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【二巻発売決定】娼館の乙女~売られた少女は推理力で成り上がる~【Web版】  作者: 殿水結子@「娼館の乙女」好評発売中!
第三章.無音の凶弾

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24.女性党員の憂鬱

「お?どうしたセルジュ、女なんか連れ込んで」


 入って来るなり開口一番にそう言い放ったのは、セルジュと同年代の若い議員だった。ジョゼは以前リロンデルで歓待したことがあったので、その顔を知っていた。エンゾ・ド・ルセル。経済学者であり、議員でもある。金髪を後ろに撫でつけ、少し太った男だ。


 セルジュは笑顔を貼り付け、眉をひそめているジョゼの代わりに応える。


「連れ込んでるという言い方は語弊がありますよ……むしろ、私から頼み込んでお連れしたところなのですが」


 そう言って取りなしたが、また別の声が割って入って来た。


「彼女がこの前話していた娼館の主かい?随分華美だが、議員を目指すならもう少し堅い淑女の格好をさせるべきではないのかね」


 そう言って入って来たのは、急進党最年長議員のモーリス・ド・ラチエ。エンゾの義父にあたる。老いた背の低いやせ細った議員である。


 歯ぎしりするジョゼに代わり、セルジュが言う。


「華美……そうですか?若い女性ですから、むしろ地味なぐらいかと思いましたが」


 更に、ずかずかとこちらに近づいて来る男がひとり。


「女がここにいると、奇妙だな。それに男性議員しか認められていない今、彼女を党員にしたところで何の役に立つんだ?」


 三人目の男はパスカル・ランベール。貿易商の倅で議員をしている。


 セルジュは反論した。


「〝今〟役に立つかどうかで連れて来たのではないのです。〝これから〟政治に女性候補は不可欠になるから連れて来たわけです」

「……ふーん?そう」


 ジョゼは更に三人の男に好奇の目で品定めされ、心底嫌な気分になった。


「では契約して行くかい?マダム・ジョゼ」


 この状況を見てもそう淡々と話し掛けて来る老議員クロヴィスに、ジョゼは苛つきながら言い放った。


「ええ、勿論。だって契約した方が、党に命を狙われにくいと聞きましたもの」


 それを聞いて慌てたのはセルジュだった。


「こらっ、ジョゼ……!」

「皆さま、先日は美味しい毒入りワインをありがとうございました。美味しそうだったので川魚にあげてしまいましたわ。美味し過ぎてどの魚も死んでましたけど」

「……!」


 セルジュがジョゼの口を塞ぐが、時すでに遅し。場は凍りついている。しかし彼らの青ざめる様子を見て、ジョゼは溜飲が下がった。どこまでも自分を下等生物と見なしている男たちに、一泡ふかせてやったと思った。


 エンゾは気を取り直し、せせら笑って見せた。


「セルジュ。お前、こんな女を初の女性議員に推したなんて頭どうかしてるぜ?」


 モーリスがやれやれと首を横に振る。


「何の話だか、全く分かりかねます。おかしなことを言う女だ」


 パスカルが怒鳴る。


「嘘つきは議員に向いていない!即刻党本部から出て行け!」


 ジョゼはつんとすまして、言われた通り党本部を出ようとする。セルジュは玄関前で彼女を止めると、その腕を掴んで囁いた。


「……出るな、ジョゼ」

「なぜ?あんな風に馬鹿にされて、出て行かない方がどうかしてるわ。いつか別の党の党員にでもなるわ、ごめんあそばせ」

「……あのさ」

「何よ」

「党内のこういう風潮を変えたいんだ、私は」


 ジョゼはあからさまなため息をついて見せた。


「あなたがやりなさいよ。それから来るわ」

「知らしめてやりたくないか?ジョゼ。君の優秀さを。度胸、知略、人脈。君は、あの男たちの誰よりもそれを持っているんだぞ」

「……本気で言ってるの?」

「では逆に問うが、あんな連中が、ジョゼ以上の度胸と知略と人脈を持ち合わせているとでも?」


 ジョゼは、何かに気づいてセルジュの顔を見上げた。彼は真剣な眼差しでなおも言う。


「ああいう男たちを見て、女性議員の道を拓きたいと思う私は変な男か?」

「うーん……。まあ確かに、あれはないわよねぇ」

「前も言った。軍部には優秀な女性の上官や部下が沢山いた、と。だからこそ、男たちも女に負けまいと切磋琢磨した。しかし、議会はどうだ。爵位を逃し、家督を逃した次男以下が、将来安泰の議員年金を得ようと群がって来る」

「……その言説、あなたにもブーメランなんだけど?」

「口に出しながら、自分にも刺さる発言だと理解している……だからこそ、この党を変えたいと望んでいるんだ。クロヴィス様は数少ない女性参政権の賛同者だから、彼が幹部の今がチャンスなんだ。君にも協力してもらいたい」


 ジョゼは、握られた手をじっと見つめる。それから、真っすぐこちらに熱視線を向けて来るセルジュに視線を戻す。


「ま……あなたがそこまで言うなら、しょうがないわね」


 セルジュはホッと胸を撫で下ろした。


 二人は踵を返し、本部の応接間へと戻って行く。ジョゼは議員たちの冷ややかな目線に晒されながら、セルジュの熱意のみに動かされ、クロヴィスの提示した書類にサインをする。


 ペンを置いたジョゼが顔を上げて視線を泳がせると、セルジュは満面の笑顔で告げた。


「君の歓迎会を兼ねた食事会が夕方に行われる。それまで、本部の中を案内するよ」

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ブレイブ文庫様より
2025.5.23〜発売 !
― 新着の感想 ―
[良い点] >「美味し過ぎてどの魚も死んでましたけど」 この皮肉w ジョゼ、やっぱカッコイイなぁ♪
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