように『茶をくれ』? ですか? いやあ、こんな横柄な人初めて会いましたよ。ボクの周りの人達は先生も含め礼儀というものを知っていたので。そもそももうちょっと態度というものがありますよね? ……今ここで警察に『警察官に不法侵入と恐喝されたんですが、そちらの教育はどうなっているんですか?』って電話してもいいんですよ?」
されたくなかったら態度なんとかしましょうね? 副音声が聞こえそうなほど、圧と冷ややかさと棘を多分に含んだ言葉を吐いたチャロアに。オーウェンと丸メガネの青年は気まずくなり押し黙った。
オーウェンにとって、ここはどんな態度をとってもいい場所だと、許される場所だと思っていた。だってあの悪魔の家だから。ただそれだけの理由だった。自分が取っていた行動を他者の家に置き換えて、黙り込まずには居られなかった。
一方、丸メガネの青年は当然のように「冷たいお茶をくれ」等と言ってしまった。最初に入ってきた段階では、彼女は依頼者かもしれなかったのだ。そんな相手の立場がわからない中で頼んでしまったためひどく居心地が悪い。
しかし、少し傲慢なところがあるオーウェンを一息で黙らせたチャロアに興味があった。早速非礼を詫びようと向かい合う。
「すまない、男二人が急に来てあの態度だ。怖がらせてしまったと思う。それと、自己紹介すらしないで『茶をくれ』だなんて失礼だった。僕の名前は産葉・ウェルナイアだ、よろしく」
「チャロアです。……先生の悪口に対する謝罪はないんですね?」
「これが躑躅での通常なものだからね」
「躑躅という家があまり穏やかではないのはわかりました」
「わかってくれて嬉しいよ。ところで……君は誰?」
その言葉に、小さく震えたのはオニキスだ。オーウェンは目ざとくオニキスが震えたのを見ると、付け入るように鋭い声を発した。




