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第三章.無音の凶弾

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30.セルジュの忠告

 ジョゼはセルジュの馬車に乗せて貰い、街まで戻ることにする。


 すっかり晴れた空に、新しい肩書きと境遇。ジョゼの心も晴れ渡っていた。


「あの選挙区に、また候補を立てないとなぁ」


 セルジュがひとりごとのようにそう言い、馬車から外を見た。


「あら、セルジュったらもうそんなゲンキンな話を……?」

「党としては、そこを真っ先に考えるのは当然だろう。まあ、よくあるのが親族から候補を立てると言う話なんだが」

「世襲議員ってやつね」

「モーリス殿には三人娘がいる。その内の長女の夫がエンゾ様だが、あんなことになってしまって……」

「他の党にチャンスを与えてしまうから、急進党としては早めに候補を出すのがいいわね」

「まあそんなわけだから……下手をしたら王権派から誰かを擁立する必要に迫られるかもな」


 ジョゼは不思議に思って尋ねた。


「同じ党なのに、雑草デラシネ派は王権派を毛嫌いしているの?」

「ここが難しいところで……さっきもほら、政治家が腐ってるって話があっただろう」

「ええ」

「そういう不祥事が明るみになればなるほど、王権派につく人間が増えてしまう。もしそれが雪だるま式に増えたとすると──この国は王政に戻り、議会は必要なくなる」

「そんなことってあるのかしら。王家が再び政治をする日が来るなんてことは」

「今も諮問委員の制度があるから、縛りが緩いだけで王族が政治決定権を有しているとも言えるけどね」


 話が終わって、沈黙が流れる。


 ふと、セルジュが思い詰めたように言った。


「君が党員になった今だから言うけど」


 ジョゼは怪訝な顔を彼に差し向けた。


「その……急進党では、私以外の議員は基本的に信用しない方がいい」


 ジョゼはその言葉をどう受け取るべきか迷ったが、


「あら、独占欲?」


と茶化すと、セルジュは少し悲しげに眉根を寄せた。


「……そう思っててもらって構わないよ。でも、私が真剣に君を心配して忠告してるっていうことは分かっていて欲しい。党内は一枚岩ではない。君も私も、いつどこで足を掬われるか分からないんだよ」


 ジョゼは冗談が外れて少し恥じ入った。自惚れが過ぎたようだ。


 セルジュは続ける。


「ジョゼは、いつか必ず世に出るよ。でもそうなった時、急に誰も信用出来なくなる時が来る。実は私も当選回数を重ねた今、疑心暗鬼になっていてね。担ぎ上げて来る人が増えれば増えるほど、誰を信用していいか分からなくなって行くんだ。ジョゼは血縁がいないから、どこへ向かっているのか分からなくなる可能性が高い。議員の仕事は、主に足の引っ張り合いだ。信用出来る人間を側に置いておいた方がいい。そういうわけで、私の結論としては〝私だけを信じてくれ〟となる。ジョゼが下手をこいて死んだら、私がフルニエ城の次期城主に金を払わないといけなくなるからな」

「あら、最終的にはそれなの?」

「ふん。それ以外に何がある」


 セルジュは憎まれ口を叩いたが、顔は笑っていた。


「賄賂だの殺人だの、そんな議員ばかり見てしまったからね。若手のホープたちでこの党を、ひいてはこの世の中を何とかしなければいけないんだ。真っ直ぐでひたむきな、未来のある私たちが……」

「自画自賛?」


 二人は笑い合ったが、ふとジョゼは寂しくなった。


 今まで誰にもこんな感情は抱かなかったはずだったのだが──


(……いけない)


 ジョゼは首を横に振ると、心地よい環境に甘ったれている自身を鼓舞した。


(私がこの国の王に取り入りった暁には……必ずや憎き王の首を取って見せる。サラーナの民の仇を取るのだ)


 ジョゼは娼館を大きくし、それに伴い知り合いも増え、今や政党に出入りするまでになった。しかし今彼女の目指していることはセルジュの希望とは真反対の、トランレーヌの破壊に他ならない。ジョゼが本懐を遂げた暁には、目の前のこの男が窮地に立たされるかもしれないのだ。


 彼女は今更ながら、そのことに恐怖を覚え始めていた。


 馬車に揺られ、隣でセルジュが寝息を立て始める。昨晩はろくに寝られなかったのだから、仕方ない。


 ジョゼはそんな彼の寝顔を一瞥し、


(セルジュは私を信頼し切ってるのね……)


と、何やら申し訳ない気持ちになるのだった。




 一方、その頃──


 新聞の印刷所が、急進党本部で起きた事件をセンセーショナルに刷り上げていた。夕刊は同様の話題で持ちきりだ。


 夕闇迫る王宮にも、その新聞は届けられていた。


 今日も社交界の帳が開く。


 大勢の貴族が馬車で乗りつけ、華々しく着飾った令嬢たちが王宮へ次々と吸い込まれて行く。


 その様子を見降ろしながら、トランレーヌ王アルバン2世は執事から新聞を受け取った。


 32歳の若き王。母譲りの金色の髪に青い瞳、装束の華麗さもあいまって、民衆からは〝美貌の王〟と称されていた。


「ふーん……事件を解決に導いたのは、急進党員の16歳の娼婦……」


 アルバン2世はひとしきり記事を読んでから、執事に命令した。


「この娼婦とやらを次の裏社交界に連れて来い。面白い話が聞けそうだ」

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ブレイブ文庫様より
2025.5.23〜発売 !
― 新着の感想 ―
[良い点] いやだ、国王陛下……笑顔が黒いわ…… セルジュ君はいい人そうですが、今のところ頼りにはならなさそうですね。大器晩成だから(笑)
[一言] 独占欲キターーー!!!!(大歓喜)
[一言] 王様が10歳若い22歳で、王様ではなく王子様であれば 「おもしれー女」などと言ってハーレムの末席に加えようとし、 ジョゼも「気に入らないのに振り向かせたい」などと言う 恋愛モノが始まっていた…
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