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第一章.スパイの葬列

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11.人買いの根城

 漁師小屋の裏手から出ると、地下に続く階段があった。


「ここは、かつて船に入れる水瓶を保管しておく倉庫だったんだ。今はごろつきどものアジトになっている」


 セルジュは階段を下りて行く。ジョゼは足元の真っ暗闇に怯えながら、滑らないよう注意して歩いた。


 しばらくすると、地下から声が聞こえて来る。


 セルジュはドンドンと戸を叩いた。


 出て来たのは、屈強そうな大男だった。ランタンを掲げ、こちらをしげしげと見つめている。


「こんなところに、何の用だ?」

「……私と同じ背格好の、遺体をひとつ用意して貰いたい」


 セルジュの演技に、ジョゼは息を殺して聞き入る。大男は二人の身なりの良さで、何か察したようだった。


「ま……入れよ」


 話が早いと思ったのか、男は二人を招き入れた。


「いきなりそういった用件を突き付けて来るとは。よほどの急ぎか」

「私は死んだことにして、この国を去る。私に似た男を見繕ってくれ」


 ジョゼはごくりと息を呑んだ。


(あのセルジュが、演技をしている……)


 相手が何を言うのか待っていると、


「後ろの女は?」


と尋ねられた。ジョゼはおっかなびっくりしたふりをして縮こまる。こういう時は、無理に話して矛盾を作らない方がいい。


 セルジュが言った。


「彼女も一緒に、だ」

「ふーん……恋人か?」

「ああ。国外へ連れて行く」

 

 男は頷いた。


「お前もスパイってわけか?本当にこの国は救いようがねーな」

「……お前〝も〟?」


 セルジュがおうむ返しすると、男は白けたように言った。


「とぼけんなよ。こないだの首無し遺体の依頼人は、他国のスパイだっただろうが」

「……答える必要はない」

「前の奴と同じこと言ってるな。ところであんた、名前は?前金は用意してあるのかい?」


 セルジュが口を開こうとすると、奥の扉から痩せた男が出て来た。


「おい!外からやたら足音がするぜ。そいつ、まさかおとり捜査の警官じゃねーのか?」


 セルジュが青くなる。ジョゼが慌てて口を挟んだ。


「そんなわけ……」

「そうだ、そんなわけねえよ。こっちは警察に大金渡して見逃して貰ってるんだ。捕まるわけなんかねえ」


 大男の方は意に介していないようだ。警察によほど裏金を渡しているらしく、捕まらない自信からか涼しい顔をしている。その事実を目の当たりにし、セルジュは唇を噛んだ。


「ほらこいつ、バレたって顔してやがるぜ?」

「んー。お前がそこまで言うなら……今日は念のため出て行って貰うか」


 そう言いながら、大男はセルジュの背中に銃口を突き付ける。


「……!」

「悪いが、今回は契約不成立だ。大人しくしろ。おい、そこの女も歩け」


 二人は腰を落ち着ける間もなく、扉まで歩かされた。その間も、銃口はこちらに向いている。


「よしよし、そのまま階段を上がって出て行くんだ」


 ジョゼとセルジュは階段を上がった。が──


 ジョゼはおもむろに素早く太ももから銃を抜くと、天井を撃った。


 バン!


 大きな破裂音がした──次の瞬間。


「突撃ー!!」


 号令がして、わっと警官が雪崩れ込んで来た。セルジュが咄嗟にジョゼを抱きかかえて壁にへばりつく。階段を一気に駆け抜けた警官たちは、人買いの大男をあっという間に組み伏せた。


「ぐっ!そんな馬鹿なっ……!」


 人買いたちに次々と銃口がつきつけられる。ジョゼはセルジュの腕の中、冷静にその現場を見つめていた。


 警察は、容疑者を殺されては面子が立たぬ。


 しかしその一方で、警察は彼ら人買いから裏金を得て人身売買組織を見逃してやっていた──


 人買いたちに縄が巻かれる。


 それが済むと警官たちは、ジョゼとセルジュを取り囲んだ。


「どういうつもりなんだ?」

「急に逃げるとは何事だ!」


 ジョゼは顔を上げて答えた。


「だってこうでもしなければ、あなたたちはこの人身売買組織を逮捕することはなかったでしょ?」


 警官たちに、少し動揺が見られた。図星のような顔、怪訝な顔の者と、様々な感情のゆらぎが見て取れる。


「私たちは、本気で容疑を晴らしたいと思ってるし、願わくば事件を解決したいと思ってるわ。そう、あなたたちより、よっぽどね」


 よく通る声でそう言ってのけると、ジョゼは再びつんと娼館マダムの顔に戻って階段を上がって行った。セルジュも決まり悪そうな顔をして、彼女の背中を追って行く。


 人身売買組織の大捜索が始まった。


「地下から数人の男女を発見!」

「おい、もっと地下に隠し部屋があるぞ!」


 その声を背中に浴びながらジョゼは「売られて不幸になる人がひとりでも減りますように」と願う。


 階段を上り切った先には、ゆらめく幾多のランタンの中に佇む刑事ベルナールの姿があった。


 彼とすれ違いざま、ジョゼは言う。


「次は、フェドー議員の葬列で会いましょう」


 ベルナールは言った。


「待ってくれ」


 ジョゼとセルジュは振り返った。ベルナールの目からは、ジョゼに対するいつものむきだしの敵意が消えている。


「人買いについて、詳しく話を聞かせて欲しい。今、時間はあるか?」


 ジョゼとセルジュは顔を見合わせ、二人同時に頷くのだった。

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