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【1章完結】天使の國  作者: 遠梶満雪
1章 無限焼却修整都市オピドゥム・アケディアエ
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18節 金色の光

 歓声が上がる。


 喜ぶもの、悔しがるもの、それらが一様に階段状の客席から闘技場を見下ろしている。視線の先には少女が一人。露出の多い服を身に着け、右脚と右手は黄金色の義肢だ。闘技場の上には何人もの人々がいたが、立っているのは彼女だけだった。


 興奮を隠し切れない様子の実況が叫ぶ。


『堂々の一番人気が十七人を捻じ伏せる大勝利! ジュニア王者が冠を手にしましたァ! これが黄金の輝きか、ルーチェエ!! ドーロォオ!!』


 何枚ものチケットが空を舞う。

 その雨の中を機嫌良さそうに歩いて舞台を去る少女は、奥で控えていた紙袋を被った長身の男の背をすれ違い様に叩いた。


「まずは一冠だ。祝勝会と行こうぜ」


 黙って頷いた紙袋の男は、彼女の背を追ってせかせか歩く。


 彼らの価値(・・)は勝利のみ。

 武勇を示し、喰らいつく、その先は──────。


──────────────────────


「この度はお招き頂きありがとうございます、天使フォルティア。教皇シックザール・ザイン・レーツェル、天使フィデミアの名代として参上いたしました」


 薄暗い、窓のない、配管の巡る部屋の中。華奢で病弱そうな少年が礼をする。背後には一人の少女が静かに控えている。


 机を挟んで向かいに座っているのは『研鑽階層』が楽園の王、天使フォルティアだった。


「こちらこそ感謝を述べよう。光明諸島の『暴動』に修整都市の『大火災』、貴殿が居らねば混乱の収拾はつかなかった」


 フォルティアが淡々とした声で応えると、シックザールも席に着く。彼が少し咳き込むのを待ってから、天使は形式じみた会話を始める。


姉上(フィデミア)は元気か」

「ええ、母様(・・)は相も変わらずの鉄面皮ですよ。最近、余程忙しいのか城に引き籠もりがちですが……」


 やれやれと首を振るシックザールにフィデミアが少し口元を緩める。


「まだまだ甘えたい盛りかな」

「まさか! その分ぼくも頑張らないといけなくなるのが嫌なだけですよ」


 幼い教皇は悪辣に目を細めた。


「肩書しか見えてないゴミクズ共の相手をするのも大変でしてね。はあ、さっさと死んでしまいたいものです」

「そう言うな、姉上が悲しむ。僅かなりとも、此度の月桂杯(・・・)が貴殿の慰めになると良いが」


 シックザールは肩を竦めた。


──────────────────────


 帰り道、廊下を歩きながら、シックザールが指を鳴らした。するとすぐさま、後ろに控えていた白髪の少女が彼にひしと抱き着く。


「もう良いの!? シックザール様! ラヴィーネ、頑張った?」

「あー、頑張った頑張った」


 どちらもさほど年の行っていない少年少女の絡みだというのに、淫靡(いんび)な印象さえある光景だった。


「早く外のお宿に戻りましょう? こんな空気の悪いところ、御身体に悪いです!」

「そうだな、──帰ったらご褒美にたっぷり甘やかしてやるよ、ラヴィーネ」


 彼女の細い手首を柔らかくなぞってシックザールは笑う。ラヴィーネは、感激極まりないといううっとりした顔で頬を擦り寄せた。


「シックザール様、だいすき!!」

「ぼくも好きだぜ、ラヴィーネ」


 愛を囁き合う二人は、勝利に飢えた二人とすれ違う。


 ほんの偶然の出会い、しかも顔も知らぬ相手だったが、それでもそのひりついた空気は誰しもが感じるところであっただろう。


 シックザールとルーチェはお互い、相方には気付かれぬように視線ばかりを投げやって、つまらなさそうに鼻を鳴らす。


「月桂杯、ねえ…………」


 シックザールは意味有りげに笑った。

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