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第七章.真夜中の幽霊騎士

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80.オディロンの死因

 次の日。


 ベルナール及び警察は、ベンジャミンと共に校内の聞き取り調査を行った。


 セルジュは議会があるらしく、今日は来られなかった。ジョゼはダヴィドに見張られながら、士官学校内のありとあらゆる倉庫を調べた。主に学校で使われているのは三ヵ所で、どれも窓のある倉庫だ。


 倉庫のどこにでも石灰はある。校庭にラインを引くのに使うようだ。


「殺害場所として決定的な証拠はないわね……」


 セルジュの言う通りなら、椅子になりそうなものがあるはずだが、ない。薬品らしきものも特には見当たらない。


「殺害現場は士官学校ではない、ということなのかしら……」


 再び校内玄関に戻って来ると、ベルナールが言う。


「聞き取り調査を行ったが、どうやらオディロンが馬に乗って走り去ったあの日、寮から出た生徒はいないようだ。寮母が、出た人間を見なかったと証言している」


 ジョゼは考えた。


「寮……」

「ここは全寮制なんだ」

「そっちも探すべきね。行きましょう」


 ダヴィドが何か言いたげにちらりとジョゼを見下ろす。その視線に気がついて、ベルナールが尋ねた。


「ダヴィド様は何かご存知ではないですか?」

「いや……」

「こっちも仕事で来ています。気になることがあるならおっしゃってください」


 ジョゼについては協力を惜しむダヴィドも、刑事に言われては話さざるを得なくなる。


「銀の鎧は、校舎内だけにあるものではない。寮にもある」


 ベルナールは頷いた。


「では、寮内で犯行も可能、と」

「いや、しかし……それだと馬をどう連れて来たかが謎だな」


 ジョゼは言った。


「黒い馬だから、闇に紛れてこっそり移動させても目立たないわ」

「しかし、誰も寮から出ていないのだろう?」

「窓から出入りすれば可能だわ」

「だがそうすると、寮内の全員が容疑者となってしまう」


 横からベルナールが言った。


「容疑者が複数人という可能性もありますが?」


 ジョゼは、暗闇を走り去るオディロンを思い出していた。


「……確かに、死後硬直した遺体を馬に乗せ、更に縄で縛るなんていう小細工は、いくら何でもひとりでは無理そうね」


 ダヴィドは汗をかいている。複数犯説が有力になって来た。


「一度、寮内に絞って聞き取り調査をした方がいいわ。特に、オディロンと仲の良かったという三名──アンセルム、バジル、レジスから、ひとりずつ聞き取り調査をするべきです」


 ベルナールが彼女の言葉をメモしている。


「へー、その三人がオディロンといつもつるんでいたんだな……?」


 ダヴィドが静かにため息を吐いた。


「何ということだ……国を守る士官候補ともあろう者が、下卑た真似を」


 ジョゼは彼をせせら笑った。


「娼館には、国を守る士官様がいくらでも下卑た真似をしに訪れますけど……?」


 ダヴィドがむっとして言い返した。


「余計なことを」

「……ふん。士官候補などと賢しらにしている犯人をとっちめてやるわ。私、裏表のある男は大嫌いなの」


 ベルナールは二人がどんな関係にあるのか知らないので、その口論をぽかんと見ている。


 


 寮母は寮内に警官を迎え入れた。


「私も夜はどうしても眠ってしまいますけれど、夜に居た生徒とは全員朝に顔を合わせましたよ」


 寮の中にはいくつか銀の鎧が飾られている。ジョゼはそれを認め、寮母に尋ねた。


「この、鎧の管理ってどうなってますか?」


 寮母は言う。


「寮内の鎧はね、当番になった生徒が磨くのよ。銀磨きの粉をつけて、ごしごしと……そして再び定位置に飾るの。ここにその当番表があるわよ」


 ジョゼは寮母の差し出した帳簿を見せて貰った。


 その日銀の鎧を磨いていたのは、オディロンその人だった。


 


 警官たちが寮へやって来る。彼らは寮の内部を捜索し始めた。オディロンの部屋から甲冑の具足部分が見つかったらしい。


 一方、窓の外を眺めていたジョゼは何かに気づき、寮の外に出て行った。


 寮の裏側をひっそり歩いている彼女を、ダヴィドが慌てて追いかけて来る。


「おいっ、そっちじゃないだろう……!」

「そうかしら?私、気になっていることがあるの」


 ジョゼは足元を気にしている。


「ほら。地面に白いものが、点々と」


 ダヴィドも足元を見つめた。


「!石灰か……?」

「怪しいわ。なぜこんなところに石灰があるの?」


 白い粉のパラパラと落ちている先を辿って行くと、井戸に行き着いた。


「ダヴィド様、この井戸は?」

「ああ、これは……使われなくなった井戸だな。大昔に地下水が干からびてしまったようだ」


 ジョゼは静かに井戸を覗き込んだ。


 井戸の奥には、沢山の白いガラクタのようなものが見える。ネズミの死骸もいくつか確認出来た。


「……白い板……防火性を高めるために、石膏を塗ったものかしら?」

「ああ、多分な。校内にはいくつか枯れた井戸があるが、どれも建築廃材の投棄場所になっている」

「……ゴミ捨て場にしているの?」

「そういうことだ。ゴミでいっぱいになったら、土で埋めてしまう。ゴミが入り切るまではこのように放置しているわけだな」


 滑車を利用して上へ水を引き上げるタイプの汲み取り井戸だ。滑車には鉤縄がついている。ジョゼはしばらく下を見ていたが、真実に思い当たって胸が急にどくんと跳ねた。


「あっ、いけない」

「?」

「ダヴィド様、その井戸に近づいてはなりません。こっちへ」


 不思議がっているダヴィドの服を、ジョゼは引っ張って行った。


「な、何だ……?」


 井戸から少し離れ、「フー」とジョゼは息を吐いた。


「私、分かっちゃいました。オディロンの死因」

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ブレイブ文庫様より
2025.5.23〜発売 !
― 新着の感想 ―
[一言] 石灰というと、学校の校庭にライン引きで使われていたのを思い出します( ˘ω˘ )
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