探偵少女(6才)と助手少女(15才)
いつの間にやら三週間が経っていた。その間に、あのうさぎの陶器人形はいつかの強風で飛ばされてきたものだということがわかった。
そうしていま、穏やかな日差しの中。
「見て下さい、先生! ボクの文字アートもなかなかのものじゃないですか!?」
「そうね、なかなか化け物じみているわ」
「えーっ!?」
「うるさいわね」
チャロアが膝をついて屈み、一生懸命にカフェ看板とも呼ばれるスタンド看板に、悩み迷走し描かれた文字は飾りに飾りすぎて怪物みたいになっていた。正直じゃなくても、何が書いてあるのか全くわからない。
しゃがみ込んで首を傾げているチャロアはセンスが死んでいるのだ、オニキスはため息を付きながら思った。
オニキスは呆れて半目になりながら、チャロアからチョークを奪って。脇においてあった黒板消しで、現在描いてあるものを全部消す。黒緑に戻った看板に後ろから悲鳴なんて聞こえない。絶対、聞こえないったら聞こえないのだ。
少しかがんで、何の躊躇いもなく「躑躅森探偵事務所」と堂々たる威厳を持って書いた。
ささやかな拍手の音が後ろから聞こえてきて振り返ると、チャロアが目を輝かせていた。
「先生、その歳で「躑躅」って書けるなんてすごいですね! ボク、書けませんでした」
「……っ、別に。なんとなく書けただけよ」
間違っているかもしれないわ、ちゃんと確認しておくのも仕事よ、助手!
放り投げるような言葉とは裏腹に、そそくさと事務所の扉へと向かう先生こと銀髪から覗く、オニキスの耳は赤かった。
完全に照れ隠しだなぁ、あまりに微笑ましい光景にチャロアの頬が思わず緩んだ。
この三週間、オニキスと色々話した。その中で、なぜオニキスがこんな孤島に一人暮らしという名の軟禁生活を強いられているのかがわかった。
オニキス曰く「ただ情報というピースを人物という枠組みに合うようにパズルを組み立てるのが早いだけ」という言葉。つまり、推理が得意でそれを周りの人間に当てはめ続けた結果。従兄弟? に気味が悪いと嫌われて家どころか本島から追い出されたらしい。
時代がオニキスに追いついてなかった、普通という名の凡庸な物差しでしか物事を測れない人間しか周りにいなかったことこそが、一番の原因なんだろうとチャロアは思っている。そこで一段落、思考を置いておき。
早速、仕事と言われた看板のチェックをする。
どこも間違いなどない、美しい所作の字だ。
だが、懸念が一つ。
「読めますかねぇ?」
躑躅はあまりに入り組んだ文字から、大概の場合ひらがなで表される。大体の人間は突然目にしたこの漢字を見て、「つつじだ!」とくることはないだろう。チャロアだって、自分の苗字に入っていなければ読めないと思う。
初見で訪ねてきて漢字が読めなかったら不安だろうな、ただでさえ不安な状態で来るんだし。
うーん……。立ち上がって背伸びをしながら、チャロアは一つ頷いて。
看板に小さくよみがなを振った。