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第三章.無音の凶弾

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28.疑わしきは

 そんな極限状態の中、室内のひとりが


「俺は絶対犯人じゃないからな!」


と叫んだ。何のかんのと喚き続けていたパスカルだったが、ついに恐怖でタガが外れたらしい。


「エンゾが怪しい。じじいを銃で撃って殺し、遺産でもせしめようとしたんだろう!」


 エンゾは呆れたように首を横に振った。


「私に遺産など回って来ませんよ。義父には三人の娘がいるが、誰も家督を継げない。遺産を受け継ぐとしたらモーリスの弟とその息子になるのかな?」


 パスカルは、次にジョゼに矛先を向けた。


「お前は銃を持っていた。モーリス殿に嫌味を言われて、むしゃくしゃして撃ったんだろう。お前が犯人だ!」

「戯言を。司法解剖して薬莢を調べればいいわ。私の銃で撃っていないことが分かるはずよ」


 とはいえ、これを証明するにはこの時点では無理だ。疑われるのも致し方ない。


 パスカルは、クロヴィスを指さした。


「あんたは昔っから、年長者のモーリスに嫌われていたな。庶民に当選回数を抜かされていたんで、散々嫌味を言われていた。積もり積もって今日爆発したんだ。そうだろう?」


 クロヴィスはそれを笑い飛ばした。


「嫉妬される分には何も思わないよ。さすがに、殺したいとまではね」


 そこまで聞いていたセルジュは、パスカルに言い返した。


「探偵気取りとは聞いて呆れる。パスカル殿こそ、モーリス殿に借金をしていたではないですか」


 それを聞いたエンゾは目を丸くした。


「何!?そんな話、聞いたことがないぞ……!」

「なっ!セルジュ、なぜそれを……」


 声が重なって、二人は静かになる。セルジュは続けた。


「党内では有名な話ですよ。知らぬはパスカル殿とラチエ一族だけですね」

「……!」

「案外、秘密というのは筒抜けなのです。地域をよく回っている議員なら、様々な秘匿情報を噂話として手にするはずですよ。有権者の情報網を侮ってはいけません」


 この時点で、セルジュ以外は全員モーリスとの間に何らかの因縁を持っているらしいことが見て取れる。


 ベルナールは各議員の話をメモに書き付けていた。


 パスカルは急に「これは強盗の線が近いぞ!」と話を曲げにかかっている。


 全員個室にいてアリバイが無きに等しいので、犯人探しに躍起になるのも無理はなかった。


 一方、ジョゼはテーブルをじっと見つめていた。ふと何かに気づいてざらつくテーブルを撫で回し、ジョゼはごくりと喉を鳴らす。


「!……これは?」


 ジョゼの発した呟きに耳目が集まった。クロヴィスがようやく微笑んで言う。


「ジョゼ殿は、裏社会では博識で有名らしいね。君は今回の事件について、どう思うかね?」


 ジョゼは散々悩んでから、


「……突飛な意見とおっしゃってもらって構いませんが」


と前置きした上で、ぽつりと言った。


「これは──他殺ではないと思います」


 場が凍った。


 パスカルが笑い出す。


「何を言ってるんだ?銃痕に首切跡のある死体が転がってるのに、他殺じゃない?こんな女のどこが博識なんだよ!」


 ベルナールが会話に入った。


「私も気になっていた。ジョゼが言っているのは恐らく、遺体から流れる血が少ないことにあるのだろう。生体を傷つければ血しぶきが出る。しかし、遺体を傷つけても血は余り出ないんだ。この遺体からは血が吹き出した痕跡がない」


 ジョゼは頷いた。パスカルは怪訝な顔で尋ねる。


「じゃあ、モーリス殿はなんで死んだんだよ?」


 ジョゼは覚悟を持って断言した。


「これは、自殺です」

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ブレイブ文庫様より
2025.5.23〜発売 !
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